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癒されたい、赦されたい【4】

  充彦の、俺の体を撫でる手の動きは変わらなかった。 強すぎもせず、かと言って弱く掠めるだけというわけでもなく。 時折、反応が大きいとわかった上でわざと擽るように脇や襟足に指を滑らせるが、それも決して身を捩るほどの物ではない。 ただ、俺の体が違う。 室内に満ちている香りがゆっくりと体内の熱を煽っていく。 本能と欲望が無理矢理にでも理性を捩じ伏せ押さえつけ、幻覚や幻聴を感じてしまうほどに神経を昂らせるのがいわゆる『媚薬』だとか『セックスドラッグ』だと思う。 本格的な、法律的にもヤバめの物というのは使った事は無いけれど、合法の効き目など曖昧な物ですら異様に体温が上昇し、神経は鋭敏になった...たかだか衣擦れですら射精感を催すほどに。 ただしそこには本能と化学物質の影響があるというだけで、意志や気持ちは介在しない。 しかし今、俺の体を優しく包んでいるのはただの『アロマキャンドル』であり、ただの『アロマオイル』の香りだ。 その原料はハーブだったりスパイスだったり、食用やフレグランスとして日常にごく普通に存在するもので、決してセックス目的で作られた物ではない。 それなのにどうして、今これほどまでに俺の体に『催淫作用』が現れているのか...それは俺にそういう『意志』や『願望』があるからに他ならない。 香りの素になっている原料にはそれぞれ『催淫』以外にも、『リラックス』『安眠』などの効果があると言われている。 興奮と鎮静...その真逆の効果を謳っている香りの成分の中で何を拾うのか...それは本人の気持ち次第なんじゃないだろうか。 気持ちを安らかに鎮めたい人は『リラックス』を、ゆっくりと穏やかな眠りを求めるなら『安眠』を。 そして充彦から与えられる物はすべて快感だと受け止める俺の体は、この香りの中から確実に性感を高める部分を拾っていた。 いつだって充彦からこうされることを望んでいるから。 ゆったりと大きな呼吸を繰り返し、渇き始めた唇を何度も舐める。 指は相変わらず背中を撫でるように滑りながら、それでもきちんとマッサージを施す意思を表すように、時折筋肉の強張りがあると思われる辺りを強く押してきた。 「あっ...ぁ...ん...」 はしたなくも、指の動きに合わせるように声が漏れる。 いやもしかすると、無意識にもわざと漏らしているのかもしれない...香りと指にすっかり煽られ昂っている俺と同じように、充彦も俺の声に煽られてはくれないかと。 「エッロい声。もう感じてんの?」 「...感じてる...だって...触ってるの...充彦の手だから...」 誘うように揺れる腰を抑える事もせず、首だけを捩って背後にチラと目線を送った。 コクンの充彦の大きな喉仏が微かに上下する。 「もう、マッサージいいよ...早く...しよ? ううん...して...早く...」 すぐに頷き、勢い込んで覆い被さってくるものと思っていた充彦は、しかしその場から動く気配はなかった。 変わらぬ様子で再び俺の体に手を伸ばすと、今度は尻をグイグイと揉み始める。 「ま~だ。残念ながら今日の俺はね、ちょっとだけ意地悪なんだなぁ」 尻たぶをグッと割り開き、その奥をまじまじと見つめているのか、そこに痛いほどの視線を感じる。 さすがに少しだけ恥ずかしくなって逃れようと体を揺すってみるものの、充彦の手がそこから離れる事はなかった。 「そんなに欲しいの? 俺、どっこも触ってないのにさ、もうここ...ほら、すごいヒクヒクしてる」 からかうように窄まりをツンとつついてくる。 それだけでそこには、自分でもわかるほどキュンと力が入った。 しかしそれもほんの一瞬だけで、充彦の指はまた尻のマッサージに戻ってしまう。 脚の付け根や尻を押し込み、合間にまるでトレースでもするように爪で表面を強めになぞった。 痛みと快感のそのギリギリの感触に、ドクドクと体を巡る血流が変わる。 俺の体とマットの間で押し潰されているぺニスへとそれは一気に流れ込んできた。 「あ~あ、勇輝の真っ白で綺麗なお尻が、こんなに赤い傷だらけになっちゃった...」 からかうような、けれどどこかうっとりと惚けたような充彦の声。 本当なら『明日の仕事に響きでもしたらどうするんだ!』と怒るべきなのかもしれない。 そう、プロなんだから... けれど俺は充彦の手で...たとえそれがすぐに消えてしまうものであったとしても...傷を付けられたということに、なぜかひどく興奮を覚えていた。 何が原因なのかはわからない。 俺の何が充彦を怒らせたのか。 そこにいまだ不安が無いとは言えない。 けれどいつも求めるまま、ひたすら俺を感じさせようとしてくれる充彦が、こうして怒りを抑えつつ甘く責め立ててくることが今は堪らなく嬉しい。 「何? 苛められて悦んでんの?」 マットと腰の間に充彦の手が滑り込んでくる。 「ここ、もうカチカチでグショグショなんだけど」 ドクドクとしっかりと脈を打つぺニスがキュウと握られた。 いきなり与えられた直接的な刺激に、思わずヒッと息が詰まる。 「背中とかから...オイル...垂れてきた...ッハァ...ンッ...だけなんじゃない?」 「ふ~ん、言うねぇ。でも...可愛いげのない勇輝も可愛いよ」 すぐそばに膝をついた充彦の重みでマットが深く沈む。 ゆっくりと顔が近づいてくる気配と共に、パクッと耳朶が咥えられた。 「ほら、ちょっとケツ上げてみ? もっともっと気持ち良くしてやるし...俺が怒ってる理由教えてやるから」 舌で耳を嬲る充彦の方をぼんやりと窺う。 怒っていると言いながら、けれどその表情はいつもの通り、穏やかで優しい。 目が合った充彦はフワリと微笑む。 「ほら、優しく苛めてやるから、しっかりケツ上げておねだりは? 俺に苛められて感じる、ドMな勇輝くん」 熱が渦を巻くこの体はもう自由なんて効かない...そんな風に思うのに、充彦の言葉がまるで呪文のように頭の中にじわりと染み込んでくる。 もっと充彦に触られたい...苛められたい... 俺はゆっくりと尻を上げると、まるで犬にでもなったかのように懸命に腰を揺らした。 「いいカッコ。いいよ...可愛い、すげえイヤらしくて」 満足そうにユルユルとぺニスを扱きながら、脚の付け根の皮膚の薄い辺りをスルリと撫でる。 「ハッ...み、充彦...アァン...充彦...お願い、お願いだから......」 「ん? さすがにまだイかせないよ?」 「違う...違うんだ......」 尻を掲げて大きく揺らし、それを恥じる事もなく俺はそっと手を伸ばした。 それひ気づいた充彦は俺のその手を取り、キュッと指を絡めてくれる。 「お願い...キス...まだちゃんと...キスしてない...したい...キスして...」 ぺニスを扱いていた手がふと止まり、胸と肩でどうにか支えていた俺の体がゆっくりと起こされる。 「またちゃんと、お尻上げてワンコの格好するんだよ?」 その言葉に必死に頷いて見せる。 充彦の求める物に逆らうつもりなんてサラサラ無い。 はしたなく尻を揺らし、蔑まれるほどの痴態を晒せと言うならいくらでもしてみせる。 けれど、今日は意地悪をするのだと言っていたはずの当の充彦は、これ以上ないほどに穏やかな笑みを浮かべ、ひたすらに優しく俺の唇に自分の厚くて柔らかい唇を重ねてきた。
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