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汗もしこりも流してしまおう【充彦視点】

朝8時。 朝食と打ち合わせの為、勇輝と並んで部屋を出た。 それにしても、ほんとコイツの体力には驚かされる。 普段ほどの時間も回数もかけてないとはいえ、そこそこガッツリズッポリ奥の奥まで俺のモノを咥え込んでたのは6時間ほど前の事だ。 いつもならその後のダメージを考えて、仕事前には侵さない場所まで俺を受け入れてたというのに、今は何も無かったような顔で部屋の鍵を確認している。 もっとも本当にノーダメージかっていうと当然そんなわけはなく...俺は微かに震えている膝を見ないフリをし、背後からそっと腰を支えた。 そのついでに耳の裏にチュッと音を立てて口を付ければ、そこから面白いように赤みが広がった。 拗ねてるのかおねだりしたいのか、何とも判別のつきにくい瞳でジッと睨んでくる。 「やめろよ、すんげえ頑張ってるんだから」 「あ、やっぱり? でもあんだけヤッたわりには今日元気だよな。一応頑張ったら普通に歩けてるじゃん。時々寝込んで動けない日もあるってのに」 「あのねぇ...動けない日は、1回で終わってないから! だから言ってんでしょ、『意識失ってたら顔張ってでも起こす』『意識戻るまで突っ込んで腰振ってる』って。1回くらいなら、ちょっとくらい無理したら踏ん張れるの。1回で終わってくれないから体動かせなくなんの!」 「えーっ!? でも本気では嫌がってないくせにぃ...俺が、ほんとにお前が嫌がる事すると思う?」 「......それは...思わないけど」 ほんのりと首まで朱を走らせるその姿に愛しさが募り、つい勇輝の体を抱き寄せた。 後ろから優しく、けれどしっかりと包み込むと、さっき口づけた耳裏からうなじへと鼻先を擦り付ける。 「ちょっ、充彦......」 「マーキング、成功」 「マ、マーキングって!」 「だってさぁ......」 抱き締める腕に少しだけ力を込め、フーッと耳許に息を吹きかけた。 「全身、どこからも俺の匂いがするくらいまで満たして欲しいって言ったの...勇輝だろ?」 言葉はいくらか軽めに、けれど声色は落としてその鼓膜に直接語りかける。 途端に勇輝の体からは力が抜け、遠慮なく俺に凭れかかってきた。 「充彦、それ反則...朝御飯いらないから、もう1回部屋に籠りたくなるんだけど。ねぇ...ほんとに俺、充彦の匂い染み付いてる?」 今にもトロトロと溶けていってしまいそうな瞳を向けながら、勇輝がフワリと幸せそうに微笑む。 ......よし、朝飯抜きでもいいよな、勇輝もそう言ってるんだし 勇輝の手の中のカードキーをスルリと抜き取ると、その体に『回れ右』を促した。 そのままカードをパネルに近付けようとした所で...バンッと大袈裟な音と共に向かいの部屋のドアが開く。 「い、いい加減にしてください! ったく...部屋の前でとんでもなくイチャイチャしだしたから、こっちは一応遠慮して発情期が通りすぎるの待ってたってのに...」 「おいおい、発情期って...」 「発情期以外の何物でもないでしょうよ! ほんと、セックスの為なら時間も場所も選びませんよね!」 「はい、間違いで~す。セックスの為ならじゃなくて、勇輝とのセックスの為ならで~す。お前、バッカじゃねぇの?」 「はぁ!? 馬鹿はどっちですか、馬鹿は。これから打ち合わせ兼ねた食事だってのに、あんたら部屋に戻ろうとしてたでしょ!」 「忘れ物したんだよ、わ・す・れ・も・の!」 「どうせ充彦さんの忘れ物なんて『寝起きの一発』とか言うくせに!」 「おっ、正解で~す、ピンポンピンポ~ン」 「正解ですじゃないし!」 ......あ、俺...今航生と普通に喋れてる... 昨日の夜のような、少しじゃれて見せながらもお互いの距離感を計りかねて探り合っているような物じゃない。 全力でからかい本気で反論し、それが何の遠慮も無い会話。 いつもの、当たり前の俺達の空気。 航生もそれに気づいたんだろうか。 一瞬だけ呆然としたように口を半開きにしたと思うと、その凛々しい顔をクシャと歪めた。 「航生......」 「昨日は...すいませんでした! 充彦さんは関係ないのに...俺の恩人なのに......」 やっぱり航生も気にしてたんだな。 そして一晩かけて、慎吾くんに温めてもらったのか...俺みたいに。 少し俯いたまま泣きそうになってる航生の頭をグシャグシャって力一杯撫でてやる。 「まったくだっての。八つ当たりで俺に食ってかかるとか、60億年早いんだよ」 「ちょ、ちょっとぉ...せっかく慎吾さんにセットしてもらったのに、グチャグチャにしないでくださいよ」 「うっせぇ、うっせぇ。あーあ、お前のせいで萎えたから、飯食いに行くぞ」 これで全部終わりだとばかりに航生の背中を思いきりペシッと叩く。 航生は『痛い、痛い』と言いながら、不細工な泣き笑いの顔で歩きだした。 「ほら、充彦行くよ」 今度は勇輝が俺の背中を目一杯バシンと叩く。 きっと俺も泣き笑いのおかしな顔をしてたんだろうな...なんて思いながら、その勇輝の手を掴まえギュッと握った。

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