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温めよう【勇輝視点】

航生と充彦が仲良さげに酒を酌み交わす。 穏やかに笑い、時折肩を小突き合う姿はまるで実の兄弟そのものだ。 みんなその二人の様子に違和感など感じてはいないだろう。 実際俺も、今頭に胸に浮かんでは消える疑念に対しての確信は持てずにいた。 わざとらしく『近寄るな』『集中している』なんてオーラを漂わせて一人ワインを傾けながら雰囲気を探ってはいるけれど、あからさまに不穏な物も険悪な空気も感じさせない二人に、自分の不安はただの杞憂であったかとも思う。 いや、正確には『杞憂であって欲しい』と思っていたというべきか。 慎吾は航生の顔色をひどく窺っていた。 つまりは二人の間に微かに漂う違和感に気づいているという事だ。 もっとも、途中からやたらと熱烈なスキンシップを求めだした航生に流されて、心配するどころじゃなくなったみたいだけど。 ってか、あの航生が人前で自分からディープキス仕掛けてきてる段階でおかしいって気づけよ。 そしてそんな、今にも服を脱ぎ始めるんじゃないかって二人をさもおかしそうに、穏やかな笑顔で見守る充彦。 その姿は、却って俺の抱いた不安が間違いではない事を教えてくれていた。 さて、どうしたものか...... 黒木くんが山口さんの膝に頭を乗せて本格的に眠り始めたのをきっかけに、充彦が解散の合図を出す。 俺達はそれぞれ、自分の部屋に戻ろうと離れへと歩みを進めた。 やはり充彦も航生も、普段と変わらない笑顔で穏やかに、何とはない会話を続けている。 なんの心配もいらないと見えるだろう。 それが見せかけだと理解できているのも、胸にいまだ燻る闇の正体をわかっているのも、俺と慎吾だけだ。 おそらくは本人達ですら、そんな感情には気づいていない。 「じゃあ、おやすみなさい」 「おう、おやすみ」 いつも通り深々と頭を下げる航生に、軽く手を上げて答える充彦。 そんな穏やかなやり取りに、逆に頭が痛くなる。 二人の間に生まれた溝は、思っている以上に小さいくせに深そうだ...... やはり気づいていたのか、慎吾はまるで目配せでもするような顔で『バイバイ』と手を振る。 俺も、任せろというつもりで笑みを浮かべて『バイバイ』と手を振り背中を向けた。 航生は大丈夫だ。 そう、あいつには慎吾がいる。 俺はただ、今も残る充彦の中の闇を払ってやる事だけを考えればいい。 明日はタチ組とネコ組、二人きりでの撮影が待ってる。 今のままじゃ、さすがの山口さんでもフォローしきれないほど二人はギクシャクしてしまうだろう。 何より...今の充彦は充彦じゃないし、航生だって航生じゃない。 過去の話に囚われて、俺の大切な二人が上手く噛み合わなくなるだなんて許さない。 溝なんて埋めてやる。 闇なんて振り払ってやる。 俺が温めて甘やかして、いつもの充彦に戻してやる。 先に部屋の奥へと進んだ大きな背中を慌てて追う。 充彦はバカみたいに大きなリビングスペースの真ん中に立ち尽くしたまま、気味が悪いくらい穏やかに微笑んでいた。

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