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もう少しだけ昔の話をしようか【8】

「なるほど...勇輝くんの憑依型の役作りは当時からか。しかし勇輝くんだけじゃなく、みっちゃんも一目惚れだったとはねぇ」 「ま、そうなるかな...一応」 改めて言われてみると妙に恥ずかしくて、それほど吸いたいわけでもないタバコにまた手を伸ばす。 「さて、ここで一つ質問。元々ゲイ寄りのバイセクシャルだったと思うっていう勇輝くんはともかく、みっちゃんはノンケだったわけでしょ? 男性に対して性的な意味で惹かれるって事に抵抗は無かった?」 「そこはねぇ...まあ一言で言うなら無かったかな。別に恋愛の対象が常に異性じゃないとダメっていう倫理観があったわけじゃないし。というか、勇輝に会うまでは誰と付き合っても誰と寝ても、それが恋愛だとは思わなかったからね。寝る以上は相手の事メチャメチャ大事にするし気持ちよくもするよ。でもそこに俺の感情は無かった。ただ居心地が悪くなければそれでいいの。そんな風にしか考えられない自分が歪んでるってのはわかってたし、死ぬまで俺はこんな人間で、きっと一人ぼっちでのたれ死んでいくんだろうなぁって諦めてたんだ、勇輝に会うまでは」 「勇輝くんは初めてみっちゃんの感情を揺さぶった?」 「......うん。初めて見た時から実際共演するまで、結構時間かかったのね。それぞれ求められてる現場が違うってのもあったし、女性向けAVが本格化した事もあってお互い急に仕事が増えちゃって。で、勇輝は俺の事知らないけど、実は俺はもうアイツにメロメロだったりしてるわけよ。近くのスタジオで撮影してるとか聞いたらこっそり覗きに行ってたからね、気持ちが募りすぎて」 「陰からこっそり見てたの?」 「そう。んで昼間散々撮影で射精してんのに、夜は夜で勇輝で抜いてたもん」 「......かなりストーカーチックだね」 「それまでそんな気持ちになったこと無いからさぁ、どうやって募る思いを解放したらいいのかわかんなかったんだなぁ」 自分が少しおかしいなんて事は十分わかっていた。 何をどうすれば勇輝に近づけるのかわからなくて、ただ焦がれながら見つめる事しかできなかったのだ。 だけど、そんな状態が半年を超えようかという頃には...思いは募り過ぎて限界を迎えた。 「で、ようやく念願叶って共演できたんだ?」 「それはちょっと間違い。さっき話したでしょ...格好つけてばっかりじゃダメで、なりふり構わずがむしゃらにならなきゃいけないって気づいたって」 「ん? どういう事?」 「念願叶って共演...じゃないの。共演できるように、裏で監督やら会社やらにアイデア出しまくったんだよ。どうしても共演したくて、俺が自分で画策したの」 社長から聞かされていたビデオの企画の中で少しでも誰か共演者を差し込めそうな物があれば、自らそこに勇輝を匂わせるキャスティングを加えた企画書を会社まで持っていった。 『女優がもっと可愛く見えるようになるよ』 『女性向けの内容だから、今後雑誌なんかでも取り上げられるはず』 もっともらしい理由を並べ、さも『売り上げの為を考えました』なんて顔で監督を、販売の担当を、そして女優側の会社まで丸めこんだ。 思った通りのキャスティングがなされないまま3本ほど撮影して、その念願が叶ったのは4本目だった。 「なるほど...確かにがむしゃらだ」 「でしょ? もうね...共演できるってわかった途端涙出そうになって、結局は本人に会う前に『好きなんだな』って気持ちを自覚してた」 「でも、勇輝くんがガチガチに緊張してた所を優しくかっこよく導いてあげたんでしょ? そんなに気持ちがガーッて盛り上がってる感じしなくない? 余裕たっぷりみたいな」 「だって俺、その時にはもう勇輝を落とす気マンマンだったからね、あんまりがっついてる感じ出さないように必死だったもん」 「ふ~ん...結局お付き合いするようになったのはその時?」 「いやいや、その時は勇輝の方から連絡先聞いてくれて、アドレスとか交換して、それで終わり」 「そうなの?」 「うん...でもまあ、それからはここぞとばかりに食事やら酒やら誘いまくったけどね。んでそっから更に半年くらい経って...」 「ストーーーップ」 いきなり中村さんがニヤリと笑う。 「そこからは場所変えて、二人のイメージビデオ撮ってからまた話聞こうかな」 「...はぁ?」 「まあまあ、ちょっとした悪巧みがありまして」 「自分で悪巧みとか言っちゃう?」 「うん、言っちゃう。後から怒られるのとか嫌だし」 「...ちょっとぉ、怒るような事企まないでよ」 先に立ち上がった中村さんに続き、俺もノロノロと立ち上がる。 「なんか、怖ぇよ...」 「ほら、いいからいいから。勇輝くん、退屈過ぎて寝てるかも」 チラリと時計を見る。 確かに少し長く喋りすぎたかもしれない。 机に突っ伏して寝入ってしまっている勇輝を想像し、内心少し焦った。 「仕方ない。退屈しているであろう勇輝の為に、中村さんの悪巧みに乗ってあげるよ」 俺は灰皿を持ちパソコン脇に置いてあるバケツに吸い殻を片付け、カメラを持った中村さんに続いてその小さな部屋を出た。

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