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サービス、サービス!【7】

うっとりとその体を見つめる俺を見返す充彦の目は、かーなーりー冷たい。 いやまあ、勿論本気で怒ってる顔ではないんだけど、それでも機嫌がよろしくないのは間違いないだろう。 「フッ、勇輝...お前、ほんと覚えてろよ」 何を思い付いたのか、充彦の目付きが変わった。 あー...あれはね、あんまり良くない事を考えてる時の目だ。 エクスプレスなんかで、航生をからかう為の言葉を必死に探してる時みたいな? ただし、あの顔の時には往々にして災難は本人に振りかかってきてる...これまでの経験上。 ま、ムキになってるらしい今の充彦は、そんな事全く気付いてないだろうけど。 「おしっ、来い航生!」 無駄に元気なその声は、更なる空回りを予感させる。 勢いに押されたのか、今度の航生のサーブは自陣に2バウンドしてから辛うじてネットを越えてきた。 それでも、やたらと腕の長い充彦ならそれほどの苦労も無くその玉は拾える...はずだった。 だった...のに...... 「あぁっ!」 ものすご~く下手くそに空振りしてみせる充彦。 余裕で手が届くはずだったその玉は、あっさりと脇の下をすり抜けていく。 「ああ~ん、ごめんごめん。勇輝、ごめんね~」 ちっとも悪いなんて思ってない顔で俺に向かって片手を挙げると、鼻歌でも歌いそうなくらいに軽やかな足取りで山口さんの方に向かう。 なるほどね...そういう意味の『覚えてろ』だったのか。 ......チェッ、俺は別の意味での『覚えてろ』を期待してたのになぁ。 ま、あれだけ俺のせいでオモチャにされたんだから、確かに少しくらいの仕返しはしたいよね。 充彦がズボッと箱に手を突っ込むのを、俺は『それも仕方ない』とぼんやり見てた。 『これだ!』と自信満々で取り出した紙を山口さんに渡すと、俺を見てニタ~ッと笑う。 「うわ、マジか!?」 本気で驚いたような山口さんの声。 これはよほどの罰ゲームを引き当てたらしい。 落ち込みMAXで晩御飯までダメージ引きずる...なんて指令じゃなきゃいいんだけど。 一度ゴクンと唾を飲み、俺は腹を括って前を真っ直ぐに見た。 「いやあ、みっちゃんたら...引き、強すぎだわ」 「でしょ、でしょ? 俺だってねぇ、一方的にやられるばっかりじゃないっての」 「いやぁ、ほんとすごい。読んでいい?」 「んもう、焦らさないでチャッチャと読んじゃってよ」 「んじゃ、いくよ~。『パンツの前開きから、亀さんの頭をコンニチハさせてゲーム続行! 前開きが無い場合は、パンツの上からコンニチハ!』」 「だってさ、勇輝!」 俺に向かって、爆笑しながら充彦が指を差してくる。 ......ん? いやいや、充彦。 これって、ちょっとさっきまでの指令と違ってない? ヒャッホーと喜びだしたそのでっかい背中を山口さんがトントンと叩いた。 「みっちゃん、亀さん出して」 「はい?」 「いや、だからぁ...亀さん出してゲーム続行だから」 「なんで俺? それ、勇輝じゃ......」 「あのね、ここには『パートナーにさせましょう』なんて一言も書いてないの。この罰ゲームは、ミスした本人用だから。いやぁ、ほんとみっちゃん引き強すぎる。胸元開いたと思ったら帯外してわざわざパンツ見えるようにした上で、今度は自らご開帳指令を出しちゃうなんてさぁ......」 山口さんの言葉にようやく意味を理解したのか、充彦は今日何度目かの膝からガックリポーズを作る。 「そんなぁ...わざわざ不細工な空振りしたのに......」 「だからね、わざと負けるとかしちゃダメなんだって。それも俺を陥れる為とか、そんな悪い事考えてるからバチが当たったんじゃない?」 「だから、お前が言うなーーーっ!」 「はい、いいからみっちゃん、早く亀さん出してゲーム続行! ほら、早く早く」 よほど楽しみなのか山口さんは容赦ない。 渋々立ち上がると、充彦は大事なとこに付いてるボタンを外した。 『はぅぅぅ』なんてため息か断末魔みたいな変な声と共に、そのパンツの真ん中に指を突っ込む。 「せめて俺が引っ張り出してあげようか?」 「いるかっ! お前に触られて、『コンニチハ』が『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン』になったらどうすんだ!」 それはそれでビデオとしては面白い...とはしゃぐ山口さんは無視して、充彦は先っちょだけをピョコッと出してきた。 「山口さ~ん、お願い...お願いだからいっそパンツ脱がさせて」 「ん? ダメーッ! さっきオマケで腰ひもとタオル取らせてあげたでしょ。何よりこの指令は、コンニチハのままでゲームを続行する事に意味があるのだ!」 まだなんの変化もしてないそこは小さくしょぼくれたまんまで、今にも布の中に隠れてしまいそうだ。 俺は条件反射のようにそのキュッと縮こまったそこをツンてつつく。 予想通り...いやいや、充彦が恐れた通り、そこはすぐにムクムクと小さな変化を起こした。 もう一度手を伸ばしかけた所で、そこそこ本気のグーでゴツンと頭頂部を殴られる。 「いらんことをするな! もういいっ! 俺は本当に怒ったぞ。やってやる、コンニチハのまんまでガンガン卓球してやるからな! お前ら全員辱しめてやる!」 充彦の姿にヘラヘラ笑っていた航生も慎吾も、そこでハッと気づいた。 これまではたぶん、自分がミスしても罰をくらうのはパートナーの方だとたかを括ってたはずだ。 しかし今、罰ゲームが自分に直撃の可能性もある事がわかった...充彦が、不本意ながら身をもって教えてくれた。 という事は、自分でもパートナーでも、とにかくどちらがポイントを落としてもダメなのだ。 ......あんな格好になるのだ。 「よし、もうちゃんとやろう。ほんと頑張んなきゃ。スマッシュもしないぞ」 「だから最初からするなって言ってただろうが!」 猛烈に怒りをぶちまけつつも、真ん中からはチョロチョロとミル貝の水管のごとき一物が覗く充彦の姿に笑いを堪え、俺はネットの向こうを真っ直ぐに見る。 航生も慎吾も、口元をひくつかせ力の入らない様子で、それでもやっとこさラケットとスリッパを構えた。

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