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サプライズにもほどがある【4】
「皆さん、改めましてこんばんは。みっちゃんと......」
「航生です」
「勇輝と慎吾くんがいなくてちょっと面白くないとは思うんですけど、しばらく我慢してくださいね~」
「着替えだけ終わったら、すぐに戻ってきますんで」
「はい、じゃあですね、今のうちにちょっとこれからのスケジュールを説明させてもらいたいと思います。なんか忙しなくてすいません。一応ですね、招待状に『フリードリンク』って表示はあったと思うんですが、軽い食事というか、おつまみ的な物もご用意してます。ちょっと後ろ見ていただいてもいいですか?」
「後ろのテーブルにご用意した料理、デザートもフリーになってます。無くなる頃にはちゃんと次のお皿用意してますので、皆さん遠慮なく食べてくださいね」
「ちなみに! 実はですねぇ、このアズールのスタッフさん達に手伝っていただきながら、あれ全部俺と航生で作ってます」
俺がそれを伝えると、会場中がどよめくと共に、パシャパシャとフラッシュが光る。
取材のカメラマンさん達もちょっと驚きながら、ずらりと並んだオードブルの撮影を始めた。
お客さん達はそれを、少し羨ましそうに見ている。
「あ、見ていただいたらおわかりのように、本日はビー・ハイヴのビデオと、マスコミ各社の方が入ってます」
「勿論、皆さんの顔を写すような事は絶対にありませんので、どうか安心して楽しんでくださいね」
「まあ、そこは当然ですよね~。んでですね、まずはお食事とお酒を楽しんでいただく時間を30分ほど取ってます。その間は、俺達の姿とお料理は写真撮影オッケーです」
「ただしですね、その写真に気を付けていてもどうしてと他のお客様が写り込む可能性もあります。SNSに載っけるといった事はどうか止めてくださいね」
「みんな大人なレディーですから、そういう部分の良識は...信じてますよ。あ、もしかして、まだ手をつけられてない状態のあのテーブル撮りたいって方いますか?」
会場を見回せば、自分のスマホを握りしめた手がチラホラと上がった。
俺達はステージを下り、客席の間を抜けて一番後ろまで進む。
「じゃあ、今から先に少しだけ撮影会しちゃいましょうか。あ、そうそう、ここのカナッペね、サーモンのテリーヌとかケイパーとかラムレーズンなんかも俺の自作だから。東京からわざわざカバンに淹れて瓶ごと持ってきたんだよぉぉぉ」
「あれ、重そうでしたよね」
「すんげえ重かった。つうか、邪魔だった、カバンでかくて。まあ、ほんとに頑張って作ってますんで、皆さん美味しく食べてやってくださいね。んじゃ、撮影したい人は、カメラ持って...集合!」
俺の話を聞いたからなのか、それとも俺達がテーブルの所まで下りていったからなのか、ほとんど全員がワラワラと近づいてくる。
純粋に料理にカメラを向けてくれている子もいるけど、レンズの大半は俺達にロックオン。
ま、撮影自由って言ってるし、別になんの問題も無いんだけど。
俺と航生は、にこやかに笑顔を振り撒きながら、ほんの少しの時間稼ぎをする。
着替えに戻った二人待ち。
化粧が濃かったわけではないからそれほどの時間はかからないだろうが、それでもウィッグを被っていたせいで潰れた髪型を直すのは案外面倒かもしれない。
二人が戻るまでみんなを退屈させないように。
そして次のサプライズを成功させる為、俺達は不自然にならないように気を付けながら、ただひたすら合図を待った。
満足いくまで料理の...いやいや、むしろ俺達の写真を撮ったお客さん達は、少しずつ自分の席へと戻りだす。
まだ時間稼ぎは必要だろうか...航生と目を合わせたタイミングで、微かに『チーン』とガラスの鳴るような音がした。
航生がニコッと笑うと、一度口許のマイクの位置を直す。
「じゃあ、写真の撮影はこれくらいでいいですかね?」
「俺らの写真はまた後から撮れるから大丈夫だよ。で、お料理の説明はしたんですが、フリードリンクの説明しないとな」
「はい。ジュースとか炭酸水なんかのソフトドリンクは、このテーブルの...はい、あっちにありますんで自由に飲んでくださいね」
「アルコール類に関しては、せっかくカクテルでも有名なお店を使わせてもらってるという事で......あちら、バーカウンターをご覧くださいっ!」
俺の言葉に、会場の照明がすべて落とされた。
その代わりに、ステージ横のバーカウンターにスポットライトが当てられる。
しっかりと整えられた髪に、黒いベストと蝶ネクタイ。
さっきまでのメイド姿とはまるで違う、きらめくほどに美しい男が二人シェイカーを振ってた。
ため息と歓声が同時に沸き起こる。
「はい、お待たせ~」
「ビール、ワインもあるけど、今日のおすすめは俺らが作るカクテルやで」
「カウンター前に用意できるカクテルのメニュー置いてるんで、その中から好きなの選んでね。ノンアルのカクテルもちゃんと作れるから、お酒が苦手な人も遠慮なく言って」
「名前わかれへんでも、どんなん飲みたいかわかれへんでも、好きな味とか教えてくれたら、絶対好みのカクテル作っちゃうよ~」
「時間の都合もあるんで、カウンターでのカクテルの注文は、一人一杯だけにしてくださいね。さあ、ではこうして4人が揃った所で...そろそろ皆さんにお食事とお酒を楽しんでもらいましょうか」
「俺とみっちゃんは、皆さんの執事として会場をずっと回ってますので、気軽に声かけてくださいね」
「ではでは、本格的にパーティーのスタートです」
会場に灯りが戻ると、まずはあっという間にバーカウンターの前が女の子で埋め尽くされた。
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