349 / 420
サービス、サービス!【8】
「勇輝、わかってるよな?」
慎吾のサーブに備えて構えた俺の後ろから、ドーンと低くて迫力満点の声がかけられる。
ってか、ちょっとプレッシャー強すぎて怖いから!
普段は体に不似合いなくらい明るくて爽やかな高い声なのに、今は俺よりも相当低い。
どうやら充彦の猛烈なプレッシャーと地の底から響くような声にビビったのか、いつも少しヘラヘラしてる慎吾の顔が強張ってる。
充彦の『わかってるな?』は、『これ以上罰ゲーム引くような真似をするな』って意味だ。
スマッシュだのカットだの、分不相応な事をするな...と。
俺は充彦の目を見て頷こ......うとした所で、やっぱり視界にあのチョロリの水管が入ってくる。
思わず吹き出しそうになって、怒鳴られる前に慌てて正面を向いた。
慎吾がフワッと玉を上げ、大きく振りかぶる。
来る!と緊張したのは一瞬。
ガコッという鈍い音と同時に卓球台がガタンと動いた。
放り投げたはずの玉は、コロコロコロと台の上を転がっている。
「し、慎吾さん......?」
「う...うそや~ん......」
自分のミスが信じられないとでも言いたげな慎吾。
どうやら右手に握られたスリッパの先が、まともに卓球台に引っ掛かったらしい。
うん、まあ...ラケットより長いもんな。
仕方ないっちゃ仕方ない。
「イエスッ!」
チョロリな充彦が、すっごい嬉しそうにガッツポーズを取りながら雄叫びを上げた。
ミスしたのは慎吾なんだけど、目が合ったらしい航生に向かって『早く引け』と顎をしゃくる。
「なんかごめんなぁ。まさかこない凡ミスするとか......」
「あ、いや...あっちの恥ずかしい格好してる人からの鬼みたいなプレッシャーがすごかったですしね」
「誰が恥ずかしい格好だ! グダグダ言ってないでさっさと引けよ!」
「なんなら鏡持って来ましょうか?」
「......ごめんなさい、やめてください」
オラオラしてても、絶対に今の自分の姿は見たくないらしい。
とりあえずシュンとして黙り込んだ充彦の姿に頷くと、航生は慎吾に笑いかけた。
「どんな指令引いても恨みっこ無しって事で、ちゃちゃっと引いちゃいましょ、ね?」
「うん、わかった」
ちょっと落ち込んだ顔のままで、慎吾が山口さんの元へポテポテと歩いていく。
デンと置かれた箱に腕を突っ込むと、ギュッと目を閉じたまんまでエイッと一枚の紙を抜き出した。
「はいは~い、読みますよ~。『パートナーの上半身をペロンと剥いて、両乳首をピンピンに立たせてください』で~す」
さっきまで隣で見慣れていた『膝からガックリ』がネットを挟んだ向こう側でも起きたらしい。
いきなり目の前から航生の姿が消える。
まあな、最初の充彦が受けた罰ゲーム(ほんとは俺だけど)と似てるようで、けどちょっと内容はハードだよな。
上を完全に剥いた上に、乳首にチューどころかピンピンに立たせろだもん。
あれに比べれば、充彦の罰ゲームなんて屁でもなくない?
ちょっと3連チャンだったってだけで。
......ま、そのせいで今のあの姿なわけだけど。
しかし、慎吾にかっこいい事言ったくせに腹括ってなかったのか?
何をビビってんだよ、乳首くらいで!
そんな風に思ったんだけど...航生が崩れ落ちた理由はそこではなかったらしい。
「慎吾さん、なんで...なんでよりによって乳首なんですか...てか山口さん、指令の内容、被ってるのがあるならあると教えてください......」
ブツブツと聞こえた声に首を捻ると、ちょっとバツの悪そうな顔で慎吾がペロッと舌を出す。
「航生くんな、乳首めっちゃ弱いねん」
「あれ、そうだった? でもさ、撮影で女優さんに舐められてもなんともなかったよな?」
「......慎吾さん限定です」
「俺が舐めたらね、すぐにコリコリのピンピンになってまうねんて。ついでに下もビンビン......」
「わーーーっ、余計な事言っちゃダメですってば!」
航生の制止はちょっと遅かった。
慎吾の言葉を聞き、ションボリしてたはずの充彦がニターッと笑って胸を張る。
......あ、今は胸張らない方がいいと思うよ、チョロリを見せつけてるみたいだし。
「早くやれよぉ、航生」
「や、やるのは慎吾さんでしょ!」
「慎吾くん、早くやれよぉ」
航生をチラリと見た慎吾に向かって、航生は困った顔をしながらも首を小さく縦に振った。
立ち上がり、ピシッと背筋を伸ばす。
意を決したらしい慎吾が、そんな航生の胸元に手をかけた。
両手でグイッとそこを開けると、渋々ながらも航生が自分から袖を抜く。
細いけど綺麗に付いた肩の筋肉が露になると、浴衣を強引に開いた行為に興奮したのか、それとも抵抗もできずに恥ずかしそうに睫毛を伏せる姿に悪戯心が刺激されたのか。
慎吾の目付きがギラリと変わる。
まあね、元々はタチ寄りだったのに『航生に愛されたい』って気持ちだけでネコやってるわけだし。
目の前に大好きな人の体が『どーぞー』なんて差し出されて、慎吾のテンションが上がらないわけがない。
俺も一緒一緒、さすがは弟分!
「航生くん......」
慎吾の手がゆっくりと首筋から肩を撫でていく。
......もしもーし、そんな事指令には書いてないですよ~。
「し、慎吾さん! いらない事してないで...さっさと終わらせましょ」
「んー、なんかそれも勿体ないやん?」
肩から更に手を下ろすと、人差し指の腹で両乳首の周囲をクルクルと擽り始めた。
眉間に皺を刻み唇を噛み締める航生は、もう感じ始めてるらしい。
声が漏れるのを必死で堪える姿ってのをなかなか現場で見る事はなく、それはひどく艶かしかった。
本当に男らしく、そして色っぽくなったんだなぁなんて少し感慨深く見てしまう。
「すぐに気持ちようしたるわな?」
左の乳首をコリコリと爪で掻きながら、慎吾は右の乳首をゆっくり口に含んだ。
口の中で舌に弄ばれているのか、声の代わりに熱い息を吐き出しながら航生の体が小さく震える。
「慎吾くん、ごめんね。カメラの向こうの人に見えるように、舌だけ使ってやってもらっていい?」
レンズを覗きながら山口さんが言えば、ニッと不敵な笑いを浮かべて慎吾が舌を伸ばす。
舌の先でそれをクニクニと捏ね、周囲を舌全体で丁寧に舐めると、剥き出しの航生の肌が一気に粟立った。
「んっ...も、もう立って...るでしょ......」
「もうちょっと。もうちょっとだけ頑張ろな?」
ったく、ひどい奴だな。
慎吾の手にかかればよほど敏感になるのか、弄られ続けてる左乳首も舐めまくられてる右乳首も、とっくにコリコリのピンピンだ。
けど舐めてるうちに本気で楽しくなってきたらしい慎吾は、その動きをやめようとはしない。
これは罰ゲームなんだからと素直に考えてる航生はそんな慎吾の頭を引き剥がそうとする事もなく、ただひたすら唇を噛んで耐えていた。
腰が小さく揺れ始め、止めて欲しいと首を振る。
これは...なかなかヤバい。
嗜虐的趣味は無いけれど、それでも目の前で懸命に快感をやり過ごそうとしながらも身悶える航生の姿は、なんと言うか...妙にグッとくる。
それは興奮だったのかもしれない。
航生を同じように弄んでみたいと思ったのか、それとも充彦の姿を重ねたのか、それとも...俺の姿を映したのかはわからないけれど。
思わずゴクリと唾を飲んだ所で何か気づいたのか、充彦が二人に声をかけた。
「もうボチボチ良くない? 航生、どこもかしこもビンビンじゃん」
チッと舌打ちが聞こえたような気もするけど、慎吾はニコッと俺らに笑い航生から体を離す。
「んっ...はぁぁっ......」
大きく息を吐きながら、体の力をようやく抜いた航生。
大きく開いた目は欲に濡れていて、まるで止めてほしくなかったと言ってるようだ。
「ほら、勇輝。ちゃんと構えろよ」
やたら男前の顔になった充彦が、俺の腰をスルリと撫でる。
それだけで背中には微かに電流が走った。
「航生なんか見ながらうっとりしてんな...ちゃんと夜には、あれよりずっとイヤらしい顔させてやるから」
耳許で誰にも聞こえないくらいに小さな声を息と共に吹き込んでくる。
なんかもう、充彦のチョロリも含めてかっこいいなんて思えてきた俺は、本当に航生の姿に欲情してしまってるのかもしれない。
「さ、続きやろうぜ」
充彦がピンポン玉を手のひらに乗せる。
レシーブの為にラケットを構えた航生は、明らかに腰が引けていた。
ともだちにシェアしよう!