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ワンワン対談だワン3
「あのな、俺が昔の事を…っつっても、昔やってた仕事の事な? その昔の話を笑って話せたのはさ、それが肉親の事じゃないからだよ。いいか悪いかは別として、あれは俺が自分で選んだ過去の話だ。けどな、肉親の話ってなったらやっぱり違うわけよ。俺と勇輝の間でも、ある意味アンタッチャブルな部分でさ、俺の話は少し前にアイツに全部聞かせたけど、そりゃあもう泣いたし喚いたし怒鳴ったもんな。俺の力ではどうにもならなくて、俺は何も選ぶ事ができなかった過去は、やっぱり笑い話にはできないよ…誤解も解けて、昔よりずっと気持ちは楽になったはずの今でも無理。笑うどころか、下手すりゃ『あの時こうしてれば』とか『何か俺にできる事は無かったのか』なんて自己嫌悪に陥る」
「充彦さんが? 今でも?」
「そ。のほほんと生きてそうな俺でも。勇輝なんてさ、母親に捨てられたって事実を受け入れられてないからなのか他に理由があるのかわかんないけど、昔の記憶自体があやふやだろ? ゆっくり話を辿っていけば思い出せる事もあるんだろうけど、子供の頃の話する時のアイツっていっつもすっげえ寂しそうなんだよな…だったら、別に未来の俺らに不便があるわけじゃなし、無理に思い出させる必要もないじゃない?」
「そうか…単純に忘れたってわけじゃなくて、自分で記憶に蓋をしちゃってる可能性もあるのか…」
「俺はそう思ってる。もし今後、店オープンするにあたってアイツと正式に養子縁組かパートナー申請が必要になるようなら、最初に勇輝を拾って後見人になってくれてた人の所に色々聞きに行く事があるかもしれない。でも、そうじゃなきゃ俺が勇輝の過去を探る事は無いだろうな。過去の話はアイツから笑顔を奪う…だったら俺は知りたくない。慎吾くんもそんなとこないか?」
「そう…かもしれません。お金持ちの家に生まれた、デザイン系の学科のある高校に通ってたくらいは知ってますけど、学校でどんなイジメに遭ってて家では家族からどんな目で見られてたのかは…俺からは聞けないし、無理に知りたいとも思わないですね。あの人は自分を悪し様に言う事で自分を傷つけて笑う人だから…そんな悲しい笑顔は見たくありません」
「だろ? 俺ら全員ね、親に捨てられたわけよ。まあ、俺の場合はそれが誤解に誤解を重ねて拗らせまくってた結果だってのがわかったし、慎吾くんは捨てられたってより自分で親を捨ててきたんだけどさ。それでもみんな、自分でそんな過去を選択したわけじゃないし、勿論望んでたわけでもないじゃん。そんな俺らの根っこの部分は…やっぱ簡単に笑い話にはできないと思うよ。いつまでもそれをネタにできない、軽く流す事もできないって部分を悩む必要はない」
「俺の中では、もうとっくに終わった話のはずなんですけどね…」
「無理に終わらせて、それを笑わなくていいんだよ。昨日慎吾くん言ってただろ、『自分と出会う為に辛い過去があったと思ってくれないか』って。その通りだろ? みんな辛い過去があったからこそ、今誰よりも大切な人のそばにいられる。昔話で無理矢理笑うより、大切な人との未来を思って心から笑顔になる方が良くないか?」
「過去を乗り越えなくていいんですかね…」
「とっくに乗り越えてんだろ、お前は。強くなったしかっこよくなった…慎吾くんの為に、これからもっと強くなる。だろ? 昔の自分を笑い飛ばせたら強いのか? 違うだろ。大切な人をいつも笑わせてやれるのが強いの。慎吾くんは、いつも楽しそうに、幸せそうに笑ってんじゃん。お前がそれだけ大切にしてやってるって事だろ?」
「慎吾さんを大切にしたいって気持ちは…誰にも負けません。まだまだ足りないかもしれないけど」
「お前も慎吾くんと一緒にいるとほんと幸せそうだよ。それだけ慎吾くんがお前を大切にしてくれてるんじゃないの? 昨日も結局さ…昔の辛い過去に引きずられそうなお前の気持ちを、慎吾くんが必死に支えてくれたんだろ?」
「充彦さんも?」
「うちの勇輝さんは、慎吾くんに比べると色々スパルタなのよ…実は。きつい言葉バンバンぶつけながら、自分で答え見つけろって言うからね。そりゃあもう、厳しい厳しい。ひたすら優しく支えてくれるなんて期待できないんだわ」
「勇輝さんて、メチャメチャ優しくて穏やかなくせに、時々すっごいスパルタですよね!?」
「たぶん、アイツの思う相手に一番必要な態度取ってるじゃない? お前の言うスパルタって、あれだろ? 初対面の拉致監禁の話だろ」
「そうですそうです。普段の勇輝さんから考えたら、絶対あんな事しない人間じゃないですか。悪態つく人がいても無視するかニコニコ笑って受け流しそうなもんでしょ? あんな態度取った俺が言うのもおかしいですけど、何もあそこまでしなくて良くないですか?」
「あんな風に上から押さえつけないと、お前は態度を変えないと思ったんだろ。実際契約があると思い込んでたせいで、会社の操り人形だったわけだし」
「態度変えさせる必要も無いわけじゃないですか。レギュラーじゃないスポットの仕事で、俺の事が許せないならただ怒って帰れば良かっただけで」
「助けて欲しそうに見えたからだろ。無意識に助けを求めてたお前に、勇輝も無意識で気付いた。そしてそのSOSに応える方法を本能で感じたんじゃないかな…キャーッ、勇輝さんたらエスパーかしら」
「そんな勇輝さんの考えを、何も言わなくても全部お見通しだった充彦さんのがよっぽどエスパーですけどね」
「それは愛ゆえだな、俺のは。勇輝の場合は、昔から相手の望む言葉や態度を瞬時に理解してたらしいよ」
「充彦さんは、きつい言葉と厳しい態度で追い詰められたかった? ドMですね」
「俺も変なとこ頑固だからさ、一つの考えに凝り固まっちゃうとその奥の真実まで見えなくなっちゃう事があるんだよなぁ」
「その固まったものを溶かしたり壊したりする為には、強い言葉が必要なんだ?」
「優しく言われたところで、でもでもだって…ばっかりで何も言葉は届かないだろうな。アイツが俺の頑なさを壊してくれたから、こうやって今日お前と笑ってられる」
「俺もです。慎吾さんが俺を優しく包んでくれたから…だれよりも愛しいって気持ちをいっぱい伝えてくれたから…充彦さんにちゃんとごめんなさいが言えました」
「結局ね、俺らあの二人には絶対敵わないよな」
「敵うなんて思えた事もありません」
「確かに~。初めて会った瞬間から俺なんて負けてるわ」
「ベッドの上だけなら主導権握れるんですけどね……」
「おっ、そっち系の話が出てきたところで、俺ららしい内容に戻そうか。あまりにもビデオに使えなさそうな話ばっかりしてたら、また山口さんに変なゲームやらされかねない」
「え? 次は脱衣何ですか?」
「脱衣ツイスター辺りかな…マズイ、実現しかねない……」
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