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サービス、サービス!【4】

なんとな~くラケットに球を当てられるくらいまでなった頃に、ようやく充彦と山口さんが戻ってきた。 「なんであんな簡単な事にあんなに苦戦するかなぁ......」 「ごめんごめん。いやほんと、みっちゃん来てくれて助かったぁ。ちゃんと後ろにコーン並べてんのに、パッカパカ板が倒れてくるんだもん」 「山口さん、びっくりするくらい不器用なんだね。あんなの、コーンの位置をちょっと考えればわかるだろうに。あ、慎吾くん、二人の卓球具合はどう?」 充彦がチラッと慎吾を見たから、その慎吾の隣でラケットを握りしめて『フンッ』とガッツポーズを取ってみせる。 そんな俺の姿は目に入ってるはずなのに、充彦は完全に俺をスルーして慎吾の方に顔を向けた。 ......まあ、なんかちょっと口許がフニャッと弛んだから、たぶんわざと俺を無視してるんだろう。 「うん、どうにかこうにかラケットには当たるようになったかなぁ。ま、飛ぶ方向は神のみぞ知るってとこ?」 確かに、何度か航生とラリー的な事をやってはみたけど、これがもう続かない続かない。 本当に、改めて世界大会とか出てる選手のすごさを実感した。 「ま、当たるようになっただけでもマシか。勇輝は、もう王子サーブ試したり無理矢理スマッシュしようとしたりしちゃダメだぞ」 「......うん、もうしない。つか、できないってわかった」 「はい、よろしい。じゃあ、ダブルスでの試合の予定だったんだけど、ちょっとルール変えま~す」 「ん? 変えるって何が? シングルに戻すって意味?」 「それも当然無理でしょ? 勇輝と航生が当たったら、二人とも一気に全裸で瞬殺だから。かといって、俺とか慎吾くんと当たったら、サーブ前から全裸確定みたいなもんだし」 「そしたらどうすんのん? 卓球諦める?」 「いいや。例え仕事でファンサービスの一環とはいえ、せっかく初めて勇輝も航生もこうしてラケット握ったんだしな。ここはやっぱり温泉卓球楽しみたいじゃない?」 ようやくきちんと俺と目を合わせると、充彦はフッと目を細めた。 あ、そうか...家庭の事情もあってこういう遊びにまるっきり縁のなかった俺や航生に、一回くらいは経験させたいって思ってくれてるのか。 この4人でだったら、下手は下手なりに楽しめるんだろうな...... 「という事で、これより超変則でのダブルスを行います」 「はーい、せんせ~い。超変則ってどういう事ですか~?」 「先生って言うな。えっとね、大まかなルール自体は正規のダブルスと同じ。レシーバーは球を返すたびに交代な。んで、勇輝と航生は、自陣に一回バウンドして相手コートにボールが入ったとしてもオッケー。とにかくネットさえ越えれば良しとします。これ、サーブも同じくね。それでだなぁ...これだけだとあまりにもハンデとして弱いと思うんで、俺と慎吾くんはラケットの代わりに...これ使います」 充彦が差し出したのは、ツルッとしててものすごく薄手の、安そ~なスリッパ。 緑のね。 あのいわゆる『便所スリッパ』ってやつ。 「うっわ、なるほど考えたなぁ...確かに、別に俺らもそない上手いわけちゃうし、これ使うたらエエ感じにハンデになりそうやわ」 「だろ? こんなの使ってりゃたぶん俺らも球をちゃんと当てるのが精一杯だって。まともに攻撃なんてできないだろ? さて、山口さん、ルールこんな感じで構わない?」 「ああ、ちょっと待ってみっちゃん。脱衣に関してのルールが決まってへん」 「ルールも何も、ミスった方が一枚ずつ脱いでくだけなんじゃないの?」 「せえけど、それやったら下手すりゃ3球で終われへん? 連帯責任のストレート勝負なんやろ?」 慎吾の言葉に、それまで自分の言い出したルール改正は完璧!みたいに堂々としてた充彦は『なるほど......』と黙り込んでしまった。 あまりに俺らが下手すぎるせいで充彦は悩ませるし撮影は中断するし。 それを思えば、こっちも申し訳なくて黙り込んでしまう。 そんな俺らのちょっと嫌な沈黙と破ったのは、ガサガサと紙か何かが激しく擦れ合う音だった。 何かと音の方に目を遣れば、山口さんは楽しそうに笑いながらあのわざわざ持ち込んできてた箱を目一杯振っている。 「何やってんの?」 「フフフフッ...そんな時こそ、この箱の出番ですよ!」 得意満面でタンッと箱を卓球台へと置く。 マスキングテープで妙に綺麗に飾られたそれは、てっぺんに大きめの丸い穴が開けてあった。 「それ、何?」 「これ? 卓球があまりにも盛り上がらなくて撮影できる状態じゃなければ、これ使ってさっさとツイスターにいこうと思ってたんだけどね...もう、卓球で使っちゃお!」 「いやいや、ツイスターで使おうが卓球で使おうが構わないんだけど、だからそれ、何?」 「んふふ...実はぁ、罰ゲーム用の指令書が入ってんの。例えば『上半身裸』とか『帯を外す』とか『パンツ脱ぐ』とかね。で、負けた方がくじ引きみたいに中から指令書を引くと」 「いやだから、それじゃ、あっという間に終わりじゃない?」 「だ~か~ら~、そういう脱衣系の指令だけじゃないんだなぁ...色々とね、他の指令も入ってるからね、それなりに緊迫感を持って楽しめるようになってるんだって」 はあ、なるほどなるほど。 負けた方があの箱から指令書引いて、それに従うって事か。 何が書かれてるのかちょっと怖いけど、でも、何が書かれてるのかちょっと楽しみ...かもしれない。 そんな気持ちが顔に出てたんだろうか、充彦の大きな手がポフポフと俺の頭を叩く。 「あんまりにもエグい指令は無いよね?」 「ん~? さあねえ。ただ間違いないのは、ファンのみんなが喜ぶ指令でいっぱいよ。元々ツイスター用だったからさ、二人用の指令ばっかりだったんだよね...だから、ダブルスにしてもらって良かったわ」 俺はチラリと航生を窺い見る。 俺の目線に気づいた航生は、『どうしよう?』と慎吾をチラッと見る。 そんな航生の様子に、慎吾は『どうする?』と充彦に助けを求めるように目を遣る。 そして充彦は...ジーッと俺の目を覗き込んで、ニコッと笑った。 「勇輝はどうしたい?」 「え、あっ...あのさ...俺どうせ試合では役に立たないだろうし、たぶん下手過ぎてファンの人とか全然楽しくないと...思うんだ。それなら、まあそういうお楽しみでも無いとお金払ってもらうのは申し訳ないというか......」 「俺は別にそんな事聞いてないよ?」 「......やってみたい...です。ほら、この4人でそんな馬鹿馬鹿しい企画とかやったら...楽しそう...だし」 「うん、俺らみんなでやったらすっげえ楽しいだろうな。いや、絶対楽しいよ」 充彦がキュッと俺を一度抱き締めると、改めて山口さんの方に向き直る。 「じゃ、これよりヘボヘボ卓球大会始めるから、カメラの準備よろしくね」 山口さんは満面の笑みでピースサインを作ると、カメラを構えるよりも先にあの箱の中身の確認を始めた。

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