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SHAKE IT!【5】
突然の声に、一気に我に帰った。
勇輝もそうだったのか、すぐ近くで目が合った途端、顔だけでなく首まで真っ赤にしながら慌てて体を離す。
いや、声をかけられる事自体は当然想定していた。
俺が動いた瞬間に罵声を浴びせられるだろうと。
口汚く罵られても仕方ないとまで考えて、それなりに覚悟を決めたのだ。
けど、馨さんは何も言わなかった。
その瞬間は静観していた。
そして俺の手が体をまさぐり、勇輝のスラックスへと伸びるに至り、ここでようやく制止が入ったのだ。
それも思っていた物とはまるで違い、楽しそうな明るい声で。
「チンチン、ガッツリ勃たせてるとこ邪魔してゴメンね。でも、おかげでいい写真撮れてるはずよ」
「......はい?」
「中村く~ん、ちょっと撮れた写真見せて。チェックするから」
その声に、中村さんが馨さんのかなり後ろからカメラを持って走ってきた。
「んもう、みっちゃんがあんまり我慢強いから、この写真諦めないといけないかとヒヤヒヤしちゃったわよぉ。勇輝があんな状況になったらグズグズになるだろうとは思ってたけど、あそこまでグズグズの勇輝を前に、まさかみっちゃんがあんなに堪えられるなんて」
「...えっと...マジで...どういう事?」
馨さんの言葉の意味がわからず俺が問えば、馨さんはカメラのモニターをこちらに向けてくる。
背後から射し込む光は、夕方の一歩手前。
ほんの少しだけオレンジのグラデーションに縁取られ、逆光の中心にいる俺達のシルエットは激しく舌を絡めていた。
影だけなのにハッキリとわかる......
抑えきれない欲情に、締め殺してしまうんじゃないかというほど強く顎と首を掴んでいることが。
ようやく与えられた温もりに、体を震わせるほど喜んでいることが。
「......これ、何?」
赤い顔のまま、勇輝が俺の肩に顎を乗せてモニターを覗き込んだ。
「んふっ、いい写真でしょ? 最高に愛情深くて、最高にエロティックだわ。影だけなのに、二人の感情がしっかりと伝わってくる」
「こんなの、いつの間に...」
「中村くんに指示してあったの。あたしが二人にお預けくらわせたら、あたしの後ろからあの太陽をバックにとにかく写真撮り続けるようにって。まあ、言ってみたら、あたしはダミーね。あたしのカメラばっかり気になって、中村くんがカメラ構えてるの、気がつかなかったでしょ?。あの角度から、少しだけ赤みを帯びた強い光が入ってくる時間て限られてるからさぁ、これ、タイムリミットぎりぎりだったかもね」
「い、いや...時間限られてるなら、なんでこんなまどろっこしい事を...『荒々しく求め合え』みたいな指示くれたら、それなりのキスするのに...」
勇輝は、何も言わずその写真を見つめている。
そしてまるで愛しい物だとでも言うように、その画面にそっと触れた。
「...いい写真......」
「あら、勇輝はわかったみたいね。みっちゃんはわからない? あたしがどうしてここまで面倒な事したか」
「充彦...」
勇輝が目の前に改めてモニターを差し出してくる。
「俺ね、もしここで芝居しろって言われてたら、充彦がキスしてきた瞬間もっとイヤらしく見える反応すると思う。カメラ意識して、写真見てくれてる人意識して、もっとムラムラさせてやろうとしてたと思う。でもね、この写真の俺は...やっと充彦に抱き締めてもらって、やっとキスしてもらえて、泣きたいくらいに嬉しいんだよ。カメラなんて関係なく、本当に嬉しかった。あんまり嬉しくて幸せで感動してんの。表情はわからなくたって、この充彦の首に回した手の力の入り方とかちょっと腰が引けそうになってる感じとか、こんな小さな事にもあの瞬間の俺の気持ちがすごく出てると思う」
「でしょ? あたしにとってこれが、この写真集で一番肝になる写真だったの。これこそがあなた達そのものになるって。前の雑誌の二人の写真とか岸本くんの所のパンフレット見せてもらってからずっと思ってたんだけど、ほんと中村くんに任せて良かったわ。ピントの合わせ方も光の入れ方も、完璧。これこそまさにあたしが撮りたかった写真。これ、表紙に使わせてね...勿論、中村くんの名前はクレジットしてもらうから心配しないで」
いきなり話が大きくなってしまい焦り始める中村さんをチラリと横目で追い、俺は改めてその写真を見た。
確かに...シルエットの俺達は、間違いなく幸せそうだった。
いつだって激しく求め合い、お互いに触れられる事を何よりの幸せだと思っている...俺達そのもの。
そこには誰かに見られているだとか、誰かに見せようなんて思いは欠片もない。
「まいったな...これも馨さんの計算?」
「あら、何が?」
「これ、勇輝を焦らしてるようで、結局俺が無理して我慢してただけですよね。馨さんの言い付けで『待て』してたのって、勇輝ってより俺じゃないですか?」
「......勇輝よりね、あなたの方が実は器用でお芝居は上手いと思ったのよ。勇輝はほら、別人に変わっちゃうだけだから。イタコみたいなもんじゃない。そんな変に器用で演技の上手いあなたに最初から細かく説明しちゃうと、きっと自分の本心を上手に隠しながら、とにかく勇輝のイヤらしさを際立たせるように動くだろうと思ってね。どれだけアタシが『情欲のすべてをぶつけろ』って言ったところで、無意識にセーブしちゃうような気がしたの」
「そう...かもしれませんね。俺たぶん、人前でこんな本気見せた事無いですもん。これ、もしあのまま止められなかったら、ほんとに俺勇輝の脚担ぎ上げてチンポ突っ込んでたと思う。周りなんてどうでもいいくらい興奮してた」
「ま、それはそれで見たかったけどね~。で、みっちゃんから見て、この写真の感想は?」
まったく意地の悪い質問をするもんだ。
俺は中村さんを真っ直ぐに見つめた。
「最高に綺麗で、最高にエロい...確かに俺ららしい最高の写真じゃないですか?」
「お、やったね~。さあ、みっちゃんからのお墨付きもいただいた事だし、リアルな二人の感情を写すのはこれで終わり。ここからはあなた達『トップAV男優』としての本領発揮してもらうわよ。このフロアのあっちこっちで、ガッツリ絡み合ってもらうから」
「やっぱり...あるんですか、絡み」
「あるわよ! 言っとくけど、さっき話したコンセプトはフェイクじゃないからね。アメリカンポルノみたいに大胆にやってもらうから」
「まさか挿入なんて事は...」
「残念ながら、挿入してるようには見せるけど本番は無しで。勇輝動けなくなったら困るじゃない? だからこそ、セックスについての演技については、プロのあなた達の本領発揮だって言ってるの」
「あ、はい...」
「挿れようと思ったらさ、やっぱりだいぶ勇輝のお尻慣らさないといけないじゃない? まあ勇輝ならあんまり慣らさなくても、その気にさえなっちゃえばわりと楽に受け入れられる体ではあるけど。なんにせよ、その為のDVDならともかく、指突っ込んでグリグリしてる写真使えないんだし、今日のところは挿入は我慢して」
......あれ?
今この人、何言った?
ちゃんと話は聞いていたつもりだけど、なんか途中素直に理解しきれない言葉がチラホラと出てきたような...
「はいはい、とにかす二人ともマッパでよろしく。明日はテレビカメラも入る事だし、二階のベッドで甘くて温いシーンばっかり撮影するから、余計なスタッフがいない今日のうちにエグい撮影は済ませちゃうわよ!」
自分がコンセプト決めておいて、『エグい』とか言うなよ...
頭の隅には納得しきれていない言葉がチラチラと引っ掛かってはいるが、それの何が納得できないのかもわからなくて、その疑問を口にすることもできない。
『早く早く!』とワクワクした顔でひたすら急かす馨さんの勢いに押されるように、俺達は着ていた物を一枚ずつ脱いでいった。
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