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近づきたい、近づけない【2】

みっちゃんの絡みの後で俺も絡みを撮った。 力を込めて組み敷けば、少しだけベッドに沈む華奢な体。 じっと見つめている俺を前にあんなにエロい顔でこの体に触れていたと思うと、腹の底の方に妙に冷たい炎のような物が灯るのを感じる。 「俺の事、どう思ってんの? 俺の事、好きなんじゃないの? からかって弄んでるなら...もう...止めてよ...俺はあなたへの気持ちが...こんなに抑えられなくなってるのに...」 台本に書いてあったままのセリフ。 それを口に出すだけで辛くなってきて、勝手に声が震えてしまう。 「妬いてるの?」 「......妬いてるよ...」 おそらく涙が滲んでるであろう目で、睨むように彼女を見つめた。 妬いてます...... 今の俺は...共演者というだけであの人に触れてもらえるあなたへの嫉妬で...狂いそうです...... 「あなたはあなたで好き。でもね、あたしにとっては、あの人も大切なの。二人から愛される事で、あたしはあたしでいられるのよ」 クソッ、下手過ぎるだろ。 こんなにセリフが下手くそでも、オッパイがあってチンポが無いってだけでみっちゃんに触れてもらえるなんて... みっちゃんに触れる事を許されるなんて... 「どちらかを選ぶってできないの?」 「さあ...どうかしらね...あたしにもこの先はわからないわ」 ここからは、テクニックではなく感情に流された勢いだけのセックスになだれ込む。 噛みつくようにキスをしながら、形が変わるほど強く乳房を揉みしだいた。 何をどう考えても下手くそで、そのくせわざとらしく体を捩らせるから、感じてるのか嫌がってるのかすらわからない。 やりにくい...無理矢理盛り上げた気持ちが萎えそうになる。 カメラが俺の手元を撮ってる事を確認して、何気なくスタジオを見回した。 スタジオ入り口の扉に凭れるように立っている大きな影が目に入る。 ...みっちゃん...... その顔は恋敵であるサラリーマンそのもので、余裕たっぷりに笑みを浮かべ、腕を組んで真っ直ぐにこちらを見ている。 悔しい...こんなに俺はあの人を好きになってしまって...こんなに苦しくなってしまって... 俺の勝手な気持ちだってわかってるけど、だけど俺をこんな気持ちにさせたみっちゃんが悪いんだって思わないと芝居なんて続けられない。 俺の中の八つ当たりみたいな気持ちを恋敵へのジェラシーへと強引に置き換え、わざとらしい反応なんて無視しながら腕の中の体をひたすら愛撫した。 ********** 「お疲れさま~。ゴム着けるのも上手くいってたじゃん。やっぱり勇輝くん、覚えんの早いなぁ」 「......ありがとうございます...」 撮影中に腹の中に溜まったドロドロとした感情をまだ引きずっている俺は、優しく笑いかけてくれるみっちゃんの顔をまともに見る事ができない。 それをどう判断したのか、みっちゃんは困った顔をしながらもまた俺の頭をポフポフしてきた。 「ごめんごめん。撮影終わるまでは俺らライバルだもんな。せっかく役に入ってんのに気安く声かけてごめんね。あ、でも一つだけ言わせて。『からかってるんなら、もう止めて』ってとこのセリフ。あれ、すげえ良かった。怒りとか切なさとか無理矢理抑え込んで、それでも抑えきれない感情がどうしようもなく溢れてきてるって思えて、見てても苦しくなったよ。続いたあの女のセリフがあんな棒じゃなかったら、俺涙出たかも」 あれは本心だから。 楽しくて嬉しくて、だからこそどうしようもなく苦しくて切ない、あなたへの本心だからです。 俺はまたちょっと泣きそうになって、急いで下を向いた。 「仕事終わったらちゃんと役抜いてね? 念願叶ってやっと一緒に飯食いにいけるってのに、勇輝くんのそんな悲しい顔見てたらさ、俺まで泣けてくる」 「わかってます...大丈夫...です...」 そう、大丈夫...あんな女優がいなければ、俺が嫉妬でこんな顔する事なんてない。 現場さえ離れてしまえば、きっといつもの顔に戻れる。 下を向いたまま顔が上げられないでいる俺に怒る事も呆れる事もしないで、みっちゃんは次のシーンの準備に入った。 今日はこの後、『どちらが彼女を悦ばせられるのか、3Pの中で決めてもらう』なんていうAVにありがちなトンデモ展開を撮影する。 残りのみっちゃんと彼女、俺と彼女のイメージシーンはまた明日以降別々に撮るらしい。 俺は下着だけを穿いてガウンを着ると、その為のベッドが置いてある隣のスタジオへと向かった。

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