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姫様方、ご乱心【5】
航生から離れた慎吾くんと、俺から下りた勇輝は、またフニャフニャと笑いながら元のソファーへと手を繋いで戻っていく。
アリちゃんも一応は満足したのか、二人の所へルンルンと駆け寄った。
少し疲れた顔をしながら、中村さんは自分の席にドンと腰を下ろす。
「ふふっ、お疲れ~」
「お疲れじゃないよぉ。みっちゃんって、かなり意地悪だよね」
「ん? なんで?」
「あそこでみっちゃんが『自分がキスする』なんて言ったら絶対俺が動くのわかってて、わざと言ったろ」
「さあ、なんの事やら。俺はチューしたそうなアリちゃんが可愛いなぁと思っただけなんだけど? 何か問題がありましたか? それにしてもさ、ほんとアリちゃんイイ子だよね...いや、俺らと普通に付き合ってるくらいだから、世間的に見ればとんでもない変わりモンで常識はずれなんだとは思うけど。俺とか航生とか見てたらさ、絶対自分だってベロチューされたかったはずなのに、中村さんが照れながらでもキスしてくれたって事だけで嬉しくて満足してんだもん」
「...それ、イイ子って言うの?」
「あれ? 俺からしたら、ちゃんとイヤらしくて一途な子は最高にイイ子なんだけど。中村さんはイヤらしい女の子は嫌い?」
「......好きだよ...アイツ限定で」
赤くなる中村さんの顔に、内心ガッツポーズを取りたくなる。
写真集の撮影では、なんだかんだとこの人に頼りっぱなしのやられっぱなしだったから。
「中村さん...アリちゃん泣かせたら、俺も勇輝も許さないと思うよ~」
「脅すなよ。もう泣かせないって。俺の事全部わかってくれてんのアイツだけだし、アイツに対しての意地でここまで頑張ってこれたとも思うし。それに俺、浮気とかできるほど器用じゃないしさ、何より...アイツの体にどっぷり溺れちゃってるから」
「あらあら、どっかの誰かさんと似たような事言っちゃって。じゃあ、絶対に一穴主義貫きなよ? アリちゃんは仕事ですら他のチンポ受け付けらんなくなったんだから」
「どっかの誰かさん並みに、アイツしか見てません。まあその誰かさんに負けないくらい、甘やかして幸せにしてやるよ。ただ...酒飲んだらキスしたくなる癖だけは止めないかもね。アイツがキスしてる時の顔は、カメラマンとして撮影したくなるくらいエロくて可愛いから、ちょっと見てたくなる」
「変な趣味~」
「みっちゃんも大差ないだろうよ。他人に突っ込まれるのは許せなくても、突っ込んで腰振ってる時のイヤらしい顔は嫌いじゃないんでしょ?」
「うん、結構好き。つかね、すっげえ興奮する」
二人でグラスを傾けながら、ウヒヒなんてちょっと悪い顔で笑い合う。
そんな俺達の会話を聞いている航生は、少し複雑な表情で口許を歪ませていた。
「まだまだお子ちゃまな航生くんにはよくわかんないってか?」
「何がですか?」
「ヤキモキしてイライラしてさ...勇輝とお前、そこに勝ち目あんの?」
「......何言われてるのか、全然意味がわからないんですけど」
明らかな敵意を持って航生は俺を睨み付けてくる。
自分の中でもイマイチ整理のついてない感情をからかわれるのは勘弁ならない...ってとこか?
まだ知り合って間がない二人だ。
お互いがお互いをどこまで理解し、どれほど思っているのか、実は自分達が一番わかっていないのかもしれない。
だからこそ...酔ってる慎吾くんに勇輝をけしかけた。
「お前さ...慎吾くんにすげえ惚れてるだろ」
俺の言葉に、航生は悔しそうに顔を歪めた。
一度二度と深呼吸を繰り返し、努めて冷静なフリをしようとしている。
「...尊敬...してます。俺はまだまだ演技もセックスも下手っぴで...でもNGとか出しても全然呆れたりとか...しないし......」
「そんだけかねぇ...素直になれば?」
「素直の意味がわかりません」
「あ、そうそう。慎吾くんの初めての男って知ってる? ......勇輝なんだってさ。抱いたのも抱かれたのも、全部初めては勇輝。何もかも教えたのは勇輝...慎吾くんにとって、勇輝って特別なんだよなぁ......」
「何が...言いたいんですか...」
「ん? 慎吾くんがどうしてもって望むならさ、久々だから勇輝貸してやるのも有りかなぁと思って...勿論俺込みでだけど。慎吾くんなら3P有りじゃね? ほら、お前の時みたいにこの部屋でさ」
「...そんな...面白がるみたいな事...なんでわざわざ俺に言うんですか...昔の事まで引っ張り出して、なんでシンさんを巻き込もうとしてるんですか......」
「ん? ちょっとした倦怠期対策のスパイス代わり? どっちにしても、ただ尊敬する先輩としか思ってないお前には関係ない話だよな。それとも何? お前も加わりたい?」
俺の悪態を、中村さんは止める事もなく黙って聞いてくれていた。
ひょっとすると航生よりも先に中村さんが怒るんじゃないかって気がしてたんだけど、どうやら俺の意図を理解してくれてるらしい。
「ほら、黙って聞いてろよ...勇輝に憧れてた慎吾くんが、アイツの誘いにどんな風に乗るのか。それ次第ではお前も混ぜてやるからさ」
航生はきっと、どんな小さな言葉も逃すまいと必死で耳を澄ますだろう。
そして自分の望まない言葉や慎吾くんを侮蔑するような言葉が出れば迷わず飛び出し、例え勇輝でも殴りかかるはずだ。
上手く話を引き出せよ、勇輝...
いつも俺らに一生懸命付き合ってきた航生への、最高のサプライズプレゼントの為に。
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