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バカップルの本音
「はい、お疲れさまでした」
「「お疲れさまで~す」」
「えっと、二人での本格的なラブシーンは初めて...だよね?」
「ビデオでは初めてだね。写真はほら...ねえ?」
「うん、昨日まではそれなりに...なかなかに...?」
「あ、そうだそうだ。昨日までの写真集の撮影は、ほんとエグいくらいのエロさだったもんね。あれをラブシーンなんて可愛く呼んでしまってもいいのかどうか」
「あれは俺らもちょっとやり過ぎたと...さすがに反省」
「いろんな意味で興奮し過ぎたもんね」
「で、そんなえげつない写真集の撮影に続いて、今度はビデオでの絡み撮らせてもらったわけですが...初めての夜をイメージしたこの部屋での絡みはどうだった?」
「イメージも何も、マジで初めての時の俺の部屋、そのまんまだからね」
「懐かしいけど、かなり恥ずかしかった...かな、うん」
「俺も~。初めての時を思い出してとか言われるとさぁ、やっぱりすごい恥ずかしいわ」
「いや、こっちは撮っててさ、二人ともすごく色っぽいのにどっか初々しい感じもあって、相当面白かったよ。ほんとに綺麗だったし。今日の二人ってさ、それこそ写真集と真逆な感じだなぁって思った。リアルな初夜もあんなに戸惑いながらって雰囲気だったの?」
「いや、もっとドタバタしてて、もっと焦ってて、マジで童貞同士のセックスみたいだったんじゃないかな。『うわ~ん、ここからどうしよう』『こんなつもりじゃなかったのにぃ』みたいな」
「あと、お互いもっとガツガツしてたよね。そりゃあもう、二人とも昂って昂って自分が全然抑えられなかったし」
「え~、そうなの? そりゃあまあ、さっきの単体のインタビュー聞いてて『ガツガツ』しちゃう気持ちはわからなくもないか。で、この部屋で愛を確かめ合った後...」
「愛を確かめ合ったとかやめて。なんか更に恥ずかしさの上塗り」
「事実でしょ? で、その次の日にみっちゃんは『本番止めます宣言』したんだ?」
「いや、次の日じゃないよ」
「次の日も、まだずーっと一日中エッチしてたもんね」
「してたしてた、ほんとに。飯食ってる時以外はずっと勇輝の中に入ってるって言っても過言じゃないってくらいだったよ。丸2日間か? ほんとセックスしかしなかった」
「......すごいな。さすが男優ってとこなのかな。精力が有り余ってた?」
「いや、ただ単に二人とも離れたくなかっただけ。だからね、途中からは...何て言えばいいかなぁ...繋がっててもさ、別にガツガツ腰振らなくても満足だったんだよ」
「でも、ただ繋がってるだけなのに途中からとんでもなく気持ちよくなってきちゃって、特別な事はなんにもしてないのに途中からはイきっぱなしだったかも」
「勇輝はな」
「......そんな、俺だけが気持ち良くなってたみたいな言い方しなくてもいいじゃん! そりゃあね、トコロテンも空イキも、あの時が人生初めてだったけどさ」
「もうほんとタンク空っぽで、途中からはザーメン出なかったもんな。でもさ、俺も『三こすり半』なんて生まれて初めてだったっての」
「はいはい、わかったわかった。とりあえず体の相性が良すぎて、とんでもなく気持ちが良かったからお互い止められなかったって事でオッケー?」
「「...オッケー...」」
「じゃあさ、そんな体も心も相性バッチリな二人に、ちょっとだけ意地悪な質問してもいい?」
「嫌だ」
「いや、するけどね。みっちゃんてさ、勇輝くんと付き合う事になって本番止めたわけじゃない? でも、勇輝くんの方は今でも本番バリバリにこなしてるトップ男優の一人でしょ? そういうのってお互いどう思ってるの? みっちゃんは嫌じゃない?」
「まずはね、業界では俺が勇輝に操立てて本番止めたって話になってるんだけど、この話自体が半分間違いなんだ」
「間違い?」
「勿論、気持ちの上では操立ててるよ。もう一生勇輝以外の人間抱くつもりは無いし。ただそれで言うならさ、男優自体辞めるべきだと思わない? キスとクンニだけは有りとかおかしいでしょ」
「...ああ...まあ、確かにそうか」
「でしょ? なんのことはない、俺ね...勇輝への思いが強過ぎて、んで勇輝とのセックスがあまりに気持ち良すぎて勃たなくなっちゃったの...勇輝以外には」
「えっ? チラッと聞いた事しか無かったけど、それってほんとの話だったの?」
「ほんと、ほんと。だから『やめた』って言うより、『続けられなくなった』ってのが正しい」
「じゃあさ、勇輝くんは? みっちゃんは本番止めたじゃない? 勇輝くんは止めようとは思わなかった?」
「ああ、う~ん...ここが普通の人と違うっていうか、理解してもらえない所なんだけど...あくまでも男優って仕事なんだよね。だから、本気で充彦が嫌がるようなら辞める事も考えるけど、自発的に『辞めなくちゃ』っていう風には思わないというか...俺も別に女優さんと充彦が抱き合ってても嫌じゃないし。とりあえず、辞めるのは今じゃないかなぁと思ってる」
「みっちゃんはそれでいいの? 抵抗感て無い?」
「なんせ俺ら、最初から現場で会ってるからねぇ...仕事場で生き生きしてる勇輝見るのは俺も嬉しいし、この色気を業界がほっとけるわけないのもわかってるから。何より俺は、勇輝が色んな人を『大好き!』って言ってる時の顔、すげぇ好きなんだよね。だから、今は慌てて『もう辞めろ』って言うつもりは無いかな、うん」
「ふ~ん...なんかすごいな。馬鹿にしてるとかそんなんじゃなく、やっぱ俺の想像を超えてるわ。じゃあさ、二人とも独占欲とか嫉妬とは無縁の世界で生きてるんだ?」
「...いや、充彦は...ねえ?」
「そうね。俺、最近になって案外嫉妬深いってわかったの。ほら、最近俺らと一緒に仕事してる航生っているじゃない? 俺、アイツに対してだけはメチャメチャ嫉妬したからね」
「航生くん? あれ? でもさ、彼に嫉妬する要素とかある? 俺が見てる限り、二人に比べたら色気なんかはまだまだ『勉強中』って感じじゃない。完全にできあがってる二人の間に割って入れる雰囲気なんて無いような気がするんだけどなぁ」
「これがねぇ...実はあるんだよ。まあ、カメラの前じゃとてもとても言えない話なんだけど。勇輝と航生ってちょこちょこと共通点なんかがあってね、俺では到底入り込めないような特別な絆みたいな物を感じるわけよ。そしたらもうダメだったね。頭の中がカーッとなっちゃって...あれがたぶん、生まれて初めての嫉妬」
「でも俺、もう航生とはなんもしてないからね? ほんとに心配しなくて大丈夫だから」
「...え? 勇輝くん、今なんて...『もう』って......?」
「あっ.........い、いや、何でもない! ほんとに...いや、ほんとに何でもないから!」
「慌て方、尋常じゃないって。まあ、その辺の話はいずれファンの皆さんの前で暴かれるだろうという事で......」
「暴かないで!」
「まあまあ。とりあえず勇輝くんの浮気疑惑は置いといて、これ一応みっちゃんのAV卒業記念のビデオなんで、それぞれちょっとファンの方にコメントお願いしようかな」
「コメント~? ま、いいか...はい、皆さん、これまで長い間応援してくださってありがとうございました。これできっぱりAV男優を辞めます。ただ、今後も雑誌のコラムとモデルの仕事だけは細々と続けていく事になるかと思いますので、どうぞこれからもよろしくお願いします」
「いつも応援、ありがとうございます。みっちゃんが新しい目標を見つけて、寂しいんですけどこれからは違う場所での活動になります。あ、でも二人の帰る家はこれからもずっと一緒ですし、俺はまだまだ体張って頑張りますんで、どうか温かい目で見守ってください。あと本人も言ってますけど、完全に表から消えちゃうってわけじゃないので、時々フラッと顔出すのを待っててもらえるとありがたいです。みっちゃんとのコンビでの仕事は今年一杯になりますが、残された時間思いきりイチャイチャを楽しんでもらえるように、これまで以上にテンション上げて頑張りますね」
「「今までありがとうございました。これからも俺達を、よろしくお願いします!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あ、ごめん勇輝くん。ちょっとさっきの個人インタビューの事でみっちゃんに確認したい事あるから、先に下りて待っててもらっていい?」
「うん、じゃあ先に着替えでもしとくね」
「はいは~い。確認だけしたらすぐにお返ししま~す。...................さてとみっちゃん、ちょっとだけいい?」
「何? 確認?」
「俺ね、どうしてもみっちゃんの本音聞きたくてさ。今はカメラも回ってない、勇輝くんもいない......ねえ、勇輝くんが本番続けてるのって、ほんとに平気なの?」
「今は平気だってば。つかね、まだあいつにとって、現場って必要なんだ。勇輝はね、とにかく誰かから必要とされてたいの、どんな立場でもね...あいつがそれを理解してるとは思わないんだけど」
「なんで? 誰よりもみっちゃんが必要としてるじゃない。それじゃ足りないの?」
「足りないんじゃなくて、無意識に恐れてるんじゃないかな...いつか俺があいつを捨てる時が来るんじゃないかって。勇輝って時々ね、『自分は本当は要らない人間だ』って考える時があるんだよ。そんなこと無いっていくら言っても、生まれてからずっとそんな風に考えてきたらしくてね、なかなかいきなりは変われないみたい。あいつにとって、まだ俺は安住の地にはなれてないの...心のどこかで自分の居場所を探してて、それが今はAVの現場なんだよね」
「みっちゃんはそれでいいの?」
「良くはない。このままでいいなんて思ってないよ。だからとにかく全身全霊で愛して大切にして、俺の隣は勇輝にとって絶対に無くならない唯一無二の居場所だって...ちゃんとわからせないとね」
「そっか...みっちゃん、苦労すんねぇ」
「苦労じゃないよ、全然。勇輝を好きでいればいいだけ。勇輝を大切にすればいいだけ。ごく簡単でシンプルな話でしょ。そんな俺の気持ちがちゃんと伝わって、そして丸ごと受け入れてくれた時が...」
「...勇輝くんの引退の時だね」
「そうね。でもあいつ、スタッフさんでもファンの人でも、自分を『好き』って言ってくれる人の事が大切で仕方ないから。だから、まだもう少し先の話になるかな...」
「みっちゃん、大丈夫だよね? その時まで、ちゃんと待てるよね?」
「あったり前じゃん。俺の覚悟って半端じゃないのよ。俺の方はとっくに勇輝の隣にしか俺の居場所は無いってわかってるもん」
「みっちゃんてさ...なんかほんとすごいわ。メチャメチャ勇輝くんの事考えてんだね...びっくりするくらい」
「勇輝の事しか考えてないよ」
「ただエッチなだけじゃないんだ?」
「いやいや、結局は勇輝の体にのめり込んだ結果だから、ただエッチなだけかもよ。だから万年発情期のエロバカップルって言われるのも仕方ない話なのでございます」
「......ありがと。ほんと二人に会えて、一緒に仕事できて良かったよ。またさ、岸本さんとこの仕事以外でもモデル頼んでいいかな? 俺ね、これからもみっちゃんを被写体として撮り続けていきたいんだけど」
「光栄です。いつでも声かけてよ。AV男優じゃない、ただの俺でも良かったらね」
「......ボチボチ下行こうか。勇輝くんも待たせてるし。今頃寂しがってるんじゃない?」
「寂しがってる勇輝も、甘えん坊で可愛いからいいんだけどね」
「みっちゃん...明日からの京都もよろしく」
「こちらこそ。んで、これからもよろしく」
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