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サービス、サービス!【2】
俺達の着替えの様子からずっとカメラを回していた山口さんは、4人が準備を終えて集まった所でそのカメラを下ろした。
「いや~、いいねいいね、ほんとサイコー! やっぱり色気が必要な仕事してるからなのかなぁ...なんかさ、見てるだけで変な気になってきちゃいそう」
チラリと俺の胸元に指を引っかけて中を覗こうとするから、とりあえずピシッとデコピンしてやる。
少し赤くなったそこを手で押さえながら、さして悪びれた顔もせず『テヘペロッ』なんて胡散臭い可愛げを振り撒く姿に、わざとらしく『ハァ~』と溜め息をついた。
「それで、着替え終わったけど...今からどうするの?」
「どうするって...だーかーらー、温泉といえば卓球だよね~。さっきの説明聞いてなかった?」
「卓球するのに、なんでここまで気合い入れて着替えさせるかなぁ......」
企画自体がイマイチ読めないせいか、ついブツブツと不満らしき物が溢れてしまう。
そんな俺に気づいたのか、自分の笑顔の威力を十分に理解してる充彦が表情を柔らかく崩してポンポンと頭を叩いてきた。
「まあまあ、そう言うなって。こんな風に俺達がビシッと浴衣でキメてる姿と、ここからふざけてどんどん崩れてくギャップを見せるってのが目的なんだろうから。ここはさ、俺らもその悪ふざけに乗っかって素直に楽しもうぜ」
「悪ふざけに乗っかるも何もさぁ...脱衣卓球とか意味がわかんないからふざけようが無いでしょ。てか...あれ? もしかして内容理解できてないのって俺だけ!?」
俺の疑問にみんなチラチラとお互い目を合わせ、代表するように慎吾がようやく口を開く。
「えっと...アイドル系のゲイビやとね、結構やってる鉄板の企画やねん。俺もJUNKSの時には何回かやってんけどさ...まあ、卓球版の野球拳やと思うて?」
「野球拳? あ、という事は、負けたら脱いでくって事? 全裸で卓球するって意味じゃなく?」
「勇輝はお利口さんなのに、時々変なトコ馬鹿だな。全裸でやるなら、まず最初に浴衣に着替える必要無いだろ。それにそれなら、『脱衣卓球』じゃなく『全裸卓球』だから」
「う、うるさいっ! 馬鹿って言うな、馬鹿って。そもそも、ゲイビでの人気企画なのに、なんでお前が知ってんだよ!」
意味がわからないまま変に勘違いしてた自分が恥ずかしくて、両手で顔を隠しながら充彦に八つ当たりしてしまう。
充彦は困ったみたいに眉間をポリポリ掻き、チュッて俺の耳にキスしてきた。
「まあ一応俺もゲイビ経験者だから。顔はモザイクでいいから、リゾート物に出て欲しいって連絡来た事あるんだよ。あ、勿論知ってるだけで経験は無いからな」
「俺も知ってるだけで未経験ですね。集団でワイワイするって内容のビデオからは一切お誘いかからなかったんで」
顔を覆っている指の間から、充彦と航生をチラチラ交互に見る。
「知らないのが俺だっただけで、お前らもやった事は無いの?」
「無いよぉ。正直、仲良くもない野郎どもとそんな事しても、それこそ楽しくもなんとも無いだろうから『やってみたかったのにぃ』なんて事は思わないけどさ、この4人でだったらそれなりに遠慮なく楽しめると思わない? 頭悪くひたすらエロく、すっごいばか騒ぎしてさ」
「俺はね、ほんとはちょっと憧れてましたよ。一人ぼっちでいっつも縛られたり殴られてたりしてたから、あんなワイワイやってる撮影に参加できたらもう少しビデオに出る事が嫌じゃなくなるのかなぁって思ってましたし。だからね、ちょっと恥ずかしいんですけど...初めてのその憧れの温泉卓球がこの4人でっていうのが、実はすごく嬉しいです」
二人からそんな風に慰めるみたいな声をかけられてしまうと、いつまでも恥ずかしいって拗ねてるわけにもいかない。
「俺、卓球自体やったこと無いから...すっごい下手くそだよ?」
「やったことあれへんの?」
「......無い。友達と温泉行ったりした事も無いし、学校でも大体一人だったから一緒にやってくれる友達なんていなかったし。つか、一人でできないスポーツはどれも...学校の授業以外でやった事なんて無いから」
つい楽しい場所に不似合いな言葉が零れてしまった。
愚痴っぽくて恨みがましいこんなセリフ、言うつもりなんてなかったのに...とギリギリ唇を噛む。
でも、やっぱり本当の事だから。
お客さんとの会話にも役立つからってありとあらゆるスポーツのルールは調べたし、ビデオやテレビで観戦もしてきた。
知識はかなりあるはずだと自負してる。
だけど実際にやった事のあるスポーツも遊びも、大抵は一人で完結できる物ばかりだった。
ダーツにビリヤード、水泳にジョギング...ああ、フリークライミングなんてのも試した事があったっけ......
いらない事を言ってしまったと改めて顔をしっかり手のひらで覆っていると、いきなりギュッと抱き締められた。
「そしたら、これからは俺らと色んな遊び、していこな? 俺、昔テニスとかもやってたから教えてあげられんで」
「俺はあんまり教えてやれるようなスポーツやってないなぁ...バスケにバレーボールに陸上だし。とりあえず中村さんとアリちゃん混ぜて、3 on 3くらいから始めてみる?」
「俺も勇輝さんと同じですよ。授業以外でほとんど運動も遊びもした事無いですもん。これから覚えていくんで、ルールとか教えてくださいね」
こんな事で慰められるとか、ほんと情けない。
けどそれ以上に『俺って愛されてるなぁ』って胸の中が幸せで熱くなってきた。
「どう? いけそう?」
いつまでも慎吾の腕の中にいるのがどうにも面白くなかったのか、充彦が俺達をバリバリと引き剥がし、代わりにすっぽりと自分の腕の中に俺の体を閉じ込める。
その長い腕に包まれる感触が気持ちよくて、その胸元にしっかりと顔を擦り寄せた。
「勇輝くんと航生くんが卓球未経験なんやったら、ここは思いきってダブルスとかにしてみる? 片方のミスは連帯責任みたいな?」
「うん、それもいいね。山口さん、構わない?」
「どんな形でもオッケーオッケー。要は楽しく脱いでくれりゃいいんだも~ん」
「......絶対航生より先に脱がない」
「ん? 俺こそ慎吾さんの裸は簡単に晒したくないんで、勇輝さんをとっとと素っ裸にしちゃいますよ」
「航生に挑発されるとか、世も末だわ。つかお前、航生のくせに生意気」
「充彦さんみたいな事言わないでくださいよぉ」
充彦の胸元から顔を上げ、みんなの顔を見回す。
俺を見るみんなの顔はとても優しい。
これからはこの4人で楽しい事も辛い事も色々と経験していけるんだと思ったら、俺はいつの間にかヘラヘラと笑っていた。
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