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Lady Bomb【勇輝視点】

部屋に帰るとすぐ、念のためにストックしておいたカップ麺の包装を破る。 あれだけの大きな仕事の後にこの食事ってどうよ?なんて思わなくはないけれど、色んな意味で疲れてて、食欲自体がイマイチわかない。 特に今日の充彦は、精神的にもクタクタだと思う。 ルルちゃんに煽られたせいで、普段表にあまり出す事のない感情まで露にさせられてたし。 ......まあ、死ぬほどカッコ良かったけど。 ......悶え死ぬかと思ったけど。 思い出しただけで、もう重労働すぎて元気のかけらも残って無いと思ってたチンコがちょっとだけピクンと反応した。 あくまでもちょっとだけ。 イライラする事もムラムラする事もたまにはあると思うけど...あ、ムラムラはしょっちゅうか...でも、誰かに明らかに対抗心を燃やして挑発するなんて姿は初めて見た。 ルルちゃんに対してそんな物は持たなくてもいいだろうと思うんだけどね...ただの昔のお客さんなんだから。 ラーメンを食べ終わったら、俺から順番にシャワーを浴びにいく。 充彦は一緒に入りたがっていきなり乱入してきたけど、少しだけ...いやいや、大いに嫌な予感がしたので、先にさっさと出てきてやった。 クタクタだからこそ、無性にエッチしたくなる気持ちはわからないでもないんだ。 俺だって男だし、やっぱりそんな気分の事はあるし。 だからって、『そんな気分』の充彦に付き合うと、間違いなく俺の方がダメージが大きい。 明日とか、下手すると目の下に隈とか作っちゃうかもしれないし。 写真集撮影だってのに、さすがにそれはまずいだろう。 ルルちゃんだと、なんか喜んだりテンション上がったりしそうだけど。 充彦もそれがわかってるからなのか、逃げるように風呂場から出ていく俺を無理に引き留める事はしなかった。 ちょっと申し訳ないから、出てくるまでの間にツマミの準備だけでもしてやる。 晩飯はカップラーメンなのに、酒の肴なら準備する気になるのかよ...って自分でもちょっと可笑しくなったけど。 冷蔵庫からモッツァレラチーズを取り出し、それをスライスする。 お気に入りのガラスの大皿にそれを広げて並べ、たっぷり鰹節とネギを乗せた。 上から、手製の出汁醤油にわさびを溶いた物を回しかけて出来上がり。 ラップをして、それを冷蔵庫に戻す。 ギリギリまで冷やしておいてあげたかったから。 ついでに、明日の朝は冷や汁にでもしようとアジの開きを焼き始める。 かけ汁はすぐにでも作れるから、アジ焼いて胡瓜を刻んでおけばバッチリだ。 これで朝はギリギリまで寝てられる。 焼けたアジを丁寧に解してる最中に、頭からタオルをかけ、上半身裸のままの充彦がリビングに戻ってきた。 中村さんも気づいてたけど、今の充彦ってば...ほんとイイ感じに筋肉ついて、男らしさが増してる。 元々カッコいいんだけど、爽やかな好青年からセクシーな大人の男っぽくなった感じ? シャワーを一緒に浴びなかった事を少しだけ後悔した。 「あれ? 何やってんの?」 「ん? 明日の朝飯の準備」 「わざわざ? なんか面倒な事させてごめんな」 「いや、全然面倒とかないよ。今日はエッチしないんだから、その分明日の朝は任せといて」 「うわ、先に釘刺された...」 それほど怒ってるわけでもないだろうけど、わざと頬を膨らませて見せる。 「可愛こぶってもダメ~。今日は我慢しようね?」 「はいは~い、我慢我慢。どう、もう終わりそう? ビール出していい?」 俺はパンパンと手を叩き、椅子から立ち上がった。 「はい、魚終わり。アテも作ったから座っといて」 促されるまま充彦が大人しく座るのを見て、俺はキッチンに戻った。 手をしっかり洗い、冷蔵庫からビールと大皿を手にする。 「はい、お待たせ」 「お、冷奴?」 「ノンノン。モッツァレラの冷奴風」 「お、うまそ~」 向かい合わせに座るのもちょっと寂しくて、俺は充彦の隣にチョンと腰を下ろした。 これもお気に入りの陶器のビアグラスを目の前に置き、そこにキンキンのビールを注いでいく。 「はい、じゃあ俺からもね」 充彦は俺の手から缶を取ると、俺の前のグラスに同じようにビールを注いでくれた。 「ありがと。じゃあ、大仕事の初日終了、お疲れさまでした」 「勇輝もお疲れさま。んじゃ、乾杯」 「かんぱ~い」 溢れない程度に軽くグラスを合わせ、一杯目は一気に飲み干した。 炭酸の刺激が喉をグッと通っていく。 二杯目からはお互い、手酌で勝手に飲み始める。 あまり飲み過ぎてはいけないと思いつつ、それでも炭酸の喉越しが気持ちよくて、ついついテーブルの上には空いた缶を増やしてしまう事になった。 時折膝をツンツンしたり、指を絡め合ったりしながら、口許にグラスを運ぶ動きは止まらない。 テーブルの上の缶が6本目になった頃、ふと充彦が下を向いた。 何やら何度か深呼吸をしているらしい。 「勇輝...」 「ん?」 「ふぅ......あのさ......」 「うん、どした?」 「......あのね、今俺は酔ってます」 「はぁ? 充彦がそんくらいで酔うわけないじゃん」 「酔ってんの! 酔ってるから...酔ってるって事にして! だからさ、今からする質問が例えすっげえ失礼だったとしても...酔っぱらいの戯れ言だから、あんまり気にしないで欲しいんだけど...」 ああ、何かルルちゃんの事で聞きたい事でもあるのかな? だからお酒のせいにして、踏ん切りつけようとしてるのか。 俺は体ごと真っ直ぐ充彦の方を向く。 「いいよ。なんでも聞きたい事聞いて? 何聞かれても、ちゃんと正直に答える」 「おう、じゃあ...思いきって...」 グラスに残っていたビールを一気に飲み干して、充彦も俺の方を向く。 「馨さんてさぁ...もしかして...戸籍上は...男?」 やたら真剣な顔で前のめりになってしたその質問に俺は一瞬カチーンと固まり、そして...盛大にビールを吹き出した。

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