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SHAKE IT!【7】
「俺はさすがに...ちょっと恥ずかしかったぞ」
車を走らせながら、社長がボソッと呟く。
「確かにな、お前らは射精すんのも仕事のうちだけども、何も写真集の撮影でまでマジセックスせんでもいいだろうが」
「セックスはしてませ~ん。素股と手コキだけで~す」
「充彦、ガチフェラもした...」
「あ、そうか。訂正しま~す。とりあえず本番はしてませ~ん」
今日は航生が出演するゲイビ撮影が重なっていて、社長は俺達を現場まで送り段取りの確認だけすると、航生の付き添いに向かっていた。
そちらが終わったからとうちの現場に戻ってみると...リビングの毛足の長いカーペットの上で、勇輝が俺に跨がって腰を振りまくってる真っ最中だったというわけだ。
そこからもまあ、ソファに勇輝を突き倒して背後から組み敷いてみたり、ホール中央の太い円柱を使って駅弁してみたり、日が落ちてすっかり暗くなった庭の芝生の上で激しくもつれ合ったり。
まさに一日中、一階のあらゆる場所を使って擬似セックスに明け暮れた。
「突っ込む突っ込まないの問題じゃなくてだなぁ...だいたいお前ら、思いっきり本気で感じてただろうが」
「おっ、さすがは元竿師。本気か演技か、よくおわかりで」
「え、社長って竿師だったの!?」
「うるさいっ! んなもん、大昔の話だ。勇輝もわざわざそこに食いつくな!」
大切な家庭ができたら、さすがに女を食い物にしてきた過去は拭い捨てたいか......
まあ、女を仕込んでたっつっても、この人が絡んでいてそのままずるずると風俗の底辺まで沈んだ人間は少ない。
自分が育てた女は責任を持って自分の店で働かせ、必要なだけの稼ぎが貯まったらすぐに足を洗わせていたから。
その後からホストに嵌まったり、ギャンブルにのめり込んで借金重ねたりで夜の世界に戻った人間もいるだろうが、少なくとも自分の元にいる間は本当に女を大切にしてた。
他の竿師や調教師に比べれば、この人を恨んでる女は圧倒的に少ないだろう。
恨んでる同業者は死ぬほど多いだろうけれど。
「俺らが本気でセックスもどきの事してたのは、度会馨の指示だよ」
「...ほんとかよ。それにしても、さすがにあれはやり過ぎだろうが...岸本さんとか、顔真っ赤にしてたぞ」
「あれはね、興奮してたの。たぶんチンポもビンビンだったと思うよ。あの人昔から勇輝の事がすっげえ好きだったらしいから」
「なんだ、勇輝の知り合いだったのか? それよりだなぁ、あんまりやり過ぎて出版中止なんて事になるんじゃないかと思うと、こっちは心臓が痛くて痛くて...」
「大丈夫じゃない? 今日は最初からあんな撮影になる予定だったからテレビカメラも入ってないし、出版社の人も帰らされたし。社長来たとき、俺らくらいしか人いなかったでしょ? 写真見てからの反応はわかんないけど、とりあえず内容には許可が下りてるんだから、社長が心配する事なんてないよ」
社長の不安もわからなくはないのだが、俺らはただカメラマンの要望に応えただけだ。
非難される謂れはない。
まあたしかに...気持ちが乗り過ぎてわけがわかんなくなるくらい興奮しちゃったけど。
ちょっとやり過ぎたかもって気持ちが100%無いわけじゃないけど。
でも、もし今日撮った写真の中に問題があれば、そこは馨さんなり担当さんなりがなんらかの対処はするだろう。
「明日からはカメラ入るし中村さんがメイキング用にビデオ回すからさ、今日みたいな撮影にはならないって。大丈夫大丈夫」
「だったらいいんだけどな......」
社長の車が、いつも寄ってもらうスーパーに近づいてきた。
「今日はどうすんだ? なんか買っていくのか?」
「いや、ちょっと今日は疲れた...」
「俺も。なんも作れる気がしない」
二人とも今日1日であり得ないくらい射精した。
そりゃあ社長が苦い顔するのも当たり前か。
別に、ただ絡んでる写真撮るだけなんだから、本当に射精までする必要は皆無だったろう。
ところが、一回興奮して射精したら二人ともなんか変なスイッチが入っちゃって、撮影場所や体位が変わるたびになんというか...イカせ合いみたいな事になってしまって。
結局撮影が終わるまでに何回発射したことやら...うん、確実に色んな意味で『やり過ぎ』だったかもしれない。
「んじゃ、お前ら晩飯どうすんだ?」
「今日はもう、ラーメンでいいよ。あとは風呂入ってビール飲んで寝る」
「んじゃ、真っ直ぐ帰るぞ」
「は~い、よろしく~」
「......明日の撮影に響くから、今日はすんなよ」
勇輝と一度顔を見合わせ、思わずプッと吹き出した。
「心配しなくても、さすがに俺も勇輝も精子タンク空っぽよ。とにかく今日は寝るから、まあ安心して」
ほんとのほんとは、勇輝の中にちょっとだけ入りたい気持ちはある。
でもまあ、さすがに今日は気持ちだけ。
俺と同じように疲れてる勇輝に、さらに負担をかけるわけにもいかないし。
「んじゃ、明日は10時に迎えにくるから、少しでも体休めとけよ」
マンションの入り口前に静かに止まった車から降りると、俺達はしっかりと手を繋いでエントランスへと入っていった。
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