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第4の男?【勇輝視点】

「ごちそうさまでした~。はぁ、上手かった」 「なんか簡単に終わらせちゃってごめんな」 「ぜ~んぜん。俺、充彦の作ってくれるオムライス、すっごい好きだよ。卵の火の通り具合とか、俺の好みそのものだし」 「そりゃあもう、お前の好みになるようにだけ考えて作ってますから」 俺は充彦が作ってくれたオムライスの皿とミネストローネのカップをシンクへと持っていく。 先に食べ終えていた充彦は、買ってきていた鱧の蒲焼きを小さめの一口大に切り、それをごく細く切って盛った黄色い野菜の上に並べていた。 「これってコリンキー?」 「ん、正解。先に軽く塩揉みして、今イタリアンドレッシングかけた。最近はあんまり野菜食ってなかったしな」 「そんなに手間かけてくれなくても、別に鱧だけでも良かったのにぃ」 後ろからペタリとくっつき、腹に手を回す。 結構なハードトレーニングに耐えた体は、写真集の撮影が終わっても簡単には衰えないらしい。 後ろから回した俺の腕を弾き返すように、割れた腹筋には力が入った。 しがみついたままの俺の事など気にもしてないように、充彦は半分残した鱧をポリ袋に入れると機械できっちり空気を抜いて密閉し、それを冷凍庫に放り込む。 航生に『残しておいてやる』と言った言葉は忘れてないんだなぁと、なんだか少し微笑ましくなった。 「ほれほれ、いつまでもくっついてないで、酒とグラスの準備しろよ」 「は~い、了解」 今日は日本酒には手を付けず、冷蔵庫から白ワインを取り出すとワイングラスを持ってダイニングテーブルに戻った。 充彦も準備した大皿を手に戻ってくると、いつもの席に座る。 「隣で飲んでいい?」 「いいよ、勿論。じゃあ、飲みながらセクハラしてもいい?」 「ふふっ、いいよ、勿論」 隣の椅子に移動し、それを充彦の方にピタリと付けると、目の前に並べたグラスにワインを注いでいく。 「ありがと。じゃあ、今日もお疲れさま」 「充彦こそお疲れさま。こうやってダラーッと過ごせるのも明日までなんだねぇ...」 「明後日はビデオ?」 「ううん、絡みアリのグラビアとインタビュー。写真集の宣伝も兼ねてると思うけど。充彦は?」 今日は俺の好みで、少し甘口のドイツワインを開けた。 グラスを充彦に向かって小さく掲げると、ほどよく冷えた液体をゆっくりと喉に流していく。 「俺はビデオ。セックスに不慣れで、お互いあんまり感じた事がないって素人さんカップルに、ほんとの気持ちのいいセックスの仕方を教えてあげるっていう、HOW TO物」 「それって、本物? 仕込み?」 「今回はリアルカップルらしいわ。なんか俺らの動画見た男の子が『彼女がほんとに気持ちいいのか不安です』ってメールくれたんだって。んでスタッフが二人に連絡取ってみたら、女の子の方はエッチにかなり不満持ってるってわかったんだってさ。で、顔を絶対出さないって約束で現場に来てもらって、んで俺が『充彦先生』として『二人がちゃんと気持ちよくなれるセックス』ってやつを伝授してあげる事になりました~」 「それって、充彦が直接彼女の体使って教えてあげるの?」 「いやいや、それじゃさ、いざ二人だけのいつものセックスに戻った時に俺と彼氏とを比較しちゃうかもしんないじゃん。さすがに男優の俺と彼氏を一緒にしたら、彼氏くんが可哀想だろ? だから、俺は助手の体を使ってね...」 「助手?」 「んなもん、困った時の『アリ助手』登場だろ?」 確かに、そんな役回りの時にアリちゃんはぴったりだと思うけども。 俺だけじゃなく、充彦までアリちゃんの事頼るとは...アリちゃん、大変だ。 「こないだは充彦の病気で延期になっちゃってるからさ、その撮影終わったらアリちゃんうちに呼んであげない? 航生の事といいさ、俺らたいがいアリちゃんに甘えてるよ?」 「確かにそうだよな...んじゃ明日一日は、アリちゃんと、ついでに航生うちに呼ぶ為の下拵えに使おうか。できたらパンとか焼きたいし、アリちゃんの為のスイーツも用意しときたいしな」 「それ、いいね。アリちゃんすごい喜んでくれそう。ちなみにアリちゃんは、ベリー系のお菓子が好きだよ。じゃあ早速予定確認しとかなきゃ...『ついで』に航生にもね」 「アイツはまあ、どうせ暇だろ」 充彦のそんな言葉を笑って聞き流しながら、俺はスマホを取り出し二人に明後日の予定を尋ねるメールを送る。 「んでさ...」 グラスを片手にスマホを操作する俺を頬杖をついて見つめながら、それこそ『ついで』みたいな気軽さで充彦が声をかけてくる。 「ん...何?」 「航生の相手役かもしんない心当たりって...どんな人?」 「......え?」 あれはあの場のノリでウダウダ言ってるだけで、すっかり忘れてるものだと思っていた。 ヤバい、覚えてたのか...俺はスマホの画面から視線をはずし充彦の方を見る。 口許こそ笑っているものの、俺を真っ直ぐに見るその目は到底笑っているようには見えない。 まあ、変に慌てて焦って、いらぬ心配を招いたのは俺の失態だ。 言うまで解放しないといった顔の充彦に、とりあえず曖昧な笑みを返す。 「別にね、なんてわけじゃないんだよ...ほんとに。別に付き合ってたとかじゃないし」 「でも、よからぬ事はあったんだ? 何、客?」 「あ、いや...どっちかと言えば...逆?」 「ん? よくわかんない。勇輝が客って事?」 「そういうわけじゃなくてだなぁ...」 どう説明をしようかと悩んでいると、手元のスマホが短く震えた。 ポップアップ画面が開き、航生から早速返事が来ている。 もしかしてアイツ、ほんと俺らがいないと...ずっと一人ぼっちなのか? LINEで届いたそのメッセージを急いで表示する。 『明後日、了解です。鶏ハムとゆで玉子の味噌漬けを作ったので持って行きますね。あと、この間共演させてもらったシンさんの宣材写真があったので送ります。勇輝さんの知り合いの人ですか?』 メッセージの次に小さく表示されている人物の写真を軽くタップしてみた。 画像を取り込み、液晶いっぱいに映し出された柔和に微笑む男性の写真をじっと見つめる。 「勇輝?」 「...ふぅ...こんな偶然て...あるんだな......」 俺はその届いた写真を充彦の方に向けた。 「ビンゴだったわ。まさしく俺の知ってる...『キラ』くん。ユグドラシルのNO.2だった子だよ」 知ってる頃よりも少し大人になったその写真の姿に、俺は感慨とも言える熱い物が胸に広がるのを感じた。

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