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大阪ストラット【4】

食事が終わると再び全員で地下街へと戻る。 気温はちょうど今がピークらしく、その地下街に向かうまででも汗が吹き出してきた。 「そもそもさぁ、なんでこんなホテル予約したん? そこのアーケードの先にでも結構綺麗なビジネスホテルあったのに。そしたら日本橋でも近いし、そこの高島屋で買い物もすぐにできたで?」 「ごめんね。私はこっちのスタッフに予約任せてたからよくわからないんだけど、『アズール』に近いらしいのよ」 「アズールって、ほんでどこなん?」 地下街をゆっくりと進みながら、慎吾はその会場のパンフレットを受け取った。 『アズール』というのは、普段はジャズの生演奏なんかもやっているライブレストランらしい。 レストランウェディングや貸し切りパーティーも積極的に受け付けているのだそうで、『自分達でキッチンを使いたい』という俺達の要求をこの店は快く引き受けてくれた。 おまけに、店のスタッフを俺達のフォローに付けてくれるとまで言ってくれたんだそうだ。 勿論単純な好意からの申し出というわけじゃなくそれ相応の料金を受け取っての事だろうし、何より事故でも起きれば店の責任が問われる事になるからだろうが。 それでも、素人ばかりでキッチンに入って本当に自分達のやりたい演出ができるのか...と言えば自信などあるはずもなく、普段からパーティーなどの運営に慣れている人達が作業に加わってくれるのは素直にありがたかった。 「あ、なるほどね。堀江にあんのか...そしたら確かに道頓堀からの方が便利やわ。もし作業が遅なってもすぐに宿舎帰れるしな。うん、納得いった」 何やら一人で考え、一人で納得しながら、慎吾は相変わらずカメラを片手にプラプラと地下街を進んでいく。 「みっちゃんか勇輝くんもちゃんと撮影してね」 後ろからかけられた声に俺はチラリと視線だけを向けた。 「別にただ歩いてるだけならさぁ、慎吾一人撮影してりゃ十分じゃない?」 「そうはいかないわよ。見てごらんなさい...慎吾くん、航生くんしか撮ってないから」 確かに先頭を歩く慎吾は、道のりを実況しながら時折自分の視線に合わせて航生の方だけにカメラを向けていた。 その後ろにいる俺達の事なんて欠片も意識していないらしい。 「わかった?」 「......じゃあ、慎吾にちゃんとこっちも撮らせればいいじゃん。あいつ、なんなら一人でカメラマンやる~とか言ってたんだし」 「それじゃ向こうに着くまで時間かかりすぎるでしょ、慎吾くんにあんまりよそ見させてると。あなた達、買い物する時間無くなっちゃうわよ?」 「......しゃあない。俺が撮るか」 渋々充彦がカメラを構える。 どう考えても撮影角度がおかしいけれど、ここはまあ仕方ない。 「慎吾くんの案内で、我々ただいま宿舎に向かっておりま~す」 高くもないけれど、まあ低すぎもしないテンションで、ポツポツ実況も入れ始める。 「俺ら全然大阪わかんないもんなぁ。勇輝は? 来たことあんの?」 「俺はねえ、京都まではあるんだけど大阪は初めてだな」 「俺も。須磨には行ったんだけど大阪に来たのはたぶん初めて」 「須磨? それってどこ?」 「兵庫だよ。神戸の方」 「大阪はスルーでいきなり神戸?」 「でっかい海水浴場あんの。そこにマジックミラー号で乗り付けて、リアルナンパからのハメ撮り...みたいな?」 「それ、仕事じゃ~ん」 フフフッと笑いツンツンと腹をつつくと、同じようにフフフッと笑って俺の手を握ってきた。 昼間にする話でもなければ、でっかい男が手を繋いでるなんて姿も昼間にお見せするもんでもないだろうけど、旅の恥はかき捨て...的な? なんとなくその手をしっかりと握り返しながら、繋いだ所をカメラの前に上げてみた。 「はい、この階段上がるで...って、ちょっとそこ! 何やってんねん!」 「何って...ラブラブシェイクハンドで~す」 「うわあ、なんか悔しい! 航生くん、俺らも手ぇ繋ご!」 「や、やですよぉ...そんな...まだ明るい時間なのに...」 無理にでも手を繋ごうとする慎吾と、慌ててその手から逃げようと小走りになる航生。 なんだかすごく二人らしくて、微笑ましくて、自然と笑みが漏れてきた。 「ほら航生、あんまり一人で走り回ってると迷子んなるぞ」 「諦めて大人しく手繋いでろよ」 後ろから茶化すと、不本意ながらも俺達の言葉は絶対なのか、半分泣きそうな顔で慎吾とようやく手を繋いだ。 とは言えやはりまんざらでもないんだろう。 首まで真っ赤にした航生の口許は穏やかに綻んでいた。 充彦はヒッヒッと変な笑い声を出しながら、そんな後ろ姿を背後からじっと撮っている。 「はい、これからまた明るい地上に上がるって時に、前方のアホアホカップルは手なんて繋いでますよ~」 わざとらしく聞こえるように実況する充彦の声に慌てて航生は手を引っ込めようとするけれど、しっかり指を絡めていた慎吾はそれを許さなかった。 「うっわ、暑っ。なんかこの暑さってムカつくわぁ...ほんまに今一番暑い時間やと思うから、みんなちょっと覚悟してね~。でもまあ、こっから少し歩いたら、いかにも大阪らしい風景見られるし」 『暑ければ手を離せ』なんていうツッコミを航生が入れられるはずもなく、地下街から地上へとそのまま引きずり出された。 そんな様子を指差し笑いながら、俺達も後を続く。 「これ、右の道が御堂筋ね。あと少しやから」 『御堂』というくらいだから、どこかに有名なお寺でもあるのだろうか? キョロキョロと観光客丸出しで辺りを見回すものの、目に入ってくるのは高層ビルと色鮮やかな看板ばかりだった。 「はい、ここが有名な道頓堀。右の俺の指の先見て。あれ、ようテレビなんかにも出てるグリコの看板ね。あの看板の下の橋から、よう人が飛び込んでニュースになってんねん。知らん?」 「あ、サッカーの時とかの...アレ?」 「そうそう、アレ!」 俺達に数十メートル先の看板を示しながら、慎吾は左へと曲がっていく。 そこからそれほどの距離はなかっただろう。 慎吾がいきなり足を止めた先にはわりと綺麗なビジネスホテルがあり、なぜかその入り口には...某アメリカのCGアニメに出てくるジャガイモの人形のように頭からいきなり脚の生えた謎の人型の4本の柱が俺達を出迎えていた。

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