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癒されたい、赦されたい【8】
中を抉る楔は凶器のように熱く固く、そして激しい。
けれど...しっかりと背中に回された腕はあまりにも優しくて泣きたくなってくる。
「気持ちいい?」
顎の先を啄みながら充彦が尋ねてきた。
なぜか、自然と唇の端が上がっていくのがわかる。
「...すっげえ幸せ」
「ふふっ、答えになってねえし」
ユサユサとゆったり大きく揺さぶられれば、思わず体が仰け反り後ろに倒れそうになった。
それを充彦の腕が受け止め、しっかりと支えてくれる。
「ちゃんと掴まってくれる? ぼちぼち本格的に動きたいから」
「そんなもん、わざわざ予告すんなよぉ。あれ? そういや...まだ何か話があるんじゃなかったっけ?」
そんな事を言いながらも、俺は素直にキュウと充彦の首に腕を回し、強くしがみついた。
そのままちょうど目の前にきた耳朶を舌先でチロチロと擽る。
「これ以上の話は、もう一回ベッドでした後かな~。とりあえず満足するまで目一杯エッチしないと、どうにも俺が落ち着かない」
「目一杯した後なんて、俺が落ち着かないわ。つか、その時起きてる自信ないって」
「今日は飛ぶほどヤんないから、大丈夫大丈夫」
ウレタン製のバスマットの上では、いつものように上手く反動を利用して動くというわけにもいかないだろう。
無理でもしてどこか体を傷めたりしないか、そんな事がちょっと気になってしまう。
「なぁ...ベッド、先に行かない?」
「はぁ? 無理だよ、無理。いいから勇輝は俺に掴まって、黙って感じてろ」
そう言うと、俺の体が少しだけ浮いた。
普段は華奢に見える充彦の肩と上腕にググッと筋肉が盛り上がる。
細いけれど、決して貧相には見えない体。
服を着ている時には誰も気づかない逞しさが今俺を抱えてくれているのだという事にさえ気持ちが昂る。
「まさかの駅弁?」
「さすがに今腰やられるとマズいだろ。社長にぶっ殺されそうだし。そこまでの無茶はしませんよ~」
崩したような正座の形を取ると、俺の尻を元のように腿の上に戻す。
脚を腰に絡ませるように促され、俺は中に留まる楔を更に奥へと引き込むよう、絡ませた脚にぐいと力を込めた。
長く大きな充彦のぺニスは、さっきよりも深く突き刺さる。
「っはぁっ...勇輝くん、積極的だねぇ...」
「んっ...だって...もっと気持ちよく...なりたい...」
自分でユラユラと腰を揺らし、意識して繋がった場所を必死に締め付ける。
「こらこら、あんまりそんなキュウキュウされると、俺が先に持ってかれそうじゃん」
そんな言葉とはうらはらに、充彦の顔にはまだまだ余裕があるっぽい。
俺はこんなに...充彦が欲しくて欲しくて必死なのに...
なんだかちょっと悔しくなって、自分が一番感じる辺りは上手く外しながら、ムキになって腰を振りたくってみる。
「お~い、ちょっと...オイタが過ぎませんか?」
耳許に吹き掛けられる吐息が熱い。
充彦の眉間にはうっすらとシワが刻まれ、その首筋に太い血管が浮かんだ。
興奮し、感じてくれてるらしい事が嬉しい。
「チンポは俺がちゃんと扱いててやるから、勇輝はとにかく掴まってろよ」
左腕は俺の腰を支え、右手がペニスを握った。
ああ、今度はちゃんと前でイかせてくれるつもりだ...その事に少しだけ安心する。
それでなくてもこの場所で、尚且この体勢では後ろへの刺激だけでエクスタシーを迎えるのはどうしても難しい。
射精ならともかく、中イキはおそらく無理だろう。
長時間の交わりになれば、充彦の体への負担も大きくなるはずだ。
「良かった...」
「ん? 何が?」
「今度はちゃんと二人で...気持ちよくなれる...」
言い終わる寸前で、言葉を遮るように激しく唇が合わされた。
同時に、中を犯す塊がガツガツと大きく内部を抉り、俺のペニスを握る手が上下に動き始める。
「ああっ...充彦...充彦...すごいっ......」
素直な声が溢れる。
それは自分でも驚くほど幸福感に酔いしれた、やけに甘ったるい声だった。
今度は感じる事に戸惑いも躊躇いも必要無い。
ただ充彦の与えてくれる熱に身を委ねるだけでいい。
徐々に充彦の息も荒くなってくる。
二人で同時に興奮と快感を高め合っている『今』に、胸が締め付けられるように苦しくなってきた。
また涙が込み上げてくるけど、この涙はさっきとまるで意味が違う。
「勇輝...好きだよ...」
譫言のように繰り返しながら、充彦の動きは激しさを増してくる。
楔の先端は俺の一番感じる最奥を強く突き上げてきた。
「好きだ...勇輝...好きだよ...」
「...っあん...充彦ぉ...俺も...俺も好き...大好き......」
充彦の大きな動きに合わせ、俺も懸命に腰をくねらせる。
気持ちいい...気持ちいい...イきたい...早くイきたい...充彦と一緒に...
「っうぅ...ヤバい...イきそう...」
「俺も...俺も...イく...イっちゃう...」
首に絡めていた右手を離し、俺のぺニスを扱いている充彦の手に添えた。
二人の手を重ねたまま、扱く速度を上げていく。
充彦が俺の中を擦り突く速度もますます上がる。
もうそこに...すぐそこに......
「はぁっ...あん...あ...ダメ...イく...イく...」
ブルブルと全身が震え、強張り、その瞬間俺と充彦の手の上に快感の証が飛び散る。
ほぼ同時に俺の奥に留まった物はグッと質量を増し、そこからジワリと俺とは違う体温が広がった。
留めと言わんばかりに二度、三度と更に奥を突かれれば、ゆっくりと体から力が抜けていく。
グチュリとひどく卑猥な水音と共に充彦のモノが引きずり出されるとやけに心地よい倦怠感に包まれ、俺達は二人並んでパタリとバスマットに倒れ込んだ。
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