347 / 420
サービス、サービス!【6】
航生がピンポン玉を手のひらに乗せた。
案の定、ものすごい必死の形相。
当然その体もガッチガチになってるだろう。
しかし今、そのサーバーである航生よりもはるかに緊張し、鬼みたいな顔になってる奴がいる。
......俺の隣に。
まあいくら顔だけ鬼みたいでも、その胸元は大きくはだけて中のお豆さんはチラチラ見えてるし、顔だけじゃなく首まで真っ赤っかになってるけど。
「充彦ぉ、ほら、リラックスリラックス」
「お前が言うな! ったく...俺はお前にあんなに優しく声かけて、丁寧に卓球だって教えてやったって言うのに......」
「仕方ないじゃん。罰ゲームだったんだし」
「うるさい、うるさいっ! 途中から変なスイッチ入ってノリノリだったじゃないか!」
「......あのぉ...サーブしていいですか?」
ネットの向こうから申し訳なさげに聞こえる声。
俺達二人の様子を見て、慎吾はどうやら必死に笑いを堪えてるらしい。
一度コホンとわざとらしく咳払いをしてその慎吾を睨み付けると、充彦は気合い十分の顔でレシーブの構えに入った。
......ま、右手に握ってるのは、卓球台に同化しそうな緑の便所スリッパですけどね。
「絶対負けない!」
そんな充彦の構えを準備オーケーと判断し、航生がコツンと軽くラケットを玉に当てた。
なんとまあ、見事に自陣にワンバウンドすると、その玉はちゃんとネットを越えてこちら側に着地する。
んだよ...上手いじゃん。
てか、もしかして俺が恐ろしく不器用なだけなのか!?
なんか『航生よりも下手なんじゃないか?』と思った途端、俺も変にメラメラと燃えてくる。
充彦は、それがスリッパでできる限界だったのか、手元に来た玉の勢いをわざと殺すようにスナップを使い、向こうのネットのギリギリの所にポトンと落とした。
うわっ、充彦も上手い...スリッパだけど。
ほんの僅かにしか跳ねなかったピン球。
けれど反射神経の恐ろしくいい慎吾は、辛うじて2バウンドになる前にその玉の下へとスリッパを差し込む。
回転も何もなく、ただフワリと浮き上がっただけの玉。
こちら側に返ってきた所で、さらにフワリと真っ直ぐに浮いた状態で俺の前へ。
......チャンス!
横で『やめろ!』とか何とか聞こえた気もするけど、もう遅い。
浮いた玉をしっかりと見つめながら、俺は大きく草を薙ぐようにラケットを振った。
タイミング、完璧!
絶好のスマッシュチャンス!
......と思ったんだけどなぁ...
「お前はぁ...なんでフルスイングしてんだよぉ......」
嘆くようにガクリと膝から崩れた充彦。
そして同じく膝から崩れる俺。
まあ俺は、勢い余って思いきり卓球台に膝ぶつけたからだけど。
まともに顔に当たったせいで、眉間もすごい痛い。
崩れ落ちた俺と充彦の間を、向こうに返せなかった玉がコロコロと乾いた音を立てて転がった。
「あれ~? タイミング、完璧だったのになぁ」
「あぁ!? スマッシュの? 完璧だったよ、タイミングはな! 但し、当・た・れ・ばの話だ」
くそっ、航生はちゃんと打てたのに、なんで俺は打てないんだよ!
そうだ、このラケットが小さいから悪いんだ...そうに違いない!
「はいは~い。二人ともしゃがんでるとこ悪いんだけど、罰ゲームの紙引いてね~」
「は~い」
恨めしそうな目で俺を見つめる充彦をものともせず、俺は再び例の箱に手を突っ込んだ。
しっかりと中身をかき回し、その一番底の方にあった紙を抜き取る。
山口さんにそれを渡すと、その顔は驚くほど悪~い顔でニターッと笑った。
「読みますよ~。『パートナー相手に悪代官ごっこをしてください』」
「悪代官ごっこ?」
「この場合は勇輝くんが代官で、みっちゃんが町娘ね。んで、帯の端っこを勇輝くんがガーッて引っ張って......」
「ああ、なるほど。充彦が『あーれー』とか言いながらクルクル回る?」
「なんで俺ばっかりなんだよ!」
心底嫌そうな顔をする充彦の肩をポンと叩き、小さく『諦めろ』と首を振る。
項垂れたまま、それでもなんとか立ち上がった充彦をその気にさせようと、俺より高い所にある肩をグイッと引き寄せた。
「のう? 今宵はそなたもそのつもりで参ったのであろう? ほれ、良いではないか」
「お許しください、お代官様。私には許嫁が......」
頑張って裏声で喋ってる充彦が恐ろしく気持ち悪い。
元々高めの声なんだからあんまり違和感無いかと思ったんだけどなぁ......
肩を抱き寄せたまま腕を回し、そっと帯の結び目を解いてその端をしっかりと握った。
「ほ~れほれ、良いではないか」
手にした帯をグッと引く。
ここからは俺じゃなく、充彦が率先して動かないといけない。
まあこういうのって二人ともAVの撮影で経験済みだし、充彦もわかってるだろう。
......あ、わかってるから嫌がったのか。
「あ~~~れ~~~」
ものすんごい低いテンションのまま充彦はクルクルクルクルとその場で回り、俺はその速度に合わせて帯を手繰っていく。
残念ながら3回も回れば帯はハラリと落ち、充彦は情けない事に『粋な浴衣に、腰回りを膨らませる為のタオルとそれを押さえる腰ひも一本』という姿へと変わった。
ほんと、呆気なく一瞬で。
「うっわ、みっちゃんの格好、笑われへんレベルで不細工ぅ」
「だから嫌だったんだよぉぉぉ...なんなんだよ、罰ゲームって! 勇輝無傷じゃないかよぉ」
「無傷じゃないってば。ほら、悪代官なんてやっちゃって、イメージダウンもいいところ」
「よく言うわ! ビデオの中では連続レイプ犯とかやってたくせに!」
「はいはい、みっちゃん落ち着いてね~。試合再開するよ~」
クルクルにもあーれーにも大して触れないという、充彦にとっては更なる仕打ちの山口さんはあっさりゲームを続けようとする。
そんな山口さんに、まるで捨てられた子犬か!?みたいなつぶらで哀れな目をした充彦が縋りついた。
「思ったほど面白くなかったからスルーするのはいいんだ。無かった事にして試合再開も構わない。だからお願い...お願いだから...腰ひもだけ取らせてぇぇぇ」
俺の巻き添え事故みたいなもんだから可愛そうになったのか、それとも単純にファンサービスのつもりか、山口さんはニヤニヤしながら小さく頷く。
かくして充彦は無事に?前が完全にオープンで、綺麗な臍とうっすら下へと繋がる毛、そして色んな意味で気合いを入れた新品のグレーのニットボクサーパンツを晒す事になった。
「勇輝、お前マジで覚えてろよ」
一応敵は向こうだと言うのに、充彦の目はジトーッと俺を見ている。
けど俺の目はいつもの様に大好きな腰のラインや臍に釘付けになり、そんな目線は気にもせず、ついニコニコうっとりしてしまった。
ともだちにシェアしよう!