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温めよう【3】
大浴場と同じ様に特殊な加工が施された黒御影。
充彦の手を引きながら足を踏み出せば、やはりそれはピタリと吸い付くようでまったく滑る心配はなさそうだった。
さらに、この貴賓室に宿泊できる年代を考えれば当たり前かもしれないけれど、色々と高さの変えてある檜の腰掛けがきちんと隅に積み上げてある。
足腰が弱れば、俺達なら座るのにわけもない低い腰掛けに腰を下ろすなんてのも難しくなってくるものなのだろう。
座る事に痛みが伴うだけでなく、下手すりゃ転んで大ケガなんて事態も招きかねない。
さすがによく考えてあるもんだ...そんな事を思いながら、俺は3番目に低い腰掛けを手に取った。
充彦がいくら俺より体が硬いとはいえ、まさかこんな椅子に座り損ねてスッテンコロリンなんて事にはならないだろう。
それでも人並外れて脚が長いのは間違いなく、楽に腰を下ろすなら少しは座面が高い方がいい。
「はい、今から俺が全部やったげるから、充彦は楽にしてて」
「なあ、勇輝......」
「話はね、まずは体洗ってから!」
不安げに眉尻を下げる充彦なんてめったに見られるモンじゃない。
かなりレアな表情に写真の一つも撮りたくなるものの......
俺はこんな顔を見たいわけじゃない。
こんな顔は似合わない。
俺にしか見せないはずのこの表情に、優越感を覚えるのは確かだ。
ちょっと可愛いと思うし、守ってあげたいなんて気持ちが湧いてこなくもない。
けれどやっぱり充彦にはいつも飄々と、そして誰よりも凛々しくカッコ良くいて欲しい。
それこそが充彦だと思う。
俺は腰掛けを足許に置き、充彦の体をそっと押した。
渋々充彦はそこに腰を下ろす。
ソープやシャンプーがまとめてあるトレーを手繰り寄せると、俺は妙に小さく見える背中側へと回った。
桶に掬った湯をその背中にかければ、柔らかい間接照明の灯りを反射して筋肉が綺麗に浮き上がる。
俺みたいにトレーニングで付いたわけじゃない、本物の筋肉。
さっき匠さんの話していたかつての武勇伝を思い出し、胸の奥がキュンてする。
ポンプを押してソープを手に乗せると、タオルなんて使わずにその体に直接触れた。
変な緊張が続いてるのを表すように強張ったままの肩から背中へと手のひらをゆっくりと滑らせる。
マッサージの意味も込めて丁寧に、少しだけ力を込めながら。
その間も、さっきの『嫌いにならないか?』の質問に対して明確な答えを聞いてない事が気になってるのか、項垂れたような充彦の姿に力が戻る様子はない。
......そういうとこなんだよ、匠さんが言ってたのは...
俺はそのソープがぬるつく背中を後ろからふわりと抱き締めた。
「あのね...充彦は匠さんの言葉の意味、取り違えてると思うよ」
「え? 匠が...なんだって?」
「匠さんの言ってた『優しいクズ』って言葉の本当の意味、少し勘違いしてると思うんだ」
「何? どういう事?」
俺はポンプをもう一度押し更にソープを取ると、今度はそれを自分の体に雑に塗りつけた。
その体で改めて充彦の背中にしがみつく。
「匠さんてさ、職業で人に対しての見る目とか変える人? 例えば風俗なんて底辺の仕事だと思ってるとか、そんなとこで働いてる女とか気持ち悪いって言ってたとか?」
「んなわけないだろ。もしそんなタイプなら、ケガが治る前でも部屋から追い出してたよ。あの頃の俺が生活できてたのは、そんな女の子達が体張って頑張ってくれてたからだし。それに、そこに差別意識のあるような人間なら、一時的とはいえ風俗ばっか入ってるビルに暮らしてる事も許せないだろ。第一、AV男優の俺を『友達だ』なんてこんな部屋に泊めたりする男に職業差別的な偏見あると思うか?」
「うん、思わないよ、全然。思わないからこそ...充彦は勘違いしてると思ったんだ」
体を少しだけ動かす。
ピタリと隙間なく合わさった俺達の体の間で、ほんとなら付いてる意味もない乳首がコリッと擦れた。
そこからピリピリとした弛い感覚が肌全体に広がる。
なんだか、昔ソープごっこした時みたいだ...ここにはマットが無いから本格的に攻める事はできないけど、この乳首の刺激だけでも悪くない。
背中を胸で撫で擦りながら、そっと脇から前へと腕を伸ばした。
まだダラリと垂れ下がったままの場所。
それでもそこに微かに芯を感じ、ヌルヌルを丁寧に塗り込めていく。
「んっ...こら、俺は先に話を......」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと話はするよ。充彦はただ気持ちよくなりながら、俺の言葉を聞いててくれたらいいからね」
何が大丈夫なのかはわからないけど...思わず自分で自分に突っ込んで、クスッと笑いが込み上げる。
「出したくなったら遠慮なく出しちゃって。一回で終わるわけないのは俺が一番よく知ってるから。一晩かけてでも充彦の勘違いと俺の気持ちをちゃんと教えてあげる」
膝で立ち、背中を胸でスリスリと擦りながらうなじに唇を押し当てる。
充彦の背中を見てるだけでドキドキキュンキュンしていた俺のチンポは既に張り積めてた。
まずはその事を伝えるように先端で腰の辺りをツンツンとつついて擽る。
俺の右手の中の物は真意を知ってか知らずか...少しずつ重みを増し始めた。
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