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姫様方、ご乱心【11】
「そうなのそうなの! アリちゃん、さすが男のツボわかってる!」
「いや、せえけどさぁ、こう...なんちゅうんかなぁ...やっぱり女の子やとタマ舐めの快感とかってわかりにくいやん?」
「あ、やっぱり気持ちいいんだ? 確かにアタシはわかんないけどぉ、されてる男優さんとかちょっと目がトロンとしてたりするんだぁ。だからねぇ、できるだけナメナメするようにしたんだよ~」
......まったく...なんつう会話をしてるんだ...
再びソファー前で始まったガールズ?トーク。
AV女優とAV男優とゲイビ俳優。
それも全員ハードな本番オッケーときたら、話の内容が過激でエロ全開になるのはお約束みたいなもので......
ほんの30分ほど前に一世一代の愛の告白をしたばかりの航生も頭を抱えている。
「お前、あの勢いでタクシーでも呼んで連れて帰れば良かったのに......」
じとーっと隣を窺えば、航生は『あははっ』と乾いた笑いと共に、ヤケみたいにグラスの中のウイスキーを飲み干す。
「マジでごめんなぁ...あの酔っぱらいのせいで」
心底申し訳なさそうに中村さんが頭を下げた。
航生からの精一杯の告白、そして妙に艶かしく濃厚なラブシーンがひどく琴線を揺さぶったのか、アリちゃんはそこから勝手に1本ン万円てワインをポンポン開け、ありがたみの欠片も感じられないほどそれをガブガブ飲みながら、『良かったね、良かったね』とワンワン泣き出したのだ。
いや実際、俺達も本当に良かったと思ってたからそんなアリちゃんを無理に止める事はなかったのだけど...なぜかそんなアリちゃんに感化されたらしい勇輝まで同じペースでワインを飲み始め、同じように涙を浮かべていた。
ようやく絡まり合った腕をほどき、名残惜しそうに唇を離した二人を待っていたのは...勝手に感動し、勝手に酒を浴びる勢いで飲んでいた勇輝とアリちゃんからの少々手荒い祝福。
二人に強引にシャンパンのグラスを渡し、いきなり『おめでとーっ!』なんてギュウギュウ抱きついた。
そのまま『かんぱ~い』と言いながら、わんこそば状態でグラスを空けた先からどんどんワインを注いでいく。
さらに涙ぐんだアリちゃんから、慎吾くんには綺麗な花束が渡された...数時間前に『慎吾くんが選んだ』とプレゼントされた、アレだ。
それでも心から祝福してくれているアリちゃんが嬉しかったのか、その花束の意味を理解しているからこそ幸せだったのか、素直に受け取った慎吾くんの笑顔は...それはそれは綺麗だった。
......そして今に至る...だ。
正直、なんでここまでの展開になってしまったのかよくわからないけど、それでもこうして今に至ってしまったのだ。
あの時航生は俺達の方に向かって、『すいませんが、俺達先に...』なんて言いかけてた気がする。
ところが、そんな航生を無視して腕の中から慎吾くんをかっさらうと、また3人であのソファーにドッカリ腰を下ろしてしまった。
......そして今に至る......
「そういえば、映画だと絡みはリバだったんだろ? 普段は? お前が完全にネコ?」
「ううん。俺らはねぇ、交代で入れ合いやで」
「えっ? 入れる方と入れられる方って、決まってるわけじゃないんだ?」
「ああ...うん。役割が決まってるカップルもおるけど、俺らはまあ...交代? 今のところ、7対3くらいで俺が抱かれる方が多いけど」
「いや、多いとか7対3とか...お前らまだ会ってから1週間ちょいなんじゃないの?」
「いや、撮影の前に顔合わせもあったから、2週間ちょっと」
「撮影抜きでどんだけ寝たの?」
「ん? 毎晩。毎日俺がご飯誘ってぇ、毎日俺の家に連れて帰ってたから」
毎晩だぁ?
ちょっと驚いて航生を見る。
当の航生は、いつもの俺らに弄られてる時の顔で、どうにか慎吾くんの口を止められないものかとワタワタしだしていた。
「お前ねぇ...そんだけ濃密な2週間を過ごしといて告白すらしてなかったとか、どういう事よ」
「いや、だって...散々『人肌恋しい』とか『エッチしたいからビデオ出てる』とか言われてたから...俺、結局ただのセフレなのかなぁと思ってて。ほら、まだ関西から出てきたばっかりじゃないですか。他に適当な相手がいないから、仕方なく手近な俺で我慢してるのかと。下手に俺が一目惚れしたなんてわかっちゃったら、『重い!』とかって会ってもくれなくなるかもしれないって怖くて...なんか、なんもできないし、なんも言えなくなっちゃったんです......」
「いや、それでもだなぁ......」
「俺、ちょっとわかるなぁ...航生くんの気持ちとか不安。俺もほら、最初はアイツが俺をセフレとしか思ってないって考えてたからさ。自分の中の真剣で盛り上がってる気持ちとか、必死に抑え込んで強がっちゃうんだよね。自分の気持ちを伝える事で関係が壊れちゃうくらいなら、もうセフレのまんまでもいいやって」
「そうなんですよ!」
突如、『セフレかもしれないとビビっていた』という共通点から、航生と中村さんのテンションが上がる。
イマイチそんな感情にピンと来てない俺は放置で、二人でガンガンウイスキーを飲み始めた。
ちょっと割り込めない空気。
仕方なく、エロ話でキャイキャイ盛り上がってる3人の方に視線を戻す。
「航生ってさ、上手い事感じさせてやったら、すっげえエロくて可愛い反応するだろ?」
「あ、もしかしてさっきの『セックス仕込んだ』って話、ほんまなん? うわあ...そしたら俺、勇輝くんのテクニックと比べられてんのん? それ、いややなぁ。でもね、ほんまに航生くんの中ってめっちゃエエねん。俺、航生くん相手やったら完全にネコでもええって思うててんけど、どうしてもあの体が忘れられへんから、2日に1回タチ側に回してもうてんねん」
「ふ~ん...つか、どっちかって言うとタチ寄りの慎吾が、航生相手だとネコになるんだ...アイツ、上手くなったんだなぁ」
「えっ!?」
アホ丸出しみたいな航生の声。
中村さんと少し愚痴を言い合いながらも耳だけはダンボ状態だったらしい。
「お前、知らなかったの?」
「知らない知らない。シンさん、最初から嫌な顔もしないで抱かれてくれてたから、てっきり元々はネコ寄りなんだと。なんか悪い事しちゃったのかなぁ......」
「いや、そうでもないんじゃないの? タチネコについてはさ、立場変われない人は絶対無理って言うじゃん。けどほれ、あの慎吾くんの顔見てみろよ」
いかに航生とのセックスが気持ち良かったのか熱弁を奮う慎吾くんの表情は、幸せそのものでキラキラしていた。
......ま、内容は相当アレだけど。
「今のまんまでいいんじゃないの? 慎吾くん十分満足してるみたいだし」
「はあ...それならいいんですけど......」
「そういや、勇輝くんこそさぁ......」
納得いくまで航生の事をノロケられたからなのか、次は勇輝に話を振ってくる。
今度は俺の耳がダンボになる番だ。
「ボーイしてる頃は、どっちかって言うとタチ役が多かったやろ。ネコで満足なん?」
「あ、アタシもそれ聞きたかった! AVの時の勇輝くんのテクニックとか激しさとか知ってるからさあ、抱かれるだけの立場に不満て無いのかなぁって」
ヤバい、ヤバいぞ。
なんとかあのバカ達の口を塞ぐ手段は無いものか?
素面の勇輝だったら、ここはおそらく俺のキャラクターや立場ってのを立ててくれるだろう。
しかーし!
最悪な事に、今の勇輝は絶好調に酔っている!
こんなもん、酒の席のネタになるなら...と何を言い出すかわかったもんじゃない。
「あ、そうか...アレやろ。勇輝くん、抱かれながら抱いてる...みたいな感じちゃうん? 導いて感じさせて、ようやっと自分も気持ち良くなるとか。充彦さんに比べたら、勇輝くんのが圧倒的に経験は多いやろ」
「んにゃ。そもそもアイツに抱かれてる時に俺が主導権握るとか、まず無理。充彦って元々超テクニシャンで有名だったわけだし。もうね、ひたすらヒーヒー言わされて、意識ぶっ飛ぶまでガツガツ掘られて終わり。あ、でも...一回だけ、手錠で動けないようにして好き放題やったことあったよ。その時はすっげえ楽しかったけど、その後のお仕置きがきついから、もうやんない」
「うわあ、充彦さんのお仕置きって...なんかエグそう。でも、めっちゃ気持ち良さそう......」
「航生、聞いたか。姫はハードなお仕置きがご所望だってよ。メモでもしとけ」
「そんな...俺にはまだハードルが高すぎますよぉ」
勇輝の言葉に目を潤ませ、これ見よがしに自分の指を舐めながら視線を寄越してくる慎吾くんに、航生は頭を抱える。
「そしたら、もう今はネコで満足なんや?」
「ううん。最近はたま~に俺がタチの事がある」
「「「えっ!?」」」
うわっ、言いやがった。
くっそ...めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
驚いた声を上げた3人からの視線がすげえ痛い。
何も知らないのは慎吾くんだけで、『へぇ~』なんて感心しきりだ。
「充彦さんて、絶対ネコなんか向けへんタイプやと思ってた」
「俺もそう思ってたんだ。だから別に俺からは『抱かせて欲しい』なんて言わなかったんだけどね......」
ああ、ますます俺に集まる視線が痛くなってくる。
「勇輝さんが自分からは言わなかったって事は......」
「まさか、みっちゃんから誘ったの!?」
「......ですけど、何か?」
強がってみても、俺から誘ったのは事実で...みんな驚きながらも面白そうにニヤニヤしている。
「なんかね、航生にヤキモチ妬いたんだって、俺に抱かれてるの見てて」
「そうなんですか!?」
まさに驚いたと言わんばかりに航生が俺を覗き込んできた。
答えを返す事もできず、俺はただひたすら無視を決め込む。
覚えてろよ、勇輝...みんながいようと、後で手加減無しでアンアン言わせてやるからな。
「あ、そうだ...アリちゃんと慎吾にも見せてあげようか? 俺と航生がエッチしてるビデオ」
「ん? ハメ撮り?」
「ううん、充彦が撮影してた。すっげえ初々しくて尖ってる航生が見られるよ~。んで、このビデオ見ながら、ヤキモチでジェラってる充彦がシコってたんだ~」
......我慢の限界!
俺が立ち上がるのよりも一瞬早く航生が立ち上がった。
横で中村さんはどこかに電話を入れている。
頭をくっつけながら色々なディスクがしまってある箱を覗き込んでいる3人の所へ近づくと、航生が慎吾くんの脇に腕を差し入れて強引に立ち上がらせた。
「さ、帰りましょうか?」
「えーっ? せえけど今からビデオ......」
「せっかく正式にお付き合いすることになったっていうのに、いつまで好き勝手やって俺をほったらかしにしてるんですか。さすがにちょっとおイタが過ぎますよ。ということでご要望通り、今日はシンさんが悦びすぎて気を失うくらい、目一杯可愛がってあげますから」
「航生くん、タクシーすぐ来るってさ。ほら、アリ...有紗、お前も帰るぞ」
「え~? でもまだみんな飲んでるしぃ、運転とかできないでしょ?」
「代行呼んだ。まったく...婚約者ほったらかしで、いつまでエロい顔して遊んでんだ。お前も今日は寝かさないから覚悟しとけ」
「片付けとかしてなくてすいません。俺今からお灸据えないといけないんで帰ります」
「俺も帰るわ。このやんちゃなお姫さま、ウエディングドレス着る前にもうちょっと躾とかないとな」
航生と中村さんはニヤニヤと悪い顔で、慎吾くんとアリちゃんは少し戸惑いながらも期待に目を潤ませながら部屋を出ていった。
......さてと...
「俺も、酔っぱらうと無駄にサービス精神旺盛になる姫様に、ちょっとばかりお仕置きして差し上げないとな」
ポカンと口を半開きにして俺を見上げている勇輝の体の下に腕を回し、一気にお姫様抱っこの形で抱え上げる。
「姫様。超ハードにガンガン体が壊れるくらい攻められるのと、ちょっとハードに縛られながら意地悪されるのと、超優しくて、でもじれったくて泣きたくなるのと、どのお仕置きがご希望ですか?」
「......全部」
「御意」
勇輝にとっては勿論だけど、俺にとっても長い夜はまだ始まったばかりだった。
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