362 / 420

クールダウン&パンプアップ【2】

バスタブも何も無い、本当にただシャワーがあるだけのガラスに区切られた空間。 豪奢なこの部屋には不似合いとも思えるそのシンプルなシャワールームは、それでも少し冷静に考えればそこに無ければならない物なのだとわかる。 ......そう、不必要なほどに広くて豪華だからこそだ。 何せ主寝室と思われるベッドルームから専用の露天風呂までが遠い。 勿論普通に楽しく過ごしている、ごく普通の人間の普通の旅行であれば、風呂までのその長い距離すらのんびりと楽しむ事もできるだろう。 けれどとにかく急がないといけない状況だったら? 心も体も、切羽詰まった状態だったら? そう...このシャワールームは、きっと『セックス』の為に作られた物だ。 主寝室へとなだれ込む前に急いで体を清める為。 事を終え、急いで汗や他の物で汚れた体を清める為。 そこに露天風呂までわざわざ出向く余裕なんてあるわけがない。 そしておそらくは...今の俺達みたいな状況になる可能性も考えて、ただシャワーを浴びるだけにしてはだだっ広い空間に設えてあるんだろう。 「んぁっん...航生くっ...アカン...やめっ......」 後ろから覆い被さるように慎吾さんの体をガラスへと押し付け、金色のフックにかかったシャワーのノズルを手に取る。 うなじに噛み付くみたいなキスを落としながら、俺は一気にコックを捻った。 熱すぎない温度のお湯が勢いよく噴き上げるヘッドを、ガラスと自分の体に挟まれる格好になった慎吾さんの前へと回す。 さっきまでの度の過ぎたお遊びの余韻か、それともガラスの空間に二人きりで閉じ込められている事に興奮しているのか、お湯がかかる前から慎吾さんの中心は昂りを見せていた。 そこにシャワーを当てながら、しっとりと湿り気を帯びた背中へと舌を這わせる。 肩甲骨を軽く噛み、背中の真ん中を丁寧に舐めながら体を少しずつ屈めていく。 脇腹を撫で、敢えてそこに強めに吸い付けば、驚くほど綺麗に赤黒い花びらを付けた。 慎吾さんの唇からは吐息と、俺の大好きな『アカン...』という少し掠れた声だけが漏れてくる。 「何がアカンなんですか?」 真っ白く、綺麗に盛り上がった尻の間に鼻先を擦り付けながら、俺は思わずクスリと笑った。 慎吾さんのアカンは、全然『アカン』じゃない。 気持ち良くなって、だんだんと自分でもわけがわからなくなってくる時に出るのが『アカン』だ。 だから慎吾さんが『アカン』て言い出したらそれは、俺との行為にどんどん溺れていってる証拠。 そんな甘くて可愛い『アカン』の声が、俺は大好きだった。 もっとその声が聞きたくて、もっともっと俺に溺れて欲しくて、尻の奥まった場所へと舌を伸ばしながら右手を前に回す。 亀頭に直接当てていたシャワーをタマの方に向け、回した右手でその亀頭をそっと握る。 「航生くん、アカン...ほんまにアカンのん...俺、すぐイッてまうから......」 何回でもイかせてあげる...と言いたいところだけど、残念ながらまだこの後には仕事が残ってる。 あまり疲れさせてはまともに撮影にもならないだろうし、何よりこの宿の自慢だという料理を目一杯堪能させてあげたい。 意識を飛ばすほどの快感を与えるわけにはいかないことを思い出し、渋々ながら一先ずお互いの熱を放出する事が最優先だと自分に言い聞かせた。 そうと決まれば、いつまでものんびり遊んでるわけにはいかない。 「慎吾さん、俺も一緒にイキたいんですけど、いいですか?」 「...んっ......」 「じゃあ、まだイカないように、もう少しだけ我慢しててくれますか?」 「はぁ...んっ...わかった...うん...我慢...するぅ...一緒...嬉しい...ん......」 いつもなら、それぞれ別に風呂に入って、お互いにちゃんと体を準備する。 受け入れる場所も、それを割り拓くモノも綺麗に綺麗に。 それから大切な慎吾さんの体を傷つけたりしないようにたっぷりと時間をかけ、何度も軽いエクスタシーを味わってもらいながらそこを解し、内側を抉る異物に馴染ませてからようやく俺が快感を追う瞬間を迎える。 けれど残念ながら、今から別々に体を洗ってる時間も余裕も無い。 勿論、改めてゆっくりと慣らしてあげる時間も。 「そこに手を着いて、俺に向かってお尻突き出してしっかり脚を開いてください」 欲にまみれてる時の慎吾さんは、いつにも増して従順で素直だ。 きっともう、俺が何をしようとしてるかなんてわかってるんだろう。 その証拠に、さすがに少しだけ恥ずかしいのか...俯いたままで伏せられた睫毛は小さく震えている。 「できるだけ早く終わらせます。辛かったら正直に言ってくださいね?」 俺の方を見ずに少しだけ頷いたのを確認するとシャワーヘッドのダイヤルを動かし、勢いよく広がって噴射されていたお湯をギュッと中央部からのみ押し出される強い水流へと変えた。

ともだちにシェアしよう!