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Let's enjoy submissive play!【充彦視点】
そろそろ『新年の準備』なんて言葉が聞こえ始めたとある休日の午後。
いやまあ、世間的には年の瀬で皆さん慌ただしくしてる平日の日中なんだけど、実質開店休業状態の俺と、珍しくこの週末まで1週間完全オフの勇輝。
ああ、こんな日はものすごく得している気分になる。
この数日は二人でゆっくり買い物に行ったりのんびり部屋で寛いだりって時間をずいぶんと楽しんだ。
もっとも、ソファでただのんびりとゴロゴロしてるうちにどちらともなくムラムラして、そのままイチャイチャアンアン...なんて流れになることが無かったとは言わないけれど。
夜は夜で、二人とも中身が空っぽになるくらいエッチしてるはずなのに、朝だろうが昼だろうが一緒にいるとヤりたくなるってのはどういうことなんだろうな。
ほんと、人体の不思議...って感じ?
特に、今や欲の対象が勇輝しかいない俺はともかく、仕事で女の子相手にセックスしまくってる勇輝が俺と同じペースで射精できるとか、ほんとすごいと思う。
もし勇輝が仕事辞めたらどうなるんだろう?
俺一人では物足りなくなって、欲の捌け口を外に求めるなんて事になるんだろうか...そんな事を考えると冗談にしても笑えなくて、寧ろ怖くてゾッとする。
まあそんな事にでもなるようなら、それこそよそに目を向ける暇も体力も無くなるくらい、改めて毎日毎晩満足させるように精進するけども。
そんな下らない事を考えながら、俺は火にかけていた鍋を下ろす。
中身はブルーベリーのコンフィチュール。
季節外れながら生の綺麗なブルーベリーを売ってるのを見たら、どうしても作りたくなって買ってきた。
これから粗熱を取って、煮沸した瓶に詰めて出来上がりだ。
明日の朝にはこの手作りのコンフィチュールとホイップしたクリームをたっぷり添えて、フワフワのホットケーキを焼いてやろうとか思ってる。
顔を上げ、リビングに目をやった。
勇輝の方は、ただいまノートパソコンを開いてお仕事中だ。
実は俺も勇輝も、一応『ブログ』なんて物をやっている。
事務所管理でメディア情報や最新のビデオ紹介なんかをやってるホームページの一部。
ヌードだモザイクだなんて画像も動画もバンバン流れてるホームページだけに気軽にお子様に見てもらうってわけにはいかず(まあ、それはたぶん後付けの言い訳だな)、現在はクレジット認証の有料会員システムを取っている。
当然お金をいただいている以上、ファンの皆さんにサービスをしないわけにはいかない。
元々勇輝は、ホームページの有料化自体猛烈に反対したくらいファンを大切に思ってるから、『せめてこれくらいは...』なんてわりとマメにブログを更新しているし、届いたメールにもできる限り返信していた。
かく言う俺も、今は特に目立った活動してないんだから関係ない...なんて無責任な事をできるはずもなく、勇輝ほどではないにしろ、ちゃんと定期的に更新はしている...ほぼ、『お料理ブログ』化してるけど。
今日の勇輝は記事の更新ではなく、前回アップした内容に付いたコメントにお返事をしているらしい。
ニヤニヤ笑っていると思ったらすぐに何やら眉間に皺を寄せてみたり、見ているだけでも飽きないくらいにクルクルとよく表情が変わった。
「よっしゃ、終わった~」
目頭を押さえながら、勇輝がグッと背伸びをする。
俺はその声を聞き、目の前にそっとマグカップを置いた。
「あ、すっげぇ甘いイイ匂い。今日のは何? これ、初めてじゃない? 紅茶じゃないよね? 緑茶みたいな色だけど...香りが全然...」
「緑茶で合ってるよ。ただし、桃のフレーバー付き。珍しかったんでつい買っちゃった」
勇輝はそれをクイと一気に口に含みしばらく鼻を抜ける香りを楽しむと、ゆっくりコクンと飲み込んだ。
瞬間、その顔がフワと穏やかになる。
「ああ、すごいね、これ。爽やかでほんのり甘くかんじる。だけどやっぱり緑茶の微かな渋味も残ってて...うん、美味し」
「でしょ? 味見してみてすごい気に入ったんだよね。冷たいのも美味しいと思うんで、ただいま冷蔵庫で水出し中。風呂上がりにでも飲もうか。んで...どした?」
「ん? 何が?」
「なんか嫌なコメントでも来てた? さっきからここが...」
俺は指を伸ばし、勇輝の眉間をプニと押した。
「ちょっと難しい顔になってる」
「いや、別に嫌なコメントってわけでもないんだけど...」
だけど...と考え込んでしまったせいか、せっかくお茶の効果で薄くなっていた眉間の皺が、またクッキリと浮かび上がった。
そのまま言葉をゴニョゴニョと濁したまま、顎に手を当てて口をつぐんでしまう。
「ほらぁ、そんな顔しないの」
頭を引き寄せ、額にソッと唇を押し当てる。
俺のコンフィチュール作りは一段落したし、勇輝のパソコン仕事も終わったから少しイチャイチャしたかったんだけど、今は何やら考え事をしてるみたいだ。
しばらく放っておいたほうがいいだろうか。
その時、ふと勇輝の表情が変わった。
すっきりしたというか、妙に吹っ切れた表情で俺を見上げてくる。
「あ...俺って天才......」
「ん? 何、どうした?」
「いや、あの...別になんでもないよ。あのさ、充彦って明日仕事は?」
「明日までなんも無いよ。明後日はちょっとグラビアあるけど。年内はビデオの予定も入ってない」
「そっか、オフか...じゃあ、やるなら今日しかない...わけだな......」
「だから何?」
「いいっていいって、気にしない!。それよりさ、今からちょっとイチャイチャしよう」
何を突然思い立ったのか、いきなり勇輝が立ち上がった。
いやいや、俺的に当然願ったり叶ったりな申し出だし、元々そうしたいとは思ってたんだけど、今の勇輝からはどうにも『イチャイチャしたいの~』なピンクのオーラが出ていない。
つか寧ろ、『ニヤニヤ』とどす黒いオーラが見えるような...
今の俺、悪い予感しかしません。
そんな俺の思いなんかどこ吹く風。
勇輝はいつもの『エッチでキュート』な雰囲気など欠片も見せず、どこか事務的な空気すら漂わせながらそそくさと寝室へと向かってしまう。
「片付けが終わったら早く来いよ~」
チラリとこちらに振り返り、珍しく投げキッスなんてしてきた!
絶対に何かある...何か良からぬ事を企んでる。
これは間違いなく罠だ。
ハニートラップだ。
言葉の使い方が間違ってる気がするけど、今の俺にはそんなことどうでもいい。
ああ、神様...俺は...いやいや、男ってのはどこまでバカな生き物なのでしょう。
これが例え悪企みだろうと、扉の向こうに何かのトラップが仕掛けてあろうと、そこに愛しのウサギちゃんが横たわり俺に『カモーン』なんて手招きしてると思えば、それはもう行かねばならぬのです。
だってもう、『カモーン』を想像した俺の愚息は『ゴー!』な状態になってるんだもん。
勇輝の投げキッスなんてレアなモン見せられて、これが大人しくなんてしていられましょうか?
いや、絶対無理だから。
まあね、なんぞ悪い事考えてるっつったって、別に殺されるわけでもチンコ切られるわけでもない。
勇輝の企みなんて、知れてる知れてる。
俺は下半身の意思に従うぜ!
......というわけで、一瞬の躊躇いがあったものの、俺は勇輝の飲み干したカップをシンクへ持っていくと、大急ぎでリビングを後にした。
すぐにその『たかが知れてる』はずの企みにギャフンと言わされる事になるとも知らないで。
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