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守りたくて壊したい矛盾【2】

横たわる白い体を、手のひらと唇で丹念に愛撫していく。 そっと優しく、もう傷つけてしまいそうになることなどないように。 これまでに抱いたどんな体より、勇輝の肌は滑らかで艶やかで美しかった。 表面に唇を滑らせるたびに、珠のようなその肌がプツプツと粟立ち、しっとりと汗が滲む。 こうして触れてみて改めて実感したのは、どうやら勇輝は恐ろしく敏感な体をしているらしい。 腕を取り、二の腕の皮膚の薄い所にチュクと吸い付いただけで体をビクビクと震わせ、小さな喘ぎ声を止められないままその刺激から逃れるように背中を反らせた。 あまりの反応の大きさに、これは一瞬演技なのではないのかと疑ってしまいそうになる。 「なあ...お前っていっつも...こうなの?」 胸の先の小さな飾りを舌でコロコロと転がしながら、率直に尋ねてみた。 とりあえず嘘は嫌だ。 遠慮もしたくないし、されたくもない。 当然、演技で感じたフリをされるなんてまっぴらだし、大して気持ち良くないならそう言ってもらえるほうが後々の二人の為だと思う。 勇輝は俺の言葉の意味がわからないらしく、涙を滲ませた目で俺をぼんやりと見てきた。 「こうって...?」 「俺がどこ触っても体ビクンビクンしてるじゃん。でも撮影の時とかさ、別にこんなんなってるわけじゃないだろ?」 首筋をゆっくりと舌先でなぞり上げ、耳の裏側を鼻で擦り、耳朶を唇で挟む。 右手でそっと頭を撫でてやりながら左手を下腹部へと伸ばすと...そこは水溜まりでもできるのではないかというほどにびっしょりと濡れていた。 「や、やめて...今触らないで......」 チンポを握ろうとする俺の手を拒み、必死に腰を捩る。 「何? 別にいじわるするわけじゃないよ? ちょっと触ろうとして...」 「俺、変なんだ...おかしい...おかしいから...充彦にあっちこっち触られてるだけで、もうイきそうなの...だから今はちょっと触らないで......」 あぁ...演技...じゃないのか。 勇輝本人が戸惑うくらいに、本当に感じて乱れてるんだ...俺に触られてるから。 ああ、ダメだな俺。 ほんと最低。 過去にどんな仕事してようが、誰とどんな夜を過ごしてようが、今の勇輝を丸ごと好きだなんて言ったくせに、カッコつけた所でやっぱりちょっと気にしてんじゃないか。 今まで勇輝を抱いときた誰よりも『気持ち良くさせたい』なんてわけわかんない嫉妬したと思ったら、今度はこんなに感じてくれてる姿を演技じゃないかと勘繰ってみたり。 そもそも、演技なら勇輝はもっと上手くやるよな...誰もが認める超演技派なんだから。 こんな不器用に体を必死でくねらせて、色気も何も関係なく呼吸だけ荒くしてるなんて、演技のわけがなかったんだ。 勇輝の俺への気持ちはきっと本物だ...それは俺が思ってるよりもずっと。 自分に自信が無さ過ぎて一番大切な勇輝の気持ちすら信じられないだなんて...... こんなに全身で、こんなに必死にこんなにイヤらしく、俺に色んな事を教えてくれてるってのに、まったく俺は何を見てたんだろう。 「ごめんな、勇輝」 「ん? 何...? 何が...ごめん?」 「......まだまだ気持ち良さが全然足りなかったろ?」 勇輝の腕を頭上で纏め、動かせなくしてからチンポに指を絡める。 それほど強くはない力で大きくそれを上下させれば、まだ出るのかと感心するほどポトポトと先走りが溢れては俺の手を濡らした。 「やっ、やだって...充彦、動かさないで...ほんと、お願い...俺だけ気持ち良く...しないで......」 必死に頭を振りながら勇輝が言った言葉に、胸がキュンときた。 今のこの状況で、あざとく狙って言ったわけではないだろう。 とすれば、その言葉は当然本心だ。 『一人だけ気持ち良くしないで』 さっき俺が口にしたのと同じ言葉。 手の動きを止め、じっと勇輝を見つめる。 押さえ付けていた腕を解放してやると、いきなり泣きそうな顔で俺の首にしがみついてきた。 「充彦、どうしよう...なんか怖い...充彦に触られてるのが、気持ち良すぎて怖いんだ...俺の体...おかしいよ...なんかおかしい......」 「......おかしくないよ、全然。俺もそうだもん。勇輝に触られてたら感じすぎてわけわかんなくなる。勇輝の事考えてたら、今までしたこともない嫉妬なんてしてみたり疑ったりパニック起こしたりさ...俺、とっくに変になってるんだよ」 申し訳無さそうに俺にしがみつく頭にチュッと口づけ、その体を強く抱き締めた。 「いいじゃん、おかしくなろうよ...このまま二人で。好き過ぎて気持ち良すぎておかしくなれるなんて、すっごい俺ら幸せだと思わない?」 怖々といった風に顔を上げる勇輝に、俺は精一杯の笑顔を見せた。 「勇輝一人だけ気持ち良くするなんて、そんな勿体ない事しないって。俺と一緒に...気持ち良くなろう、な?」 ベッドサイドに置いたチューブの蓋を開け、無理矢理押し出した中身を指先に馴染ませる。 「二人ともちょっと気持ちも体も盛り上がり過ぎてるから、先に一回一緒にイこっか?」 粘度の高いジェルを俺のチンポになすりつけると、そのヌメる先端を勇輝の亀頭の裏側に押し付ける。 クニクニと何度かそこを弄ってやれば、やはりまたトロリと蜜が溢れだした。 腰を捻り逃げるようなポーズを取り、勇輝は少しだけ恨みがましい目で見てくる。 「そんな目で見るなよぉ...からかってるとか、そんなつもり無いんだから...な?」 チューブから更にジェルを絞り出し、今度は勇輝のチンポに上からドロリと直接掛ける。 冷たさに肩を竦める姿にも構わず、俺はそのドロドロにジェルのまとわりついたチンポ2本をしっかり合わせて握り込んだ。 こんな時、無駄に手がデカイ事も悪くないと心の中で苦笑いを浮かべる。 「こういうの『兜合わせ』っつうんだっけ...初めてで下手くそかもしんないからさ、教えてくれる?」 意地になってムキになって嫉妬して、大事な事を忘れかけてた。 『俺が気持ち良く、幸せに』なる為に勇輝を選んだんだ。 無理矢理勇輝一人を幸せにする為にこうしてるんじゃない。 自己満足で勇輝だけを気持ちよくしたいわけじゃない。 必死になるばっかりで俺が自分の幸せを置き去りにしてちゃ、抱き合う意味がなくなる。 二人で抱き合って、二人で幸せにならなきゃ。 だから、わからない事は素直に教えてもらおう。 できない事はできないって言おう。 背伸びする必要も意地を張る必要も無い。 二つをピタリと合わせただけで、勇輝はもう熱い息を吐いている。 いやまあ実際、裏側同士が擦れ合う感覚ってのは指とも舌ともちょっと違ってて、精神的な高揚感だけじゃなく、間違いなく肉体的な快感も伴っていた。 要領がわからず、一先ず俺だけで必死に腰を振ってみる。 そんな俺の腰を勇輝がそっと引き寄せた。 チンポは先端だけでなく、竿までがヌルリと合わさる。 「充彦、任せて...そんなに腰動かさなくて大丈夫だよ。一緒に気持ち良く...なってね」 俺の手に自分の手のひらを重ねると、戸惑いがちだった俺のその手ごと、勇輝は2本を合わせて激しく大きく扱き始めた。

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