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大阪ストラット【3】
「これ、何?」
純粋に疑問を口にしたというよりも、かなり不機嫌な色の濃い充彦の声。
二人のニヤニヤした雰囲気に、そのビデオカメラの不穏な意味を察したのだろうか。
航生であればその空気に顔色を変えて慌てて背筋を伸ばす所だろうが、そこはそれ、百戦錬磨の鬼と悪魔のこと。
その怪しげな笑みを引っ込める事もなく、それどころか平然とふんぞり返った。
「やぁねぇ、みっちゃん、知ってるくせにぃ。いつもあなた達がお仕事で使ってるカメラじゃな~い」
「まあね、そう見えますけど。ただ俺らは出る方で、撮る方じゃないもんで。カメラ渡される事ってまず無いんですよね~」
「あら、それはラッキー。じゃあ今日は撮影の立場で貴重な体験してね~」
「......なんで?」
「ばかねぇ。だからアタシちゃんと、『ビジネス』って言ったじゃない。大阪でのフリータイムをお互いに撮り合ってもらって、それをビー・ハイヴさんが販売元、うちが流通担当って事で、写真集発売の直後に発売する事になったの」
「......はぁっ?」
さすがに滲んだ涙も乾き、声の震えもなくなった俺から当然のように漏れた半分疑問、半分抗議の声。
途端にギロリと睨まれる。
「今回のイベントにどれだけの人間が動いて、どれだけのお金がかかってると思ってるの!? こちらとしても、多少は費用の回収くらいさせてもらわないとね。まあ、ファンの子達からすれば、あなた達のナチュラルな雰囲気を見られるのは嬉しいだろうし、別にうちとしてもこのビデオで悪どく大金稼ごうってわけじゃないから、料金設定に関しては心配しないでちょうだい」
「いや、でも撮り合うとか...そんな......」
俺がどうにかやんわりと断りの言葉を吐き出そうとした時だった。
「航生くん、もうちょい自然に笑ってよぉ。はい、豚玉ミックスを食べる...ジャーン、航生くんでーす! アカ~ン、生の航生くんもかっこいいけど、カメラ通した航生くんもカッコ可愛いよ~。はい、航生くん、あ~んしたげる~」
完全に浮かれた様子の慎吾が、デレデレの顔をしながらカメラを構えて自分のイカモダンをコテに乗せてアーンとかやってやがる。
「お前、何いきなり録画始めてんだよ!」
「へ? いや、ゲイビやったらこんなん別に珍しないし。特典映像にプライベートで自分の部屋をハンディカムで撮影とか、撮影終わりの飲み会撮り合うとか」
「いや、で...でもだなぁ...」
「別に、俺らが買い物したりイベントの準備する姿撮ったらええだけの事やろ? それでファンの人らが喜んでくれるんやったら、それくらいかめへんのんちゃうん? まあ、カメラ回すんがめんどうなんやったら、撮影役は全部引き受けたるし。これ以上担当さんの顔潰さんとこ? 色んなジャンルのイベント知ってるけど、今回の二人の企画はどう考えても無茶やもん。その無茶な企画の実現の為に走り回ってくれた人らやで?」
斉木さんと杉本さんは、ニッコリと俺に笑いかけてくる。
しかしその目は笑ってるわけもなく、『やるわよね?』なんてプレッシャーを与えようとしているのがバレバレだ。
「まさか...ハメ撮りとか言わないよね?」
「勿論多少のサービスカットはお願いしたいけど、あくまでも書店売りで年齢制限無しだからね、寧ろそこまではやめといて」
「いつまで?」
「イベント終わって、明後日新幹線に乗るまで」
慣れてるかどうかは知らないけどな、慎吾あっさりこの二人の要求に乗るなよぉ。
ここからリクエストがエスカレートする可能性、相当高いんだぞ......
「今出したって事は、今から撮影始めろって事ですよね?」
渋々俺がカメラに手を伸ばすと、ようやく斉木さん達は普通の笑顔を見せてくれた。
「ほんとはチェックイン直後からと思ってたんだけどね。ま、せっかく先にご飯食べてるんだから、先に渡しちゃえと思って。あ、当然部屋はみっちゃんと勇輝くん、航生くんと慎吾くんでそれぞれダブルの部屋取ってるから、室内でもよろしく」
「...は~い」
航生もこういう時に撮影をされるのは経験があるのか、妙に楽しそうだ。
テンション高めに食事風景を撮影しあう隣とは対照的に、俺も充彦もそこからはお好み焼きも唐揚げも全く味を感じなくなって、なんだか一気に食欲が失われた。
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