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酒とジビエと温泉と【10】

浴場入り口に4人横並びのまま、表情とポーズだけを変え、数えきれないほどのシャッター音を聞いた。 それは長いようで、たぶんそれほどの時間ではなかったんだろう。 視界の端に映る太陽は、一旦カメラが下ろされてもまったく移動していなかった。 体の緊張を解くと、すぐに航生と慎吾が呼ばれる。 二人は黒木くんの指示で、檜のジャグジーへと入った。 長い航生の脚の間に、慎吾くんが向き合った格好で座る。 見つめ合った事で少し恥ずかしくなったのか、航生は顔を真っ赤にして、よく見る幼い照れ笑いを浮かべた。 それを見た慎吾くんはもっと赤い顔になり、ふざけるように航生にパチャッとお湯をかける。 それを咎めるようにわざと顔を近づけたり、プイとそっぽを向いてみたりする航生。 どうやら浴槽の中では擽り合ってるらしく、チャポンチャポンとお湯は大きく波を立てた。 まったくもって可愛らしいじゃれ合い。 腕を組みながらそんな様子を見ていた俺達の隣に、ニヤニヤを隠さない山口さんも立った。 「ちょっとジャグジーのスイッチ入れてみましょうか」 ファインダー越しにかけられた黒木くんの声に頷くと、慎吾くんが手元のダイヤルを回す。 ゴゴゴッという温泉には不似合いな大きなモーター音が響き、浴槽にはあっという間に白い泡がボコボコと大量に浮かんできた。 ヌメりの強い泉質のせいなのか、生まれた泡は簡単には消えないらしい。 バスバブルでも落としたようなその状況に慎吾くんのテンションが一気に上がったらしく、目の前の航生の首に腕を回してキュッとしがみつく。 「すっご~い、モコモコになってきてんでぇ」 「お湯の感触もいいから、すごく気持ちいいですね」 くっつき合ってる二人に何があったのか、少しゴソゴソ動いた慎吾くんに航生の顔の赤さがMAXになった。 「ちょ、ちょっと何...何をしてるんですか!」 「そんなん言うたかて...下から出てくるボコボコがな、メッチャ絶妙なトコ当たんねんも~ん。このほら、ちょうど裏側の......」 「わーーーっ! さ、触らなくていいですから!」 ......あ、わかった。 泡にアソコもココもボコボコッて刺激されて、ちょっとエッチな意味で気持ちよくなってきちゃったわけだ? んで、航生も巻き添えにしてやろうと、少し『こんにちは~』になってる慎吾くんJr.を航生Jr.に擦り付けていってる...ってとこか? まあ、楽しそうなジャグジーでの写真には違いないから黒木くんもそのまま撮影続けてるけど、内心ドキドキしてるかヒヤヒヤしてるかなんだろうなぁ。 「いやぁ、いいイチャイチャっぷりだねぇ。若いっていいなぁ」 カメラを構える事もなく、ひたすら面白そうに眺めている山口さんの脇腹をツンと肘でつつく。 「せっかくの限りなくプライベートに近いイチャイチャなのに、撮らなくていいの?」 「うん? そんなもん...撮ってるに決まってるじゃ~ん」 イヒッイヒッと悪い顔で笑う山口さんは、ジャグジーの屋根部分を指差した。 「あそこのね、梁のとこ...見えるかなぁ...あそこにちゃ~んと予め定点カメラ&高性能集音マイク、セッティング済で~す。イェーイ!」 「定点はアソコかぁ...いや、でも全然わかんないね。すっげぇ小さいんだ...うわ、寝る前に部屋のチェックしとかなきゃ」 「んもう、定点仕掛けてんのはココだけだって。あとはちゃんと俺がカメラ回すか、みんなにカメラ預けて撮り合いしてもらうだけだから!」 「......わかってますって。山口さん、嘘言わないしズルしないもんね。来る時だって、隠れて勇輝の寝顔撮るチャンスあったはずなのに、本当に約束守って撮らなかった」 「そりゃあもうね、斉木さんやら杉本さんやら木崎さんやら、俺の周りの恐ろしいお局様達からきつく言われてますから、『あの子達が本気で嫌がるような事したら許さない!』って」 「おー、怖っ。でも、嫌がる事はしちゃダメだけど、すんごいエロい映像は撮ってこいって?」 「そうなんだよね~。だから、目一杯エロいのよろしく~。いやしかし、あのジャグジーんとこは、みっちゃんと勇輝くんが本命だったんだけどなぁ」 俺達の会話を聞いていた勇輝が、ククッと笑いながらペシッと山口さんの背中を叩いた。 「んなもん、このホテルの宣伝も兼ねてるのに、俺と充彦が入ったらダメに決まってんじゃない。俺らじゃジャグジーがすっごい狭く見えるでしょ」 「ああ、確かに確かに。なるほどね...だから逆に岩風呂の方にはみっちゃんに伸び伸び入ってもらって、こんなに広いんだぞ~って強調するわけか」 「ま、そういう事だろうね。んで山口さん、この後はどうすんの? ここでの撮影終わったら、夕食まで休憩でいいのかな?」 「えっと...ま、休憩でもいいんだけどぉ...ちょっとだけみんなのおふざけ映像なんて撮らせてもらえるとありがたいなぁってね」 「おふざけ?」 「うん。ほら、明日はさ、お昼兼ねて渓流釣りとバーベキューしたり、勇輝くんと慎吾くん、みっちゃんと航生くんの対談撮ったりとかで何かと忙しいからさ、軽めのふざけたエロ映像が......」 「嫌な予感しかしないんだけど、一応聞くわ。何か具体的なプランは?」 「ん? 脱衣卓球とかぁ、浴衣でツイスターゲーム?」 疑問符の付いた口調で話してはいるものの、目をキラキラさせながら悪い顔でニヤけてる山口さんの中では決定事項らしい。 少し困って勇輝を見ると、同じく困ったような顔をしつつもどこか楽しそうにも見える。 まあ、俺ら4人でのそんなバカな撮影なんて、最初で最後かもしれない。 ここは楽しんだ者勝ちって事だろうか。 「中身がこぼれてたら、ちゃんとモザイクかけてね」 「こぼさないように頑張ってね」 俺らのそんな会話の間に、ジャグジーでの撮影は終わった。 ガッチリ右手で前を隠してる航生と慎吾くんは、コソコソと背中を丸めて冷水の出る蛇口の方へと向かう。 そんな姿に『さっき俺の事笑った罰だ、ざまあみろ~』なんてガキ大将丸出しの顔でアッカンベーして、俺は岩風呂へと足をつけた。 腰を下ろし、静かに目を閉じる。 いつの間にか隣に来ていた勇輝も、俺の肩に凭れながら目を閉じた。 若くてエネルギッシュなカップルとの対比なら、やはり穏やかで余裕たっぷりの大人の二人。 ゆっくりと瞼を上げれば、憂いを感じさせるほどにしっとりとした色気を纏った勇輝がカメラに向かって流し目を送っていた。 ......大人のカップル、つまんねー。 本当ならばすぐにその体を抱え上げ、俺の腰に跨がらせたいところだ。 その吸い付くような肌に手を這わせ、中を思うままに突き上げてやれば、恨めしそうに俺を睨み付けながらもすぐに全身を桜色に染めてイイ声で泣くんだろう。 ......ヤバい、形変わりそう... 昨日してないもんなぁとか、勇輝が無駄に色気を溢れさせてるのが悪いんだとか心の中で悪態をつきつつ、異変に気づかれないように様子を窺いながらそんな勇輝のうなじに一度だけ吸い付いた。 それぞれのカップル撮影後、今度はタオルを取り、4人並んでのバックショット。 全員どうにか通常状態へと戻ったモノをプラプラさせながら川の方を向いてピシッと立つ。 予定通りだったのか予想通りだったのか、俺達の足許には小さな小さな隠しカメラがバッチリ俺達の方へと向いていた。

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