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もう少しだけ昔の話をしようか【5】

「うっわ...えげつな。監督、よくもまあ、あそこまでのメンバー集めたな...」 Qさんが心底嫌そうな顔で小さく呟く。 「ん? 共演経験有り?」 「まあ、みっちゃんにはたぶん一生縁無いわ。俺はね、あの...奥に座ってるずば抜けて派手な二人いんじゃん? あそこと共演ある」 教室セットの後ろの方に大迫力で陣取る6人組。 その中でも一際貫禄がある...じゃない、ド派手なおばさん...じゃない、華やかなお姉様達の事らしい。 「あの6人ね、ホンマモンのド淫乱。痴女系のビデオで、内容が過ぎるくらいハードだったり引くくらい喘いでたら、あの中の誰かが出てると思って間違いないよ。なんせ本気でセックス好き、激しくされるのが大好きで、『日本のビデオじゃ、ちょっと物足りない』とかってわざわざオッパイにシリコン入れてまで洋ピンにも出てるくらいだからね」 「ああ...そうなんだ...」 「ほっとくと誰彼構わずセックスに誘うってのも有名。ほら、男優に病気でも伝染したら困るじゃない? だから日本での出演が続いてる時は、クラブとかでわけわかんない素人とか引っ掛けたりしないように、制作会社が彼女ら専用のセックス要員用意してるくらいなんだよ。電話一本ですぐにチンポお届け~みたいな。あとは共演男優をそのままお持ち帰りも多いし、会社から頼まれる事もある。まあ、固定ファンがめちゃめちゃ付いてて、ビデオ出したら必ずヒットするから、会社としても待遇良くするしか無いんだよね...プレイにNGが無くて使い勝手もいいし」 「...なるほど。いろんな意味で、きつい人達だなぁ...」 セックスが好きな事を非難するつもりは無い。 つか、俺だって気持ちのいい事は好きだし、どうせするならセックス好きな子とガンガンイヤらしく楽しみたいと思う。 でも...さすがに『依存症』に近いレベルのニンフォマニアで、おまけにその感じ方が外国ポルノ仕込みとなると、いつでもどこでも戦闘オッケーな俺のチンポもたぶんフニャフニャだろう。 「こりゃあ新人くん、エロで済まないあの毒気に当てられて泣き出すんじゃないか? まあ、泣いたくらいで許してくれる女達じゃないけどな。寧ろ喜びそう...ああ、監督はそれ狙ってんのか?」 「怖ぇ...俺、無理かも」 「でも、お前の外人顔負けのデカチンは大好きだと思うぞ」 「いやいや、勝手に好きにならないで...」 本気で背筋がゾワッときた。 ヤバい、これから本番だってのに思い出しただけで勃たなくなりそうだ。 「勇輝、準備できたか?」 「あ、はい...」 阿部さんの声に、若い男の声が響く。 少しハスキーで、妙に色っぽい声。 高めで、良く言えば若々しい、悪く言えば色気が薄いなんて言われる声の俺からすれば物凄く羨ましい。 「遅くなりました。今日はよろしくお願いします」 ちゃんと建て付けてある教室のドアが開き、そこからブレザー姿の青年がチョコンと顔を出した。 「あの...子かな...」 「...ウソだろ...マジかよ」 野次馬全体が、その青年の姿にどよめいた。 現れたのは、まさに高校生くらいにしか見えない男の子。 それもみんなが...そして俺も...思わず言葉を失ってしまうほどのとびきりの美貌の持ち主。 くっきりとした大きな二重の目に、それを覆うようにぴっしりと生えた長い睫毛がうっすらと影を作っている。 高い鼻に、薄いけれど口角のくっきりとした赤い唇。 肌はかなり白くて、体毛が薄いのか髭剃りの跡すら見えない。 「ちょっと監督ぅ、ほんとにこんな可愛い男の子いただいちゃっていいの?」 女優さん達のテンションも一気に上がる。 下品この上ないことに、舌なめずりしてる人までいた。 「ああ、いいよ。本気で攻めちゃって」 「え~? 泣かせちゃうかもよ~」 「泣いたら泣いたで、このビジュアルなら最高に美味しいけどね」 「お姉様、止めて!みたいな?」 「どうぞどうぞ...できるもんならな」 キャキャキャッと笑い転げる女優さん達に向かって吐き出すようにポツリと漏れた監督の言葉。 どうやらそれが聞こえたのは俺だけだったようで、みんなの視線は相変わらずこの場に不釣り合いな美少年に集中している。 「勇輝、まだ役に入れてないな...大丈夫か?」 監督は、女優達に向けていたのがウソのように甘く優しい顔で男の子の肩を叩いた。 「うん、ごめんね。やっぱり少し緊張してるのかも...」 「大丈夫だ。勇輝、お前ならいける」 トントンとお母さんが赤ん坊をあやすように背中を優しく叩きながら、監督は男の子の耳許に唇を寄せる。 「いいか、今からお前は風紀委員長だ。あの問題児達にいいようにオモチャにされる...ただし、最初だけだ。それまではひたすら大人しくて可愛い、いつものお前でいればいい。まずは一生懸命抵抗してろ。あとはさっき言ったように、俺の合図で...覚えてるな?」 最初だけ? さっき漏れ聞こえた『できるなら』という言葉といい、いったい監督は彼に何を指示してるんだろう? まだ少し不安そうにしながら、男の子は監督の目をじっと見た。 「ほんとにいいの? 阿部さんに言われた通りに本気でいったら、このビデオのコンセプト変わっちゃうと思うんだけど...」 「いいんだよ。あの野次馬見てみろ...今日はあの野次馬にお前の凄さをお披露目すんだから、俺が合図出したら本気でいけ」 え? マジで今の会話ってどういう意味だ? 確認しようと隣を見たけど、Qさんは...よほど好みのタイプだったのか、その勇輝という男の子をひたすら見つめている...目をハートにしながら。 「Qさん! あれ、どう思います?」 「ん? ゆうきくん? 超好み! あれなら俺より体が大きくても構わない!」 「んなこと聞いてないですってば! あのねぇ...」 その時、その子がゆっくりと目を閉じた。 監督の手は、変わらず背中をトントン叩いている。 「いけます...」 言葉と共に目を開くと、彼は胸ポケットに入れていたシルバーの眼鏡をかける。 「変わ...った...?」 静かに立ち上がった彼の表情は、さっきまでの不安そうなものとはまるで違う。 少し神経質そうで、どこか嫌みすら感じる笑みを浮かべた。 「は~い、本番行きます!」 満足げにニヤリと笑った監督のその一言に、野次馬集団は一気に水を打ったように静かになった。

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