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SHAKE IT!【3】

「はい、じゃあ入り口からみっちゃんの肩舐めで勇輝の表情からね。少し浮かれてるから、みっちゃん置き去りにしてる感じで。そうね...2歩半くらい前で振り返って」 「この辺?」 「オッケー、そこでいいわ。みっちゃんは、顔は写らないけど背中は写るわよ。全身で感情表して。勇輝は、振り返ったら特に演技しなくていいわ。ただみっちゃんの表情、雰囲気...感じたままを見せて。じゃ、みっちゃんの気持ち入ったらいきましょ。勇輝は背中向けた状態ね。あたしの合図でみっちゃん見つめて。二人とも、準備できたら手上げて」 背後でカメラを構える気配がする。 俺は、目の前の勇輝の背中を真っ直ぐに見た。 俺の及び知らない過去。 その知らない過去を知る人間に会い、困ったように、けれど少しだけ照れて嬉しそうに笑った勇輝。 普段あまり見せる事の無い浮かれた足取りは、俺の心の深い所をざわつかせる。 お前は、やっぱり過去が捨てられないのか? 今、お前を一番大切にしているのは誰? 醜い嫉妬や劣等感だとわかっているし、お前にはただ『懐かしい』という気持ちしかないのだろう。 けれどその、軽やかな足取りにすら苛立ちが増していく。 お前は俺だけの物だ。 誰にも渡さない。 .........俺はゆっくりと右手を上げた。 俺の背中に向け、激しくシャッターを切る音が響きだす。 「勇輝、振り返って!」 クルリと勇輝の体が俺の方を向いた。 俺はただ、今の感情のまま真っ直ぐに勇輝を見る。 瞬間、口許に柔らかく笑みを浮かべたその顔が強張った。 悲しそうな、僅かに怯えたような瞳はすぐにその表面に水分を蓄えていく。 その表情は、俺の苛立ちをいくらか軽くしてくれた。 自然と頬の筋肉が弛む。 いつもなら、すぐに俺の胸に飛び込んでくるだろう。 けれど勇輝は動かない。 その足が床に縫い止められているかのように。 勇輝の瞳を真っ直ぐに見る。 不安げで、儚く、すぐにでも抱き締められたそうに見ているくせに、俺がそれを許さないとわかっている顔。 大人しく俺のお許しが出るのを待っているのだと思えば、苛立ちに煽られてどこか加虐的な気持ちが湧いていた。 「はい、オッケー。いいわ、すごくいい...勇輝がみっちゃんを心から愛してるからこそ出る表情だった。みっちゃんの背中もすごく良かったわよ。イライラしてて、でもそれを勇輝にぶつけるかどうか迷ってる感じがすごく出てた。えっと...一旦休憩する?」 「このまんまいきましょう。俺、今の気持ちのままなら、勇輝を壊しそうなくらい自分の全部をぶつけられます」 「勇輝は? 今のみっちゃん、攻める気マンマンみたいだけど受け止められる? 勇輝、今本気で怖がってるでしょ? ちょっと気持ち切り替える?」 「へい...き。今の充彦ちょっと怖いけど...でも...ヤバいくらいかっこよくて...なんか見てるだけでイケそう......」 さっきまでとは違う色で潤む勇輝の瞳はどうしようもなく淫らだ。 愛しくて、少しだけ触れたくなる。 「了解、じゃあこのまま一気に続けるわよ。みっちゃん、勇輝をそのままそこの窓に近い柱の所まで追い詰めて。勇輝はみっちゃんの雰囲気に飲まれたまま、ゆっくり後退りね。歩きながら、みっちゃんは上着放り投げて。上手く広がって飛ばなかったらやり直しになるわよ。気持ち切らさないで」 馨さんが指示した場所に中村さんがテープで小さな印を付けてくれた。 ついでに、カメラ位置から考えて一番綺麗に上着を脱いだ仕草が入るであろう場所にもテープを貼ってくれる。 「いい? ゆっくりと獲物を追い込んでいくようにね。急がないで...上着投げて、タイを外して、カフスも取って、ジワジワと迫って。勇輝はあからさまに逃げるんじゃないのよ。みっちゃんの空気に押されて、勝手に後退りしちゃうって感じ。表情は今のままね...勇輝の大好きで、でも今はちょっと怖いみっちゃんから目が離せないまんまよ...」 俺の背中だけを写していたはずのカメラが、動かす足に合わせてゆっくりと回り込んでくる。 シャッター音を響かせながら、レンズは俺達を画面の両端に写せる場所へと移動した。 勇輝へと近づく歩幅を少しずつ大きくしながら、俺はタキシードの上着を脱ぎ、それを通りすぎたソファの背に向かって放り投げる。 蝶ネクタイの金具を外してそれはそのまま下に落とし、首もとのボタンを二つ外した。 勇輝はうっとりとした視線を俺に向けたまま、少しずつ後ろへと下がっていく。 勇輝が一歩足を下げれば、俺は二歩前に進む。 どんどん近づいていく距離。 勇輝の背中がトンと柱にぶつかった瞬間、俺はその残された距離を一気に詰めた。 腕を思いきり顔の両側につき、俺の体全部で勇輝の体をしっかりと押さえ込む。 焦るように俺を押し退けようと伸ばしてきた腕を強く掴むと、頭の上で一纏めにして柱にそれを押し付けた。 ついでに膝頭で勇輝のズボンの中心をグリグリと刺激してやる。 そこまでやると思っていなかったのか、驚いたように勇輝はカッと目を開いた。 その間もシャッターの音が止むことはなく、俺を制止する声もかからない。 膝の動きはそのまま、俺はゆっくりと勇輝の耳許に唇を寄せた。 「勃ってんじゃん...こうして欲しかったんだろ......」 そのまま耳朶をねっとりと舐め、唇で挟み、そこを強く噛む。 「...んあぁっ...み...つひこ......」 勇輝はイヤイヤとするように小さく首を振り、体を震わせる。 俺の顔が耳からゆっくりと離れると、次はここを嬲って欲しいとでも言うように舌をそっと伸ばしてきた。 それに吸い付こうと顔を寄せようとした瞬間...... 「はい、一旦そこまで! すごい気持ち乗ってるとこ悪いんだけどね、その場所に行ってもらったわけがあるのよ。ほんとゴメンね...えっとねぇ...10分待機します。どうする? タイミングきたらすぐ声はかけるから、そっち座ってイチャイチャしとく?」 「俺はどっちでもいいけど...勇輝、どうする?」 俺がじっと覗き込めば、勇輝は変わらずうっとりとしながら首をフルフルと振った。 「俺...このまんまがいい...充彦とこうしてるだけで...どんだけ時間経っても気持ち切れないと思う...つか、興奮しすぎて、ほんとヤバい...」 「まだよ、みっちゃん。勇輝が興奮しすぎておねだり始めても、まだそれ以上しないでね。焦らして焦らして、焦らしまくって。あたしが合図出したら、『待て』のご褒美たっぷりあげていいから」 どうやら何か考えのあるらしい馨さんは、カメラのファインダーを覗きながら自分の言った『タイミング』とやらを待つつもりらしい。 俺は合図を待つ間、馨さんが望む通り、たっぷり焦らして煽って弄んで、勇輝をグズグズにしてやることにした。

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