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Lady Bomb【充彦視点】
「ったくお前らは、立場も状況もなんも考えないで年中盛りやがって...」
「はいはい、すいませんねぇ、ヤりたい盛りなもんで。でも、別にやつれた顔はしてないっしょ?」
迎えに来てからずっと、現場に向かう車の中でもずっと、社長はこんな調子。
ブツブツとお小言連発中。
「しかし、よくわかったねぇ、昨日俺らがちょっとおイタしちゃったとか」
「何がちょっとだ、何が。勇輝の顔見りゃ一目瞭然だっつうの。色気どころかエロ気駄々漏れじゃねぇか」
俺の肩に凭れながら、勇輝は夢と現を行ったりきたりしてる、
別に疲れた顔はしてない...はずだ。
昨日は本当に無理はさせてないし。
俺も撮影で散々出してたせいか、一回だけで十分満足できたし。
ま、イくのにいつもより時間がかかったせいで、中身はかなり濃密だったかもしれないけど。
現場に着くまでの間、俺はただしっかりと勇輝の肩を抱いていた。
俺が『これ以上聞きたくない』と言うように目を閉じて寝たフリを始めたから、諦めたのか呆れたのか、ようやく社長の言葉が止まる。
勇輝を抱き寄せる腕にさらにギュッと力を込め、薄目でチラリと勇輝の様子を窺った。
穏やかな顔で、規則的に続く呼吸。
どうやら今は夢の中らしい。
その呼吸のリズムが堪らなく心地よい。
それに自分の呼吸を合わせてみるとひどく気持ちが安らぐ。
社長の小言から逃れる為の狸寝入りのはずが、俺もいつの間にか勇輝と同じ呼吸のまま、意識も勇輝と同じ所へと沈んでいった。
**********
現場に着くなり、社長は勇輝の顔色にクレームが出るんじゃないかとビクビクしていた。
俺達はそんな社長を尻目に勝手に二階に上がっていく。
昨日の人数の少なさが印象にあるせいか、さすがに『なんのパーティー?』ってくらいの頭数にちょっと面食らった。
「あ、すいません。新東京テレビのディレクターで田口と言います。今日は度会先生の密着でカメラ入りますので、よろしくお願いします」
人の多さに呆然としていた俺達に不意にかけられた声に、慌てて頭を下げる。
「あ、よろしくお願いします」
「いやいや、こちらがお邪魔してるんですから。あ、そうだ...ちょっと二人にもインタビューとかしてもいいですか? 度会先生との事とか...」
「あ、いや、ルルちゃんとは...」
思わず言葉を返しそうになった勇輝の言葉を遮るように、俺は勇輝の前へと進み出た。
「度会先生からは、ありがたい事に俺達のファンだとしか伺ってません。それ以上の話なら、度会先生に直接お尋ねいただけますか? 俺達はただのモデルで、写真集の都合上勝手に話をしないように言われてますので」
笑顔を作りながらも、きつい目線を田口と名乗った男に向ける。
少し苦笑いを浮かべ首を竦めながらも、更に粘ろうとディレクターが口を開きかけた所で勇輝の肩がポンと叩かれた。
「おはよ。勇輝はあっちの部屋でヘアやってもらってきてくれる? 準備できたら撮影入りましょうね」
助け船のように割り込んできた声は、案の定馨さん。
勇輝をメイク用の部屋に押し込むと、チラとディレクターを冷たい目で見た。
「田口さん、約束が違いません? モデルにそういうインタビューとかしないって言うから、私昨日、普段は受けないインタビュー受けたはずなんですけど。写真集の宣伝してやってるんだからとか偉そうな事思ってるんなら、今すぐ帰ってもらえます? 約束違反したのはそちらなんで、こちらにはなんら非はありません。後程局の方にも正式に抗議させてもらいますから」
「い、いや...そんな、約束を反故にするなんてつもりは毛頭無くてですね、度会先生の人となりみたいなお話がちょっとだけでも聞けると今後の取材の時にも役立つと思っただけなんです、本当に申し訳ありませんでした」
「...これからも、話なら直接私に聞いていただけます? 今後彼らに迷惑をかけないと改めて約束していただけるなら、今回は不問としますので。はい、さっさとあなたも準備に入ったらいかがですか?」
結構な剣幕で怒られ、顔色を変えながらディレクターは取材クルーの元に走っていく。
そんな様子に、俺は思わず吹き出した。
「馨さん、強いなぁ。相手、テレビ局でしょ?」
「確かにテレビ番組の取材だけど、あいつらは所詮下請けよ。すこしでも面白いネタを入れないと局に示しがつかないとでも思ってるらしくてね、昨日のインタビューでも随分とエグい意味で突っ込んだ質問してきたわ」
「ふふっ、有名人は大変だ...」
勇輝の入った部屋の方をチラチラと見ながら、壁にトンと背中を預ける。
馨さんも同じ格好をして、俺のすぐ隣に立った。
思いの外近いその距離に何やら話があるのだろうと、俺からさらに間を詰める。
「昨日...したでしょ? ほんと元気だねぇ」
「あれ? 馨さんにまでバレちゃった? おかしいなぁ...そんな疲れた顔してます?」
「違うわよ。勇輝の甘さと色っぽさがね、半端じゃないの。まだまだ夜の余韻を引きずってるって感じ」
「...すいません」
「ううん、今日の撮影には丁度いいわよ。ベッドの上で、事後のイチャイチャを撮りたいんだから」
馨さんは真っ直ぐ前を見ながら、なんだか少し嬉しそうに口許を綻ばせていた。
俺も同じように真っ直ぐ前を見る。
「全部...聞いた?」
「...聞きましたよ」
「それにしては態度変わらないのね」
「別に変える必要も無いですからね。勿論、ビックリはしましたけど。とりあえず馨さんが俺にムキになって勇輝を幸せにしろ!って詰め寄ってきた理由がわかったんでスッキリしました」
ゆっくりと馨さんが俺の方に顔を向ける。
「あたしが勇輝を諦めたのは...間違いじゃなかったわ。あの子はちゃんとあなたに会えたもの」
「馨さんが、自分の寂しさを埋めるよりも勇輝の幸せを考えてくれた事に心から感謝します。で、勇輝もそれ、ちゃんとわかってますからね」
「そう...でもあの子は賢いから、きっと気づいてくれるだろうと思ってたわ」
「幸せにしますよ、これからもっと。男同士で、おまけに二人ともAVとか出てて、周りの視線とか厳しいんだろうけど...それでも幸せだって笑い合えるように頑張りますから」
「大丈夫でしょ。だってあなた達、最強のバカップルなんだし」
「うわっ、馨さんにバカップルって言われたくねーっ」
不意に隣から差し出された手をしっかりと握る。
「ぼちぼち勇輝の準備できるわよ。さ、みっちゃんも服脱いで待機してちょうだい。今日も気合い入れていきましょ」
「りょーかいっ」
テレビカメラの存在も、中村さんのビデオの存在も関係なく、寝室に入ると俺は躊躇う事なくパンツまで一気に脱ぎ捨て、ベッドの中へと飛び込んだ。
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