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もう少しだけ昔の話をしようか【7】

その声は、今度こそ俺だけでなく周囲にも聞こえたらしい。 このシリーズではありえない、それも若い新人男優の反撃宣言とも言えるその言葉に人垣は一斉にざわめいた。 監督の指示でカメラマンはゆっくりと後ろに下がり、その集団全体を映し始める。 押さえ付けられ、もがき暴れていたはずの『勇輝』は、もう体を捩る事を止めていた。 口許にはうっすらと笑みさえ浮かべている。 ......なんて目だ ......鋭くてふてぶてしくて、そして全身が粟立つくらいに...艶かしい... その瞳に魅入られたように体を押さえ付けていた女達の腕からは力が抜け、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。 「どうした? 俺を楽しませてくれんじゃないの? だったらほら、もっとガンガン腰振れよ、このド淫乱が」 跨がったまま動けないでいる『アカリ様』の腰骨を指先がめり込むほどの力で掴むと、『勇輝』はガツガツと遠慮も躊躇いもなく奥を突き上げ始めた。 「ここだろ、お前が一番感じるとこ。ほら、ちゃんと抉ってやるからしっかり締めろよ。お前らも順番に気持ち良くしてやるから...覚悟しとけ」 蕩けたような目線を送りながら自分達で触り合いを始めた女達に明らかな侮蔑の視線を向けながら、『勇輝』は『アカリ様』を腰に乗せたまま、易々と体を起こした。 そのまま強引に体勢を入れ替え『アカリ様』の背中を床に付けると、その脚を両肩に掛ける。 力任せの乱暴な行為に見せながら、彼女の背中が床に叩き付けられる瞬間にはちゃんと衝撃からカバーするように首と背中には手が添えられていた。 ほんの一瞬のそんな行動に気づいたのは、現役の男優である俺とQさんくらいだろう。 「みっちゃん...ありゃあ、何モンだ?」 「うん...素人の動きには見えないね...」 女を組み敷いた事で、今度は『勇輝』の背中の筋肉が綺麗に浮かび上がった。 男らしいその筋肉を覆うのは、白く滑らかな...その体の下であられもない声を上げている女よりはるかにキメの細やかな陶器のような肌。 本来女が主役であるべきその光景の中心は、間違いなく『勇輝』だった。 大きく強く突き上げられた『アカリ様』の体は、その度に陸に打ち上げられた魚のようにビクビクと跳ねる。 腰の動きを止める事なく抱えた脚を肩から下ろすと『勇輝』はゆっくりと体を起こした、 余裕綽々の笑みをたたえたまま少し長い前髪掻き上げ、絡み合いながら二人をうっとりと見ている女達に中指を立てる。 「ほら、このままお前らも順番に気持ち良くしてやる。こっちにケツ向けて並べよ」 明らかに台本とは違うはずだ。 現に『勇輝』が反撃の動きを見せた時、彼女達は僅かではあっても驚きを見せていた。 けれど監督は、今繰り広げられている展開を止めようとはしない。 そして、女達も『勇輝』から責められる事を望んでいるかのように、惚けた顔のまま素直にケツを突き出しながら大人しく並んでいた。 『できるものなら』といった監督の言葉、『本気を出していいのか』と確認していた彼の言葉の意味を悟る。 女達は秘所を指で弄られ奥まで捩じ込まれ、涙と涎を垂らしながら腰を振りまくっていた。 相変わらず腰を打ち付けられ続けている『アカリ様』は、もう獣の咆哮のようだった喘ぎ声を出す事すらできなくなっている。 ただピクピクと体を痙攣させ、どこともわからない場所を虚ろな目で見ていた。 もう何度となく軽い絶頂を繰り返し過ぎたせいで、正気を失っているのかもしれない。 こうして、一度のカットの声もかからず撮影は進んでいく。 女達は一人、また一人と白目を剥き意識を失っていった。 余裕たっぷりだった『勇輝』もさすがに6人の相手をして疲れたのか、深くゆったりとした呼吸が増えてくる。 首筋や背中を幾筋も汗の玉が滴り、前髪が顔にかかる回数が増えた。 それでも、不敵な笑みだけは崩さない。 ...なんて...綺麗なんだ...... 時折何かに耐えるように歪むその表情も、汗のキラキラと光る背中も、女を喘がせ続ける腰の動きも、どれも堪らなくイヤらしくて美しい。 下衆な女達ではなく、堂々としていて、神々しいまでに美しい『勇輝』から目が離せない。 胸となぜか...チンポがドクドクしていた。 どれくらいの時間が経ったのか...いや、全員の相手をしていたわりには、それほどの時間は過ぎていなかったのかもしれない。 最後の女が体を震わせながら、パタリと床に倒れこんだ。 これまで『勇輝』は一度も射精していない。 「あの子、超遅漏なだけだったりして~」 明らかに興奮で上ずった声を出しながら、そんな自分を隠すようにおどけた口調で話すQさん。 それに返事をしたいのだけれど、俺の方こそ興奮し過ぎてるのか喉が渇いて張り付き、声を出す事もできなかった。 「ったくよぉ...お前らみたいなクズ女に手間かけさせんな。ほら、ご褒美にミルク飲ませてやるよ。ありがたく飲み干せ」 『勇輝』はまったく萎える様子の無いチンポを軽く自分で扱く。 その先端は完璧なタイミングでパンパンに膨れ上がり、倒れたままうっとりと『勇輝』を見上げている女達に向けられた。 盛大にぶちまけられるザーメン。 その射精の瞬間だけ、冷たいそれまでの表情ではなく、少年が快感に耐えているといった顔になった。 この顔がまたあまりにも綺麗で...見とれながら自分のチンポ扱きそうになってちょっと焦る。 一番側に倒れていた女の髪を掴み、その口に強引にチンポを突っ込んで綺麗に舐め取らせると、『勇輝』は何事もなかったかのような顔で剥ぎ取られていた制服を着直した。 「さて、皆さん。『全員を満足させられたら、月曜日からは服装規定を守る』って約束だったんですけど...いかがですか? 満足していただけました?」 最後に床に転がっていた眼鏡を拾ってかけ、ニコリと笑う。 その笑顔はついさっきまで見ていたふてぶてしい物ではなく、インテリ少年らしい神経質そうな少し卑屈な物だった。 女達は自分の顔にかけられたザーメンを指に取り、それを美味しそうに口に含んでいる。 「約束は守りますね?」 「あ、ああ...守るよ...守ります...」 「イイ子にしてたら...」 『勇輝』は女達の傍に膝をつき、その目を真っ直ぐ見つめながら僅かに眼鏡のブリッジをずり下げた。 「また可愛がってやるから、校則守れよ?」 自分のザーメンまみれの顔に躊躇う事もなく『アカリ様』の唇にきつく吸い付くとそのまま顔を離し、また見たことの無い笑顔でフワリと笑った。 「じゃあ、また来週。あ、皆さん早く服着ないと風邪ひきますよ」 颯爽と教室から出ていく『勇輝』の姿を、素っ裸のままの女達がうっとりと見送った。 「はい、カーーーット」 ようやくかかる阿部さんの声。 その声を聞いても女優さん達は立ち上がれないらしい。 「いまからダッシュで確認するんで、もし撮り直し部分あったらよろしく」 一先ず撮影は終わった。 阿部さんという人は、一気に最後まで撮り終えてからチェックして再度撮影というタイプの監督らしい。 こういうスタイルの撮影に入った事はなかったので、そこはなかなか興味深い。 本格的に監督がモニターを見始めた事で、野次馬の輪が少しずつ小さくなっていく。 「...はぁ...なんか...すげえもん見たな......」 「恥ずかしながら俺、男相手に初めて勃起しましたよ」 「女どもより色っぽかったもんな...」 「俺この後『笑顔のまま敬語で女を攻め立てる』って役なんですってばぁ...」 さっきのあの表情の変わりよう、そして滲み出る色気を見てしまうと、今から俺が同じような役を到底こなせる気がしない。 見るんじゃなかったと軽く落ち込みながら自分達のスタジオに戻ろうとした時だった。 「皆さん、さっきはずいぶん乱暴してしまって本当にすいませんでした」 どこでもらってきたのだろう。 人数分の濡れタオルとガウンを手に勇輝くんが戻ってくると、それを渡しながら女優陣に深々と頭を下げた。 「先輩の皆さんに本当に失礼な事を言ってしまって...おまけに下手くそですいません。気はつけてたつもりなんですけど、緊張してたんで...体傷つけたりしてないですか?」 あれが...下手くそ? 吹き出しそうになった俺よりも先に、女優達が大声で笑い始める。 「ちょっとちょっとぉ、あれで下手くそだったら、日本のAV男優の中にテクニシャンなんていないわよねぇ」 「台本と違い過ぎて驚いたせいもあるかもしれないけど、とりあえず撮影中のセックスでは、今日が一番良かったわよ」 おっぱいも股も放り出したままの女優陣に笑われて、今度は少し頬を赤らめて勇輝くんは俯いた。 「それに、スタッフとかマネージャーより先にタオル持ってきてくれた男優なんて初めてじゃない?」 「セックスにはずいぶん慣れてるみたいだけど、やっぱり新人なのね。初々しくて可愛い」 「うん、ほんと勇輝くんて...素敵。さっきの顔とかあんまり色っぽくて、ヤッてる最中何回も見とれちゃった」 「アタシも~。すっかりファンになっちゃったわ」 女優陣に囲まれ、さっきまでの妖艶な色気の欠片すら見せずにひたすら照れながらペコペコと頭を下げている勇輝くん。 「......やべぇ...たぶん俺が一番ファンになってるっつうの...」 自分のこれからの役を考えれば、まだまだ落ち込みっぱなしでおかしくない所だ。 けれどあの色気や迫力だけでなく、今女優相手に年相応か、それよりも幼い顔で照れてモジモジとしている姿が堪らなく愛しい。 ......愛しい? 愛しいって...なんだ? 一瞬自分の感情がわからなくなった。 可愛いなぁって女の子はまあ知ってる。 ヤりたいと思うお姉ちゃんにも一応会ったことはある。 けれど今俺があの子に抱いている感情はそのどちらにも似ているようで、でも少し違っていて、何よりももっと強い。 「勇輝くん、すげえ可愛いな。これからも男優続けてくれるかなぁ...そしたらさ、これから現場一緒になる可能性あんじゃん? 俺、仲良くなりてーっ」 Qさんの声にハッとさせられた。 そうか。 勇輝くんがこのまま男優を続けてくれれば、いつか現場で会える可能性があるのか。 こうして離れた所から眺めているだけじゃなく、同じ現場で同じ空気を吸える事ができれば、今俺の中に生まれた感情の名前がハッキリするのかもしれない。 続けて欲しい...そしていつかあの目で俺を映して、『みっちゃん』と甘く名前を呼んでもらいたい。 「お待たせ。ようやくワガママちゃん来たよ。どう、いける?」 「......勿論。本気の本気でいくから」 あれほどの色気は出せないかもしれない。 けれど俺にはこれまでの経験がある。 負けられないのだ...いつか現場で勇輝くんに会うまで、俺は一線にいなければ。 気合いを入れ直し、まだ女優陣から解放してもらえないでいる美しい青年の方を一度だけ振り返ると、胸のときめきを必死に抑えながら元のスタジオへと戻った。

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