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Lady Bomb【4】

「でもさ、馨さんは正真正銘の女性なわけでしょ? 『抱く』って...どうしてたの?」 「ルルちゃんがペニバンつけてしてたよ。最初はね、『女性にオモチャで犯される』ってのに、正直やっぱりちょっと抵抗があった。弄ばれてるってイメージあるじゃない?」 「だからアレだろ...ドSの女王様とM下僕的な?」 「うん、そう。だからね、最初はそういうキャラクターっていうか、役割ってか...とりあえず、M男の役になりきらないといけないのかと思ったの。でもルルちゃんは、『いつものユーキが抱きたい。何もしなくていいから、そのままでいて』って言うわけよ。そんなセックスした事無いわけじゃない? どうしたらいいのかわかんなくて、俺、ベッドの上でマグロ状態だったからね」 「......勇輝がマグロとか、想像つかないな」 「俺もそう思う。で、何かしたいけど結局なんもできないで終わった俺にね、ルルちゃん泣きそうになりながら言ったんだ、『嫌がらないでくれてありがとう』って」 「んで、どうだった? まあ...聞くまでもないか? だから続いたんだもんな」 茶化す事もなく、嫌悪するわけでもなく、時折疑問を口にしながらきちんと話を聞いてくれる充彦。 あの時ルルちゃんの言った『ありがとう』の意味がすごくよくわかる。 人から拒絶されないことは、こんなにありがたくて嬉しい事なんだと。 俺は目の前の充彦の頭をキュッと胸に抱え込んだ。 「優しくて激しくて、すごい良かったよ。俺の事、ひたすら感じさせようって気持ちに溢れててね...充彦とセックスするまでは、あれ以上に気持ちいいセックスがあるなんて思わなかった」 「はははっ、それって素直に喜んでいいのか?」 「もう...喜べよぉ。充彦とのセックスは最高だって言ってんだから!」 「はいはい、アザーッス」 俺の腕の中で少しだけ顔を上げると、充彦は真っ直ぐに俺の目を見つめてきた。 優しくて...イヤらしい...大好きな目。 しばらく見つめあっていると、充彦は少し焦るように俺の胸に額を戻す。 「ヤバい...チンポ勃ちそう...せめて話が終わるまでは我慢しようと思ってるのに」 「話が終わるまでかよぉ」 「そう。話が終わるまでは我慢する。続けて?」 「......続けてって言われてもなぁ...。ルルちゃんはね、自分をちゃんと女性として見ながら、セックスの時には自分なりの愛情を全部受け止めてくれる男をずっと探してたんだって。で、相性が良かったのか俺がちょっと変わり者だったのか、俺はルルちゃんに犯される状況を全然嫌だと思わなかった」 「それは、単純に『気持ち良い』って体の相性の問題だけじゃなかったわけだな? 勇輝の心の中に、馨さんを受け入れてあげたいって部分があったんだ?」 「...ふぅっ......ぶっちゃけるとね、ルルちゃんを理解してあげられるのがもし俺だけなら、ずっと一緒にいてもいいんじゃないかなとまで思い始めてた」 「それは、好きだったから?」 「好きは好きだったよ、勿論。でも今考えればそれは、充彦に対しての感情とは全然別物だったな。見た目と性格と性癖が一致しない事で辛い思いや恋を繰り返してきたルルちゃんが可哀想になったのと...俺が誰かから必要とされてるって実感が欲しかっただけなのかもしれない」 「なんで馨さんと離れたの? いや、俺としては離れてもらって良かったんだけどね」 「そんな関係を随分と続けてたある日ね、俺ルルちゃんから金受け取らないで、『これからもずっと二人でいようか?』って言ったんだ。でもね、即フラれたの、『客のままでいたいから、金は受け取ってもらわないと困る』って。んで、それからルルちゃんは店に顔出さなくなって、ユグドラシルが閉店して、俺がトンズラこいて...」 「...馨さんは、お前の言葉が愛情から出た物じゃないって気がついたのかな...」 「勿論それもあるだろうけど...結局は俺の幸せを考えてくれたんじゃないかと思うんだ。いつか心から好きだって言える相手が見つかるといいって...だけどそれは、自分じゃないって」 「ああ、なるほどな...なんかさ、俺が今日えらい食ってかかられた理由がわかってきた気がするわ。勇輝の為だと思ってせっかく自分から手を離したのに、連れてきた相手がどうしようもないヤツだったら...そりゃあ、納得いかないもんな。まあ、俺もそれなりにどうしようもないヤツだけど」 「ごめんね、今日は。ルルちゃん、なんか結構ムキになってたし。でもさ...ほんと今日の充彦、カッコ良かったよ。ルルちゃんもきっと満足したと思う」 「ほんとかよぉ。ま、勇輝の為なら俺もすんげえムキになるから、馨さんとドッコイ、いい勝負だな」 「あのね充彦。ちゃんと聞いてくれてありがと...嫌がらないでくれてありがと...んで、俺と会ってくれて、ほんとにありがと...」 「それくらいの事で嫌がる理由が無いっての。全部過去の事だし、それも今の勇輝を作ってる大切な思い出だろうよ。その大切な物を俺が否定してどうする? 俺の方こそ、ちゃんと話してくれて、んで俺を納得させてくれてありがとな。おかげでスッキリしたわ」 ああ...これだからやっぱり...充彦が...好きだ...。 俺のすべてを肯定して、こうして優しく大きく受け止めてくれる。 ゆっくりと充彦の膝から降りる。 少しだけその膝を開かせると、俺はその間に体を割り込ませた。 穿いているハーフパンツの隙間から、スルスルと手を忍び込ませる。 「こらこら、今日はお預けだろ?」 「話が終わるまで我慢するんでしょ? 話、終わったよ?」 「あんまイタズラしてると、マジで我慢できなくなるよ?」 「我慢しなくていい...俺が今したいんだ」 充彦に会えた幸せを...そして、そんな幸せな今をルルちゃんに見せてあげる事ができた事を... 体のすべてで悦びとして感じたい。 「明日あるから、お手柔らかにね」 「勿論そのつもり。今日は特別優しく、気持ち良すぎて幸せだって思わせてあげるよ」 机の上の空き缶と、中途半端に残ったアジの皿はそのままに、俺達は手を繋いで寝室に向かった。

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