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求め、求められて【3】
連絡先を交換はしたけれど、正直俺はそれだけでもう満足だった。
いきなり後輩がモジモジしながら、暗に『これからも連絡したい』と匂わせるような事言い出して、きっと迷惑だったと思う。
でも嫌な素振りを欠片も見せないで、快くアドレスだけでなく電話番号まで交換してくれた。
繋がりが切れなかった...それだけで本当に満足だったんだ。
けど、気を遣ってくれたんだろうか。
その日の夜には早速みっちゃんからメールが来た。
『今日はお疲れ様。俺は今取材終わったよ。これから、次の打ち合わせ兼ねて飲みに行きます。悩みとかあったら相談を...なんてだけじゃなくて、いつでも気軽に連絡してきてね、マジでマジで。ちなみに俺は、ウザいくらい連絡するつもりなんで覚悟するように。じゃあ、またね。おやすみ』
夢かと思った。
それが例えただの気遣いでも社交辞令でも、こうしてメールが本当に来た事が嬉しくて仕方ない。
『今日は本当にありがとうございました。お会いできて嬉しかったです。また是非、お仕事ご一緒させてください』
すぐに返信して、みっちゃんからのメールに保護のロックをかける。
なんだかそのメールを見ているだけで、明日からもすごく頑張れるって気になった。
みっちゃんの『ウザいくらい連絡する』という言葉が決して社交辞令なんかじゃないというのがわかったのは、その翌日。
仕事に向かおうと着替えていると、メールの着信を知らせる音が響いた。
仕事以外のメールなんてほとんど入る事はないから、現場の変更でもあったのかと急いで画面を開く。
送信者は...みっちゃん!?
『おはよ~。俺、今日昼間仕事空いてるんだけど、もし用事が無かったらランチでも食いに行かない? ボロで悪いけど、家教えてくれたら車で迎えに行くし』
......仕事、サボろうかな...
できるわけもないのにそんな事を思いながら、泣きそうな気持ちで返事を送る。
『せっかく誘っていただいたんですが、これから撮影が入ってて。本当にごめんなさい』
それほど待つこともなく、すぐにまた返事が来た。
『ごめんごめん。いきなり声かけた俺が悪かった。だから、ごめんなさいは無しな。んじゃさ、今度仕事が終わるタイミングが上手く合ったら、飯でも酒でもいいから付き合ってくれる?』
本気で...俺を誘ってくれてるの?
もしかして、俺なんかとでも話がしてみたいなんて思ってくれてるんだろうか?
嬉しい...本当に嬉しい...
だって少なくとも俺は...みっちゃんともっと話したい......
『嬉しいです。俺もっとみっちゃんと話したいし、色々教えてもらいたいし。是非また声かけてください!』
送信してみて、ちょっとテンション上がり過ぎだろって落ち込んだ。
気持ちそのままのメールになってしまって、ドン引きされたりしないだろうかと不安になる。
またすぐに届いた返事を慌てて開いた。
『ほんと!? 俺、ちゃんとウザいからって予告はしたけど、あまりのウザさに引かれてないかちょっと心配してたんだよね。ほんとは昨日ももっと喋りたかったんだけど時間無かったから、勇輝くんともっと話したくて。忙しい時間にごめん。じゃあまた連絡するから、仕事頑張って。今日も女の子、ガンガンにイカせちゃってね~』
はいっ! 頑張りますっ!
届いたメールにペコペコ頭を下げ、その画面をキュッと胸に押し当てた。
俺ともっと話したいと思っててくれたなんて感動だ...ほんと泣ける...
「よし、今日も頑張ろう」
ヤル気マンマン!
今日もみんなに『良かったよ』って言ってもらえるよう、自分にできる精一杯の事をしよう。
俺はもう一度ギュッと携帯を握りしめ、真っ直ぐ前を向いて部屋を出た。
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