204 / 420

クイーン・ビー・エクスプレス 特別編【3】

「慎吾くんは、航生とこないだのビデオがはじめまして?」 「ああ、うん。名前は知ってたしビデオも観た事はあったけど、直接会うのんは『Still...』の顔合わせが初めてやった。おんなじ業界でも、制作会社とか所属が違うたら滅多に会う機会って無いねん。フリーでやってる人って、めっちゃ少ないと思うよ」 「あ、その辺はAV男優とは違うんだね」 「そうやね。俺らみたいないわゆる『ゲイビモデル』は、AVで言うと女優さんの方と思ってもうたらエエんちゃうかな。女優さんはある程度出演レーベルとか会社が決まってるやろ? んで男優の役割は、数少ないフリーの人とかスタッフとかがやってる感じ」 「あ、なるほどなるほど。で、あくまでモデルをメインだからって事で、攻め役の人はサングラスとかゴーグルかけて顔出さない事が多いわけか。まあ確かに、俺らも最初のうちは顔あんまり出さなかったもんな。顔とチンポ両方モザイクだったり、上にも下にもマスク着けてたり」 「コンドームをマスクって言わないの。でもまあ、基本チンポ勃てるのだけが仕事だから、別に顔はいらないしね。俺らにスポット当たるようになったのってこの2~3年?」 「勇輝はそれでも、最初から結構顔映ってたって。そりゃあもう、みんな息を呑むくらいのエロさだったから、映さないわけにはいかなかったし」 「いや、でもそれ最初でしょ? 俺もそっから何本かは体以外映ってないビデオあるもん。んでんで、名前と顔だけ知ってた航生と会ってみてどうだった?」 「あのねぇ...正直ぶっちゃけると、航生くんて俺の一番嫌いな会社の、一番嫌いなモデルやってん、元々」 「ちょ、ちょっと待ってください! 俺、そんな話聞いてない」 「そら、言うてへんもん。航生くんの所属してた会社って、スカウトの見る目はあんねん。めっちゃ上手に美形引っ張ってくんの。ただ、ちゃんと大事に育てようとせえへんて言うんかなぁ...モデルの子自身がどうにかして自分らで慣れる努力せんと、会社の方からは何も教えへんて有名やってん。そんなもん、みんな大概ノンケやで? 経験なんてあるわけないんやから、ちゃんと色々教えたらんと、お尻に異物入れるんやから辛いに決まってるやん? せえから、耐えられへんモデルはなんぼ人気あってもすぐに辞めるし、金につられて辞めへんかったモデルもキャリアばっかり長うてスキル何も無い状態やねん」 「はあ、すいません...俺その、キャリアばっかり長くて、スキルゼロの筆頭だったかも」 「それはね、俺らも思ったよ、航生に初めて会ったとき。3年近くもやってて、感じ方も感じさせ方もわかんないってどういう事だぁ!?みたいな」 「まあ航生くんの場合は、生意気で尖ってるってる男前がメチャクチャに犯されて泣き喚くっていうんが受けてたから、余計に慣れる事もできへんし気持ちよくもなられへんかったと思うけどね。それでも、おもんないビデオにおもんなさそうな顔で出てる、クッソつまらん男やと思ってた。お前には『見せてる』ってプロ意識は無いんかい!って考えたら、結構ムカついてたなぁ」 「で、そのムカつく男が相手役だったわけじゃない? どう思ったの? それでも一目惚れ?」 「相手役聞かされて、ほんまは断ろうかとも悩んでん。あんだけやる気無い奴と仕事なんかできへんて。ただ、俺が勇輝くんに会いたいからって理由で移籍決めたってのを知ってるここの社員さんから、『航生くんは勇輝くんにほんまに可愛がられてる』って教えてもうて、んで初めてエクスプレス見てん」 「そしたら...イメージと違ってた?」 「全然違うてたなぁ...ほんまにビックリした。元々イケメンなんは知ってたけど、めっちゃ礼儀正しいし、二人についていこうとして一生懸命やし、なんかほっとかれへんような可愛さやなぁって思った」 「それ、ファンメールくれる人の『母性本能擽られる~』と変わらないぞ」 「いや、まさにそれやって。ほんで実際に会ってみたら、映像で観てるよりもずっと透明感あって、でも昔と変われへんちょっと危うい色気があって...もうね、一瞬で目ぇ離されへんようになってた」 「航生は? お前も一目惚れだったんだろ?」 「は、はい。俺らみたいなチンピラモデルからしたら、慎吾さんなんて神様みたいな人だったんですよ。タチもネコも完璧にこなせるし、甘い恋愛物もハードな凌辱物もいける。新人のモデルでも最初の撮影から気持ちよくさせるほどのテクニシャンで、だけど初々しさもちゃんと残してて...ほんと有名な人だったんです。そんな人の相手役が俺でいいのか、すごく不安でした」 「ところが?」 「俺の知ってる慎吾さんて、ちょっとチャラいって言うか水商売っぽい雰囲気だったんですよ」 「ああ、あれは会社の方針。ビデオの売り上げランキング10位まで独占してた4人がおってね...」 「それ、会社で?」 「いやいや、日本国内のゲイビ市場で」 「えっ? お前のいた会社の4人で上位独占なの?」 「うん。そのうちの1、2位は俺。んで、この4人でイベントとか企画ビデオとか出してた関係で、並んだ時のバランス取るのにビジュアル決められててん」 「そう、そのせいもあって、少しホストっぽい妖しげな雰囲気だったんですよ。ところが、顔合わせのスタジオ入ったらこの姿で......」 「ひどいなぁ、この姿とか」 「いや、だって...まさかこんな、ちょっと童顔でちょっと可愛い男の人が来ると思ってなかったんですもん!」 「んで、その童顔にやられた?」 「いや、別に童顔にやられたわけじゃなくてですねぇ...最初は『なんとなく勇輝さんに似てるなぁ』って気になって見てて...しばらくしたら、今度は勇輝さんと違う部分が色々見えてきて、なんかそれにドキドキしちゃって......」 「なんだよ。お前勇輝に似てたから惚れたの?」 「ちっ、違いますよ! あの...でも...正直言うと、勇輝さんに対して『憧れ』みたいな気持ちはあったと思います。恋愛とはちょっと違うのかな...。ただ勇輝さんて、ある意味完璧過ぎて俺では取りつく島も無いんですよ。いつだって綺麗でカッコ良くてエロくて、優しくて強くて頭も良くて。でも慎吾さんは、雰囲気似てるのにちょっと隙があってフワフワしてて甘えるみたいな目付きが可愛くて...勇輝さんと違う部分に気づいたら、なんかもう舞い上がってました」 「航生くん、それって褒めてる? なんか俺が勇輝くんの劣化版みたいに聞こえるんやけど?」 「違います! ほんと、違うんですって! 最初の印象が『勇輝さんと似てる』だったってだけで。あとはもう、慎吾さんの仕草から声から、何もかもにキュンキュンして胸が苦しくなって...ああ、恋してるんだなぁって思ったんです」 「なるほどなるほど。んで顔合わせですでにお互いの気持ちが盛り上がり、ビデオの濡れ場ではガチセックスしたわけだ」 「......はい」 「前回の収録の時には、もうガッツリハメまくってたんだろ?」 「は、ハメまくってって......」 「そうやで~。毎日パコッてた」 「し、慎吾さんっ!」 「よくもまあ、俺らに黙ってたよなぁ...恋人がいないキャラで散々いじられまくってたくせに」 「いや、だってあの時はまだ...あの......」 「俺、告白してなかったもんな。ごめんね?」 「いえ...俺だって慎吾さんの気持ちを聞くのが怖くて、何も言えなかったし」 「はいはい、二人の世界は家に帰ってからね~。とりあえず...ようこそバカップルの世界へ」 「ああ、俺もとうとうバカップルの世界に入ってしまったぁ......」 「ええやん、ええやん。人に迷惑かけへんのはバカップルちゃうで。それはただのラブラブカップルやん? 俺ら、ラブラブやろ?」 「そうですね。俺らはバカップルじゃなくて、ずっとラブラブカップルでいましょう」 「ほう...お前は俺らだけがバカップルだと言いたいわけだな?......後で覚えてろよ」 「はい、ストーップ! じゃあ今度は、慎吾くんと勇輝との昔話なんて聞いてみようかな」

ともだちにシェアしよう!