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Let's enjoy submissive play!【5】
かなりの時間がかかった。
やっと最後の一滴まで、全部吐き出せた。
出した...と思う。
でも、なんだかまだザーメンが出続けているような変な感覚。
ドクドクと、ペニスだけじゃなく下半身全部が脈打つかのような感じが一向に収まらない。
極端な言い方すりゃ、俺自身の体が性器そのものになったような気分だ。
「充彦...」
まだ余韻に震えるペニスの先端を、勇輝が手のひらでスルリと撫でる。
それはただ本当に触れただけ。
たったそれだけの事なのに、また腰がビクビクと小刻みに震えだす。
「やめっ...勇輝...さわ...るな......」
「ねえねえ、こんな射精初めてでしょ? どんな感じ? それね...普段の俺の状態...かもよ?」
大きく歪んでるであろう俺の顔を見て、勇輝は相変わらず綺麗な顔で微笑んでいる。
綺麗で、綺麗過ぎて...ちっとも崩れない笑顔が...怖い。
「今この状態でね、ずっとココをこうしてたらさぁ...どうなるか知ってる?」
そう言うと勇輝は軽くペニスの根元を握り、俺の臍の中にたっぷりと溜まったザーメンを指で掬ってカリに擦りつけた。
そのまま根元を柔く揉み、扱き、まだ硬さを保っているせいで剥き出しのままの先端をグリグリと手のひら全体で擦る。
「勿論知ってるよね...男でも潮吹くって...」
「あっ...いやっ...いやだ...やめ...」
ガクガクとぎこちなく揺れる腰がまた止まらなくなり、落ち着く間すら与えられなかった息は更に上がっていく。
なんだよ、これ...なんなんだよ。
こんなの気持ち良くない...ちっとも幸せじゃない...ただ、自分の体がどうなってるのかわからなくて混乱してるだけだ。
ただの生理現象に過ぎないのだと考えれば考えるほど胸が痛くなってきた。
必死に深呼吸を繰り返して落ち着こうとすれば、涙が勝手に溢れてくる。
「充彦...?」
「勇輝...ほんとにやめて...お願いだから...」
「怖い?」
勇輝の言葉にただ頷く。
「気持ち良すぎて?」
それには小さく、けれど必死に首を横に振った。
「お前が...勇輝が怖い...」
溢れる涙が抑えきれなくなっても、今は情けないこの顔を隠す事すらできない。
ただ唇を噛み、目を閉じる事でどうにか堪えようと試みる。
ふと、不意にペニスへの刺激が止まった。
腹の上のザーメンがティッシュで拭われる感触に、水分の膜のせいでぼんやりとしか見えない目をそちらに向ける。
「ごめん...ごめんね、充彦...」
ギシと俺の隣が沈み、勇輝が顔を覗き込んできた。
それはさっきまでの冷たく、ただ美しいだけの顔ではなく、ちょっと困ったように眉を下げるいつもの甘えん坊な勇輝の表情。
心底申し訳なさそうにまだ濡れている俺の眦をペロペロと舐めてくる。
「ちょっとやり過ぎちゃった。ほんとごめん」
「なんで...なんでこんな......」
「さっき言ったろ、『最近の勇輝は、Sっ気が薄くなった』ってコメントが来てたって。俺ね、役に入り込みさえしたら完璧にどんな人間にでも変われる自信あったんだよ。でも...やっぱりここんとこ幸せすぎたのかな...どうも自分が考えてるほど役に入りきれなくなってたみたいなんだよね。それでぇ、ちょっと気合い入れたら相手をどれくらいビビらせる事ができるもんか試してみようかと思って、俺なりのドSキャラになりきったんだけど...」
「......それだけ? いや、ほんとにマジでそれだけ? お前なぁ......だからってさぁ、それを俺で試すなよぉ...」
理由を聞いてみりゃ何の事はない。
呆れるやらホッとするやらで、なんかまた涙が出てくる。
こんなにされなければならないくらいに勇輝を怒らせたのかと思った。
知らない間に傷つけていて、その仕返しでもされてるのかと思った。
もう俺なんていらないから、体も心もボロボロに弄ばれてるのかと思った。
どこまでいたぶられれば勇輝に許してもらえるんだろう...俺なりに本気で考えたんだ。
それが、書き込みに影響されて...Sキャラ演じてただけだぁ?
「ほんとにごめん。俺としては、泣かせるまでやるつもりなんて無かったんだけど...」
「いやいや、相当ガッツリやられましたけど」
「だってなんかさぁ、怯えながらも抑えられないくらいに感じちゃって体ピクピク震わせてる...なんて超レアな充彦見てたら、どうにもこうにも俺の興奮が抑えられなくなっちゃって...」
お前それは、『演じてる』じゃなくて、実は本物なんじゃないのか?
残念ながら俺にM気質ってのは全く無いから、ここはあくまでも『演技でした』ってことにしといていただきたい。
寧ろそうじゃないと困る。
「はぁ...とりあえず、空イキとか射精制限ってのがすげえキツイってのだけはわかった。俺、普段お前にあんな事させてたんだな。悪かったよ、ごめん...もうしないから」
「へっ!? い、いやいや、ダメだって! それは困る。俺が本当に困る! その...充彦は辛いだけだったかもしんないけど、俺はね、あの...えっとぉ...その辛いのが気持ちイイっていうか...辛いからこそ気持ちイイっつうか...とにかく! 充彦に気絶しそうなくらいに攻めてもらえるの、俺ほんと好きだから...」
前言撤回。
こいつ、SどころかやっぱドMじゃん。
そーかそーか、ならいいんだ。
俺多少Sっ気ある事に関してはちゃんと自覚あるし。
「ふーん...じゃ、まずとりあえずこれ外そうか」
目線を頭上にやれば、鎖と手錠の存在をまったく忘れていたらしい勇輝は慌ててそれを外した。
やっと解放された手首を数度擦りクルクルと指先で手錠を回しながら、おそらくはさっきまで勇輝が浮かべていたのと同じであろう笑顔を浮かべる。
「さてと...勇輝くん、これからどうしようかねぇ...」
わかるだろ?とその目を見つめてやれば、勇輝は少し俯き頬をほんのりと赤く染めた。
ついさっきまで俺のペニスをギュウギュウに締め上げていたぺニスバンドを手にする。
そしてそれを俺の前に置ききちんと正座をすると、黙って両手首を差し出した。
**********
ベッドにぐったりと横たわり、眠っているのか気絶しているのかわからない勇輝の体を濡れたタオルで綺麗にしてやると、俺は急いでリビングに戻る。
冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り、それに口を付けながらダイニングテーブルの上に置かれたままのパソコンを開くと、ブックマークから勇輝のブログを表示した。
「ログインパスワードねぇ...」
ブログの更新ページに入る為には、お守り程度の認証コードを入力する必要がある。
俺と勇輝とは別でページを持ってるんだけど、今日は敢えて勇輝のページにログイン。
当然パスワードなんて知らないけれど、まあこんなもんだろうと俺の生年月日を8桁で打ち込んでみた。
「おいおい、まさかのビンゴかよ...こんなもん、下手すりゃすぐに乗っ取られるぞ...」
そのままブログの更新画面へと進み、急いでキーボードを叩いた。
みっちゃんから、皆さんへのお願い&お知らせ
いつも俺と勇輝を温かく見守ってくださってるみなさん、本当にありがとうございます。
俺も勇輝も、毎日楽しくイヤらしく頑張ってます。
さてさて、今日はそのファンの皆さんにお願いです。
あまり勇輝のSっ気を煽らないでもらえませんか?
皆さんがドSな勇輝を好きだという気持ちはわかるんです。
色っぽいですよね、セクシーですよね、最高にカッコいいですよね。
わかりますわかります、俺が一番そばで見てますから。
ただ、本当に気持ちはわかるんですけどね...あんまり皆さんが煽っちゃうと、勇輝って本当にファン思いなんで、実は俺がいじめられちゃうんですよ。
ですからどうか、『最近の勇輝は温い!』とか『もっともっと激しく意地悪になって!』なんて言わないで、ちょっとSで堪らなくセクシーで、幸せそうな優しい勇輝を応援してやってください。
そうそう。
皆さんにお願いだけするというのも申し訳ないんで、とっておきのプレゼントです。
それだけ入力すると、今度は自分のスマホから抜いたメモリーカードをパソコンに挿し込む。
これを見れば、勇輝のSぶりは精一杯の演技だってわかってもらえるだろう。
ってか、ドMだってバレちゃうかもな。
ドMな勇輝の可愛さとイヤらしさに、新しいファンが増えちゃったりして~。
俺はサムネイル表示された画像の中から最新の...
ついさっき撮ったばかりの、両手を手錠でベッドに繋がれたまま裸でシーツにくるまって幸せそうに眠る勇輝の写真を選択しその記事に貼り付ける。
投稿ボタンを押して特にそれ以上の確認もせずにそのまま電源を落とすと、俺は思わず頬が弛むのを十分自覚しつつキッチンにコンフィチュールの様子を見に戻った。
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