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大阪の夜と小悪魔の誤算【慎吾視点】
「見て見て! ほら、めっちゃ脚ツルツルやで」
風呂の中で、脚も腕も脇も...ついでやったんでアソコまで、全部ムダ毛を剃ってきたった。
ベッドに腰を下ろして、明日の段取りを一生懸命に考えてるせいでこちらを向いてもくれない航生くんの目の前に、ニュ~ンと足を差し出してみる。
さすがに気づいたのか、その足を見て航生くんはポカンと口を開けたまんま俺の方をやっと向いてくれた。
なんかそのアホ丸出しの顔があんまり可愛くて、膝の上に体を乗り上げてギュッて頭を抱え込んでしまう。
「その脚...どしたんですか?」
「ん? 脚だけちゃうよ。ぜ~んぶツルツル。見る?」
少しだけ体を離し、焦らしながらも興味をそそるようにってパンツのゴムをちょっとだけ引っ張りながら、ゆっくりとそれを下にずらしてみせる。
その先が見えるか見えへんかってとこで動きを止めて、航生くんに笑ってみた。
ボケ~ッとしながらも無意識に目線はさらに下に向かおうとしてたの自分に気づいたんか、航生くんはバツが悪そうに顔を真っ赤にさせて慌てて顔を背ける。
俺ともっとイロイロエロエロしてんのに、なんでこんなに航生くんて照れ屋で可愛いんやろ?
そんなに可愛いと、ちょびっと意地悪とかしたなるやん?
背けられた顔に手を添えて、少し強引に俺の方に向きを戻す。
「航生くんの為にめっちゃ綺麗にしてきたのに、見てくれへんの?」
「お、俺の為って...い、いや、明日のイベントの為でしょ?」
「ん? そら脚とか腕はね。んでも...別にチン毛までツルツルにする必要あれへんやん?」
「俺の為でも別に...ツルツルにする必要は...ないかと......」
「そう? 俺ね、ここの毛ぇ剃るのん初めてやねん。せやからね、こんな男の子になった俺のチンコ見るんて...航生くんが初めてやねんで? 俺さぁ、航生くんになんにも初めてってあげられへんかったし...せめて気分だけでも初めての時みたいなウブな俺、味わって欲しいなぁって思ったん」
「......慎吾さん...それが本気ならおバカさんですね...可愛いけど」
跨がっていた俺の腰に航生くんの腕が回され、しっかりギュッと抱き寄せられた。
思ってたよりもそれはずっと強い力で、なんか胸がキュンてする。
意地悪しちゃおうとか考えた自分が、何でか知らんけどほんまにおバカさんやなぁなんて思えて、ゴメンねのつもりで大人しく素直に腕の中に収まってみた。
「俺、おバカさんなん?」
「うん、おバカさんですよ......」
「なんで? 俺は俺なりに航生くん喜ばそうとか思ってんで?」
「んふっ...だってね、俺、ちゃんと慎吾さんから初めてもらいましたよ?」
「俺、なんかあげられてたかなぁ...?」
本気でわからんくて、ちょっとだけ顔をあげて首を傾げた。
俺を見てる航生くんの目はすごい優しくて優しくて、なんか恥ずかしい。
少しだけ俯いたら、面白そうに鼻のてっぺんにチュッてされた。
「慎吾さんに会えて、初めて『本当に人を好きになる』って気持ち教えてもらいました。俺ね、前も少し言いましたけど、勇輝さんの事が好きなんだと思ってたんです。勇輝さんへの感情が『恋』なんだろうなって。でもね、こうやって慎吾さんと一緒にいたら、あれは恋なんかじゃなくて憧れだったんだってよくわかりました。こんなに誰かが愛しくて欲しくて守ってあげたくなるなんて...俺、知りませんでしたから。好き過ぎて苦しくなるって事も初めて知りましたよ。ね、慎吾さんから大切な初めてって、いっぱいもらってるでしょ?」
「そんなん...勇輝くんと比べんとってよ...俺、自信無くなるやん......」
「比べてなんてないです。勇輝さんへの気持ちは俺の勘違いだって気づかせてもらったって話なんだから。それにね、慎吾さんは何よりも大切な事がわかってない」
「大切な事......?」
「俺は別に、慎吾さんの初めてになりたいなんて言ってないですよ?」
いつもより少しだけ低くて、でも蕩けそうなくらい甘い声が耳許で響いた。
なんかもう、それだけで体も気持ちもゾクゾクする。
航生くんて、こんなに男らしかったやろうか...こんなにイヤらしかったやろうか......
「俺は慎吾さんの初めてじゃなくて、最後でさえあれば...それでいいです。俺にとっての慎吾さんは、最初で最後の人ですから」
ドクドクと大きなる鼓動で、胸が痛いくらいや。
ほんまになんか...航生くんとおったら...俺が俺なくなるみたい......
「なあ...今日な...武蔵と買い物行ってたやん?」
「はい。充彦さんも言ってましたけど、ほんとに助かりました。高島屋だけじゃ探してた物見つからなくて、なんだっけな...なんばCITY?とかパークスとか言う所も回ってくれましたし」
「......変な事...言われへんかった?」
「変な事はなんにも。ただ『ライバル宣言』されただけですよ。これからも諦めるつもりはないって」
「平気なん? 俺がいかに色んな男と寝てたかって事やろ?」
「平気じゃないですよ~。あんなカッコ良くてメチャクチャいい人がライバルとか、すごいプレッシャーです。でもね俺、慎吾さんに一番惚れられてる自信ありますから。俺が慎吾さんを一番大切にできるんだって自信もありますから。いつか気持ちよく諦めさせてみせます」
俺、ズルいけど...ちょっとだけ武蔵を当て馬に使った。
いっつも俺の方が押せ押せで、なんか航生くんは流されてるだけみたいに感じてて...俺はそれに、どっか罪悪感みたいなもんを抱いてた。
だから、俺への気持ちと航生くんへの対抗心を隠せへんやろう武蔵に会って航生くんがどんな反応見せるんか、賭けたんやと思う。
尻込みするんか、ジェラシー丸出しにするんか...
そしたらなんのことはない...そのどっちでも無かった。
航生くんは、武蔵の存在も認めた上で、自分の気持ちと俺の気持ちに自信を持ってた。
いや、逆に自信を持つことになったんかもしれん。
武蔵、ゴメンな...でも俺、今信じられへんくらい幸せや。
「航生くん...俺な、俺...航生くんがほんまに好きやで」
「知ってます。だから俺、このまま慎吾さんの最後の男になりますからね。捨てられる事が無いように、もっと強くてカッコ良くて優しい男になりますよ」
「俺も、もっと可愛くて賢くてエロい男になる、捨てられんように」
「......これ以上エロくはならないでください。毎日ドキドキして心臓とチンコ破裂しちゃいますから」
抱き締められたまま、航生くんにグッと体を持ち上げられた。
そのまま隣の俺のベッドに押し倒される。
「すっごいしたくなったんですけど...いいですか?」
「ここでしたら、ベッド汚れへん? それに俺の寝る場所無くなるやん」
「ホテルの方に迷惑かけない程度には気をつけますし、慎吾さんの眠る場所は俺の腕の中ですから...向こうのベッドで抱き合ってればいいでしょ?」
航生くんの手が、俺の短パンの中にスルスルと入ってくる。
「俺の為のツルツルチンコ、ちゃんと見ないといけませんし」
「な、なんか今日の航生くん、変態チックや......」
「慎吾さんのエロエロが伝染しました。でも、こんな俺でも...好きでしょ?」
「...うん...めっちゃ好き......」
どうしよう...なんか俺、全然主導権握られへん......
他人にこんなにペース乱された事なんて無いのに...んで、それがこんなに幸せな事やなんて...思えへんかった。
髪を撫でる指も、覆い被さってくる熱と重みも、どれもこれも幸せや。
キスをしようとゆっくり近づいてくる航生くんの唇を、そっと押し留める。
「俺とのキス、嫌いですか?」
「ちゃうねん...一個だけ話させて?」
じっと航生くんの目を見る。
航生くんは不愉快そうな様子も苛立った素振りも見せんと、ただ目を細めてた。
「東京帰ったらな...もっともっと航生くんと話がしたい。夢とか未来とか、先の事。んで、一緒にずっとおる為に必要な事とか、俺がしなあかん事とか...教えて欲しいねん」
「いっぱい話しましょうね。どうやったら二人で幸せになれるのか、きちんと考えましょう。で、俺の昔の話も...全部聞いてください」
俺から改めて首に腕を絡めると、噛みつくみたいにキスをする。
さっきまであんなに自信満々でちょっとだけ不敵でめっちゃ男らしかったのに、航生くんの愛撫はやっぱりいつも通り優しくて...いつもよりずっと甘かった。
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