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癒されたい、赦されたい【9】
「...き...おいっ...勇輝」
どこか遠い所から聞こえていた声がゆっくりと近づいてくる。
真っ暗な世界の中で充彦が俺を呼ぶ声だけが響き、なんだか気持ちいい。
体はズクズクと熱く疼いているのに、それでもなんだかそれすらも心地よくて、フワフワと浮かんでいるようにも思える。
ああ...このままもっと深く暗くて、でも温かい世界に沈んでしまいたい...
「おいっ、勇輝! しっかりしろって。おい!」
パチパチと軽く頬を打たれる感覚に、渋々ながら意識をゆっくりと浮上させていく。
一度ギュッと固く閉じて、それからそっと瞼を開いた。
目の前には少し心配そうな、そして何よりバツの悪そうな顔をした充彦。
やけに垂れ下がった眉毛ではせっかくの男前が台無しだと、そこに指を伸ばそうと試みる。
敢えなく失敗したけれど。
まったく腕に力が入らない。
いや、腕だけじゃなく体ごと。
えっと、俺は...どうしたんだっけ...?
ただ情けない顔をした充彦をぼんやりと見つめる。
「悪い、やりすぎた」
「...な...に?」
なんだこれ?
喉がベッタリと貼り付いたように渇いて、やけにヒリヒリと痛む。
掠れてしまって、声も思うように出てこない。
「とりあえず、水飲むか?」
頷いて見せると急いでペットボトルを差し出してくれるが、どうにも怠くてそれを受け取る力も無い。
充彦にもそれはすぐに伝わったらしく、自分で一口水を含むと、噎せる事のないようゆっくりと俺の喉に流し込んでくれた。
へばりついていた何かが洗い流され、なんとなく潤いが戻ってきたような気がする。
「あーあー...エホッ...あー」
試しに声を出してみれば、さっきに比べればいくらか痛みも薄らいだみたいだ。
聞き慣れた声に戻りつつある事に、少し安堵する。
それと共に、何があったのかをうっすらと思い出してきた。
「......飛ぶほどヤんないとかなんとか、言ってなかったっけ?」
「い、いや、ごめん、ごめんなさい。ちょっとだけ...やり過ぎました...」
「ちょっとぉ...?」
風呂場では確かに、二人ともなんだか少し穏やかな気持ちでイイ感じの倦怠感に包まれた。
激しすぎず、けれど意図的にどちらかが焦らしたなんて行為じゃなかったからちゃんと幸せな気分で気持ちよくなれたのだ。
問題はその後だ。
お互いに体を清めバスルームから移動するやいなや、さっきまでの優しさはなんだったんだ?ってくらい、ベッドに放り投げたそのままの格好でいきなり正常位でガツガツ奥を突かれた。
風呂場では到達しなかった、本当の奥の奥。
充彦以外の誰も知らない場所。
それがあまりに気持ち良くて、ほとんど前を触る事もないまま射精してしまった。
おまけに、まだ息すら落ち着いていないというのにぺニスを抜く事もしないまま、即座に体をひっくり返されて後ろからのし掛かられた。
逃れようと腕を伸ばせばそれを押さえつけられ、腰が落ちようと体勢が崩れようと全くお構い無し。
それこそ出す物も無く、けれど体は中も外も敏感なまま...そのまま何度イったかも定かじゃない。
もう本当にこのまま死んでしまうんじゃないかというくらい悲鳴のような声をあげ続けた。
シーツを必死で手繰り寄せた指先には力が入りすぎたんだろう。
改めてチラッと自分の手元を見れば、ちょっと爪が欠けていた。
結局はまあ...充彦が俺の中で盛大にイった瞬間に完全に意識が途切れて今に到るってとこか。
まったくその辺は覚えてない。
そりゃあ意識自体が無いんだから、記憶も何もあるわけがない。
「あのさぁ、飛ばないどころか、飛ぶわ体動かないわ...当初聞いてた話よりずいぶんとひどい状況だと思うんですけど?」
「んもう、だからほんとごめんてば。風呂場では気持ち良かったけどだいぶ抑えてたからさ、ついつい本気で頑張っちゃった。でもほら、こうやってすぐに意識も戻った事だし、二人ともすっごい気持ち良かったからとりあえずオッケーってことで......ダメ?」
「...明日の朝御飯、甘めのフレンチトーストに、たっぷりメープルシロップかけてあるの食べたい...」
「作る作る! そこにたっぷりサラダとポタージュスープも付ける!」
「......んじゃ、許す...」
ガバッと充彦が俺を抱き締めてくる。
「んあっ...ちょ、ちょっとまだ...ダメみたい...」
充彦の体温を感じた瞬間、全身を弱い電流が走ったように体が震えた。
あまりにも過ぎた快感は、まだまだ体内に燻っているらしい。
「うっそーん、まだダメ?」
「そうみたい」
「えーっ!? 俺、今すぐ勇輝とチューしたいんですけど」
「アホか、そんなもん自業自得だっての。とりあえず今はぜーったい無理。とりあえず...言いたいことあるって言ってたろ? 先にそっち話して。その間にまあ、少しは体の熱も引くだろうし」
「しゃあないなぁ...んじゃ、先に話そうか。んで、話が終わったらチューな?」
よほどスッキリしたのか、充彦は満面の笑みを向けてくる。
そんな顔を見せられれば、俺だって...ただ笑うしかなかった。
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