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温めよう【15】
「はっ...ああっ...あぁぁ...んっ......」
少しずつ押し出されるように漏れる吐息。
俺は目を閉じ、体を貫く熱い杭を締め付けながらユラユラと体を前後に揺らした。
腹に置いた手に体重をかければ、粘膜全体が柔く擦られる。
わざわざ立ててくれている膝に凭れるように充彦の腿の方へと手を移動させれば、前立腺から精嚢辺りの殊更敏感な場所を強く刺激される。
時折回すように腰をくねらせれば、その両方の快感に下半身が痺れる。
あれやこれやと細かく動きながら自分の性感を必死に高めようとする俺の体を、充彦の手はそっと支えてくれた。
そう、本当にただ支えているだけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
中のモノは熱く硬く猛ったまま萎える気配など微塵も無いから、決して感じてないわけではないだろう。
なら...どうして?
なんで...何もしてくれないの?
俺はゆっくりと目を開けてみる。
跨がられたままでピクリとも体を動かさない充彦は、腹が立つほど優しい瞳で俺を真っ直ぐに見つめていた。
なんだか一人だけ勝手に熱くなって勝手に浮かれてるかのようで、ちょっとだけ惨めな気分になってくる。
段々と腰をくねらせる力が入らなくなってきて、クンッ、クンッて申し訳程度に体を揺らすだけの俺に、充彦はちょっと半笑いにも見える顔で首を傾げた。
「何、どうした? チンポこんなにビンビンなのに、そんな動きでイケるのか?」
「......イケるわけ...ないし」
「だろ? んじゃもっと頑張らないと」
「だって...だってぇ、充彦が全然気持ち良さそうじゃないし。なんか...俺だけ勝手に盛り上がってるみたいなんだもん......」
「『だもん』て、子供かよ。なんつう可愛い顔して拗ねてんだ」
無意識に膨らましてたらしい頬っぺたをツンてつつかれた。
からかうようなその動きに余計にイラッとして、俺はそれこそ子供のように大袈裟にプイッとそっぽを向く。
クスクスと笑う充彦が、そのそっぽを向いた俺の唇をチョンチョンと指先で触れた。
「俺もちゃんと気持ちよくなってるっての。プシューッなんて中折れしてないだろ?」
「んじゃさ! んじゃ...なんで全然動かないんだよ。腰も動かさないし、どっこも触ってくれないし......」
「なんで動かないかって...動かないように我慢してるからですけど? ヘコヘコいかないように、今の俺、すっばらしい忍耐力を発揮中」
「はぁ? なんでそんなとこで無駄な忍耐力とか発揮してんの!?」
「今日の勇輝があんまり可愛いからね、もっともっと可愛く甘えてもらおうかなぁと思ってさ。ほらぁ、お前が跨がる前に、俺何て言った?」
「跨がる前?」
「俺にして欲しい事があったら、ちゃんとおねだりする約束したろ?」
うーん...そんな約束なんかしたっけ?
おねだりとか...そんな事......
......あ、したような気がする...
「思い出した? 今日のすげえ甘えん坊ですげえ可愛い勇輝にね、目一杯おねだりされたくて俺はじーっとひたすら我慢してたわけよ。お前の可愛いおねだりを全部叶えて、最高に幸せなセックスにしたいなぁって。ほら、勇輝のして欲しい事、俺におねだりしてみ?」
甘えん坊だの可愛いだの、何をわけわかんない事言ってるんだよ。
そんなもん、充彦よりごつい体してる俺が可愛いとか、目が腐ったんじゃないのか。
けど、俺を見上げてる充彦の目がほんとに優しくて...そーっと唇をなぞる指先が微かに震えてて...決してふざけてるわけでもからかってるわけでもないんだと伝えてくれる。
可愛いかどうかはまた別として、充彦は俺に甘えられたがってるんだなぁってのがわかる。
恥ずかしいと思わなくもないけど、それ以上に...なんか嬉しい。
甘えるのが下手だってずっと言われてた。
そもそも、甘えるというのがどういう事なのか自体よくわからなかった。
そんな俺が、充彦にはちゃんと甘えられるってのが...嬉しい。
それを充彦は喜んで受け止めてくれる事が...もっと嬉しい。
もう俺は甘えてもいいんだ...わがままでもなんでも、したい事やしてもらいたい事は口に出してもいいんだ。
ちゃんとそれを受け止めてくれる人が、ここにいる。
俺は薄く口を開いた。
変わらず愛しげに表面をなぞる指に舌をそっと伸ばす。
チュッと音を立ててその指先に吸い付き、チロチロと舌で擽った。
「ん? おねだりは?」
「......充彦も動いて」
「それで?」
「俺をいっぱい気持ちよくして」
「うん、それで?」
「充彦もいっぱい気持ちよくなって。二人で一緒に気持ちよくなろ? ね?」
「いいね、やっぱ最高。お前が可愛くて仕方ないよ」
俺なりの精一杯の『おねだり』は充彦の満足いくものだったらしい。
充彦の手が俺の腹をそっと押し、体を後ろに倒すように促す。
俺はそれに素直に従い、背中をしっかりと充彦の脚へと凭れさせた。
そのまま少し力を抜けば、改めて俺の中を貫くモノの熱さと硬さに息を飲む。
「あとはじゃあ...全部俺に任せて。飛ばない程度に天国の入り口見せたげるから」
「入り口だけ?」
「ほんとの天国は、ちゃんとベッドの上な。その後すぐにでも寝られるだろ?」
「寝るじゃなくて、気絶じゃないの?」
「それをご所望だろ?」
「......ご所望です」
「だから今は...その手前までな。ヌクヌクフワフワのベッドの上で、何回でも天国見せてやるって」
ユラァと充彦が体を起こし、膝がゆっくりと伸ばされる。
そこに凭れたままの俺の体は、充彦と入れ代わりにそっと脚の上に倒された。
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