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温めよう【9】

「お前、俺の事軽蔑しないの?」 俺が腰を揺らめかせ始めた事に気付いたのか、それに合わせて充彦がゆっくりと右手を動かす。 その顔は、一つの疑問が解決した事の安堵感と新しく生まれたらしい不安とが混ざりあった、どこか幼くも見える妙に艶かしさを見せていた。 今度こそ俺はいつも通りの笑みを浮かべる。 「なんで? どうして俺が充彦の事を軽蔑しなきゃいけないの?」 「自分では精一杯プロの仕事してきたみたいな顔しといて、実は気持ちが全然プロじゃないなんてさ...すげえかっこ悪いだろ。それに、男優になる前に俺に思いを寄せてくれた女の子に対しては、結構ひどい切り方してきたと思うんだよ。追いかけられても困る、俺にそんなつもりはない...それを言葉にはしないで、無視したり他の子を優先する事でわからせようとしたりね」 「ああ...それはなかなか本気でクズだね」 「わかってるってば...トドメ刺すなよぉ」 真剣に落ち込んでいるのか、せっかく現れた大好きな色気を台無しにするくらい眉毛が下がり、さすがにちょっとだけイラッとする。 ......俺の顔見てわかんないのかよ... 体を起こし、裏側を擦り合うぺニスの快感を追いながら俺は自分の指をペロリと舐めた。 指先から指の股までを丹念に舌を這わせ、そこにたっぷりと唾液を纏わせていく。 「充彦は、俺が昔河野先生に飼われてたって聞いて軽蔑した?」 「んなわけないだろ。そんなもん昔の話だし、それにあの先生がお前を大切にしてくれてほんとに良かったって......」 「うん、昔の話だ。河野先生との出会いが、ユグドラシルでの毎日が今の俺を作ったよ。じゃあ...充彦は?」 湿らせた指を後ろに回し、つぷりと中へと押し込んだ。 そんなプレイを敢えてする時以外、ここに自分で触れる事はない。 解して慣らす段階からが大切なセックスなんだと、充彦はすべてを自分がする事を望むから。 潤いが少し足りないのか、それともあまりに久々過ぎて要領を得ないのか、どうにも指が上手く入っていかない。 「......俺も...そうか...そうだよな。女の子を教育しながらセックスのテクニックを磨き、一方的に惚れられる事に懲りて相手との距離感の取り方を覚え、ギリギリの駆け引きしながら女優と恋愛ゲームを演じる事で男優として認められた...それが例え本物のプロとしての仕事じゃなかったにしても...だ。だからこそ俺はお前に会えた。大切な物を手に入れる為に必死になる事を知った」 「航生の悲しい過去が慎吾に出会う為に必要な物だったとしたら...?」 「お前の過去も俺の過去も、出会う為には絶対に必要だったんだよな。あーっ、もうっ...マジで情けないんだけど。俺はお前にどこまで言わせてんだよ......」 「情けなくないよ。充彦はいつだってどこでだって、頭もいいしカッコいい。そんな充彦が俺にだけは...俺の前でだけは、そうやって弱かったり後ろ向きだったりする姿を見せてくれるのは...ほんとはちょっと嬉しいんだ」 「俺もな.....」 二人のモノを握り合わせている手が右から左に代わり、空いた右手の指が俺の方へと伸ばされる。 表面をサラリとなぞったかと思えばそれはあっさりと唇を割って口内へと侵入してきた。 長く、そして節の張った充彦の人差し指と中指が、フニフニと舌を指の間に挟み緩く扱く。 「俺もさ、誰より頭の回転が早くて圧倒的に色っぽくて、どこにも隙が無いんじゃないかってくらいにいつだって完璧にプロフェッショナルな勇輝が...俺の前でだけ自分の快感を優先して必死になって、泣くほどよがって乱れてる姿見てるの...すげえ好きだよ」 充彦の声が、そして雰囲気が一気に変わった。 ......ああ、やっときた... その空気に当てられて、体温が一気に上がる。 自らケツを弄り充彦の指をしゃぶり、そして腰を振る俺...なんてイヤらしいんだろう。 そして、それでいいんだと...自分の求めるままに快感を追いかけて良いのだと教えてくれたのが充彦だ。 充彦の前でならいくらでも素直になれる。 充彦の為にならいくらでも淫らになれる。 俺は、他人に快楽をもたらす為のプロじゃなくていい。 充彦を温めてあげたかった。 本当に、俺の手で傷つき悩む充彦を温めてあげたいと思ってた。 だけどダメだ。 いつもの充彦に戻ったと気づいた瞬間から、もう体が疼いて仕方ない。 この人が欲しくて堪らない。 その思いを伝えるように相変わらず口の中を撫で回している指に舌を絡め、充彦の長大なモノを愛撫している時そのものの動きで頬をすぼめる。 頭を振りたくり強く吸い上げ、そしてわざとらしく唇の端から溢れる唾液を垂らして見せる。 そんな俺を見上げる充彦の唇がニーッとつり上がる。 充彦は左手も離してしまうと、ペチンと俺のケツを叩いた。 何も言葉にしなくても、わざわざ言われなくても、充彦の言わんとする事なんてわかる。 充彦が、何も言わなくてもこうして俺の求めている物がわかるように。 ああ...俺達はなんて幸せな関係なんだろう。 充彦の体の上をゴソゴソと移動し、その目の前にケツを差し出す。 俺の目の前にはトロトロと雫の止まらない充彦のペニス。 そこに舌を伸ばしかけ、またペチンとケツを叩かれた。 「舐めなくていい。昼間ふやけそうなくらい舐めてもらったからな。だから今度は俺の番。ここ、ふやけるくらいに柔らかくしてやるから、今日はこのまま上に乗ってろよ?」 俺がたっぷりと湿らせた指が蕾の縁に触れる。 たったそれだけの事なのに俺の口からは『はぁ...』と大きく吐息が漏れ、その吐息がかかった充彦のペニスはブルンと揺れた。

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