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姫様方、ご乱心【3】

「んふっ、二人ってくっついてたら、ほんと似てる~」 「そう? 俺はそんなに思わなかったんだけど、一緒に働いてたときから結構言われてたよな」 「まあ、勇輝くんは意識してなかっても、俺からしたら元々憧れの人やったからなぁ...敢えて似せようとは思わんかっても、自然と似てしまうとこはあったんかも。まだ似てる?」 『お前ら、その距離は正解なのか?』と聞きたくなるほど無駄にくっつき、頬をペタリと寄せてアリちゃんに向かって顔を並べて見せれば、アリちゃんは手を叩きながら大笑いしている。 と、不意に勇輝が慎吾くんの顔を見た。 「久々にアレ、しちゃう?」 「えー? うけるかなぁ...やってみる?」 なんのことだかわからず、ダイニングテーブルに取り残された素面組3人はそれをただぼんやりと見ていた。 ほろ酔いの勇輝と慎吾くんにとっては俺達はただの空気で、どうやらギャラリーはアリちゃん一人のつもりらしい。 二人はソファーを下り、アリちゃんの目の前に向かい合わせで膝立ちになる。 フッと勇輝が笑ったのを合図に、二人の目付きが変わった。 トロリと蕩けるようなその目はベッドで俺を誘う時そのもので、ちょっと心臓に悪い。 そして慎吾くんのその瞳も、勇輝とそっくりに色を滲ませて潤んでいた。 俺の隣で顔を赤くしていた航生がいきなりガタンと立ち上がる。 「な~に焦ってんだよ、挙動不審男」 その腕をグッと下に引き、強引にその体を椅子に戻した。 「きょっ、挙動不審て何の事ですかっ!」 「さっきからのお前、挙動不審以外の何者でもないだろうよ。ねえ、中村さん」 「そうだね~。俺まだあんまり航生くんの事知らないけど、確かにエクスプレスの時とは態度も顔色も全然違うかな。とりあえず、アレは面白そうなんで大人しく座って見てようか」 『う~っ』なんて唸りながら俺らを恨めしそうな目で見る航生の肩を左右から押さえつけ、ニヤニヤ笑いながらグラスになみなみとウイスキーを注ぐ。 「すっごーい、なんか倒錯の世界って感じ?」 テンションの上がったアリちゃんの声に、俺達は視線をソファーの方に戻した。 お互いがお互いをうっとりと見つめ、勇輝は右手を、慎吾くんは左手をゆっくりと上げる。 お互いのその手をしっかりと合わせ指を絡ませると、二人の距離はさらに近づいた。 コツンと額をくっ付けて、空いた方の手でそっと頬を包む。 なるほど。 これは鏡越しの自分とのラブシーンてとこか? 二人が醸す怪しげな色気も、首を傾げたり頬を撫でたりという細かな動作も、それは驚くほどピタリと揃っていた。 ひょっとすると、ユグドラシルで客を楽しませる為の鉄板ネタだったのかもしれない。 俺とはちょっと違う見方をしているのか、中村さんは指で小さな四角を作り、その四角の中に二人の怪しげに寄り添う姿を収めようとしている。 「ヤバい...これ、すっげえ面白い。あの写真、いつか撮らせてくれないかな...」 「メチャメチャいやらしい写真になりそうですね」 余裕綽々で笑い合う俺達の間で困ったような、今にも泣きそうな顔をしている航生。 明らかに尋常な様子ではないのだけれど、まだ本人はそれを認められないらしい。 「慎吾、このままチューしても大丈夫?」 「......エエけど、あんまり本気出さんとってな。俺、勃ってまいそうやもん」 「勃ったら、アタシが抜いてあげようか?」 平然と言ってのけるアリちゃんに、中村さんはただ苦笑いを浮かべるだけ。 さすがはアリちゃんの彼氏と言うべきか、俺らと臆面無く付き合える人と言うべきか。 二人はやはり同じタイミングで舌を出し、先をチロチロと擽りながらゆっくりと唇を重ねた。 「いやん...綺麗...エロい...」 それを見ていたアリちゃんは、何やら意味ありげな視線をチラリとこちらに向けてくる。 その視線の先には、当然中村さんがいて...でも中村さんは、笑いながら首を横に振った。 寂しそうにアリちゃんが唇を尖らせる姿が少し可哀想になる。 「アリちゃん、おいで。俺が代わりにしてあげる」 少し躊躇いながら、一度『ベーッ』と中村さんに舌を出すと、アリちゃんは立ち上がった。 「じゃ、中村さん。これは酒の席の無礼講って事で......」 俺がニッと笑い立ち上がろうとすると、焦ったように中村さんが先に立ち上がる。 「みっちゃんにさせるくらいなら俺がする!」 「ん? 気にしなくても、俺ら今日の昼間もしてたけど~」 「仕事とプライベートは別!」 そう言うと慌てて中村さんはアリちゃんを強く抱き締めた。 「チューしたかったら俺にしとけ。とりあえず、なんかみっちゃんだけはダメ」 そのまま、中村さんは不器用にブチュッと唇を押し当てた。 恥ずかしくて本気チューなんてできないんだろうな...でも、アリちゃんは満足そうな顔でヘラヘラ笑ってるからまあいいんだろう。 ......しかし、なんか俺はダメって、どういう意味だ? ただ『ブチューッ』と唇をくっつけただけの不細工なキスの横では、ねっとりと舌を嬲り合っていた二人の顔がようやく離れた。 行為の激しさを表すように、離れた舌の間を銀の雫が糸になり繋ぐ。 「相変わらず勇輝くん、キス上手いなぁ」 「そう? でも慎吾も上手になったよ。それに、キスなら俺より充彦のがはるかに上手いしエロい」 「そうなん? 勇輝くんより上手いとか、そんなん俺すぐに腰抜けてまうんちゃう? でも......」 膝立ちの体勢から、いきなり慎吾くんが立ち上がった。 何事かと勇輝も俺達もそれを見守る中、フワフワとした足取りは変わらぬままでこちらに近づいてくる。 「航生くん、抱っこぉ」 俺達のすぐ近くまで来た途端、慎吾くんは唖然としている航生の腿に跨がった。 てっきり俺達にからかわれている時のように焦って泡食って、何を言ってるのか訳がわからなくなると思ってたのに...... 「いいですよ」 ひどく落ち着いた優しい声で、航生は慎吾くんの腰に手を回した。 「航生くん、チューも。チューもして?」 「はい」 航生の右腕はしっかりと腰を抱き、左手は優しく頬に添えられる。 そのまま少し背を伸ばすと、その優しげな手つきが嘘のように航生は慎吾くんの唇に荒々しく吸い付いた。 髪を掻き乱し、航生の首に縋りつく慎吾くんの眉間には苦しそうに皺が寄る。 「んっ...くぅ...はっ...あ...」 酸素を求めて時折顔を背けようとする慎吾くんにそれを許さず、微かに漏れる喘ぎ声ごとさらに唇を激しく合わせる。 キスもセックスもド下手で、勇輝から強引に手解きを受けたのはいつの事だったろうか? まだたかが数ヶ月前の話だ。 それなのに今の航生は、慎吾くんを責め立てるように口付けを降らせる。 上手くなった......? 勿論上手くもなっただろうけれど、今目の前で繰り広げられているキスはテクニックも何も関係ない、ひたすら自分の感情をぶつけている物に見える。 あの日...俺が初めて勇輝を抱いた...そう『あの日』のように。 暫くお互いを夢中で貪り合いさすがに息が苦しくなったのか、ようやくゆっくりと唇が離れていく。 まだ二人とも、『名残惜しい』とでも言いたげな顔をして。 「やっぱり...航生くんとするチューが一番気持ちええ......」 「勇輝さんとするよりですか?」 「うん......」 なんだよ、すっかりラブラブじゃないか。 ちょっとばかり事情を説明させようかと思った所で、俺の腿にも何者かが乗ってきた。 まあ、俺に乗っかる奴なんて一人しかいないけど。 「どした?」 「俺もチューする...航生に負けないようなチューして」 小首を傾げる体を強く抱き締める。 追及は一先ず後回しだ。 航生に見せつけるようにしながら勇輝に口を開けさせ、俺はそこに舌を深く捩じ込んだ。

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