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麗しのフォトジェニー【3】

  「よし、ここからは1回通しでいきます。勇輝くん、部屋に入ってくるなり彼女の腕を強く引いてキスして。初美さんはそこのソファにスタンバイね。勇輝くんの気配と共に立ち上がって駆け寄ってください」 中村さんの声と瞳が熱を帯びていく。 勇輝は一度入り口まで下がると、憂いを帯びた、けれど優しい目で中へと足を踏み出した。 同時に下着姿の彼女が駆け寄る。 腕を引き、その豊満な体を抱き締めると、堪えられないとばかりに貪るように唇を合わせた。 カシャカシャと止まないシャッター音。 一度唇を離すと、口づけの激しさを表すように二人の間を銀糸が繋ぐ。 もどかしそうに動き出した勇輝の手が彼女の肌の表面を撫で、愛しげに鼻や頬にキスを繰り返す。 「オッケーです。ちょっとストップ...」 僅かに沈んだ声で二人のキスを遮ると、中村さんは腕を組み何かを考え込み始めた。 別に真似をしているというわけではないだろうが、勇輝も何やら難しい顔をしている。 「勇輝くん...今、何考えてる?」 「...さあ...たぶん、中村さんと同じ事じゃないですかね?」 「そうか...俺さ、今の勇輝くんだと違うと思ったんだけど、どう?」 「僕もですね。なんとなくキスしてて感じました。慈しんじゃ...ダメですよね」 「......オッケー、了解。初美さんは悪いけど先にベッド上がって。で、今から入ってくる勇輝くんに、ただひたすら欲情してください。抱かれたくて抱かれたくて仕方ないって顔で勇輝くん見つめて欲しいんです。初美さんの方は写さないんだけど、勇輝くんのここからの表情の為には絶対に必要だから。何が何でも勇輝くんを誘惑してやるってケンカ売るくらいの気持ちで」 「僕は?」 「とにかくひたすら色気だだ漏れでよろしく。愛情なんて一切いらないから。ここには、ただ単に自分の欲を満足させる為の存在に会いに来ただけ」 中村さんの早口での説明に、勇輝は満足したらしい。 再び入り口に戻ると、フゥーッと大きく息を吐いた。 その息を吐ききったところで、ニヤリとするように勇輝の片頬が上がる。 「いいよ、入って!」 ファインダーを覗きながら、中村さんの大きな声が飛ぶ。 大きく一歩を踏み出した勇輝の目は、冷淡と呼ぶにふさわしい物だった。 雑にネクタイを緩めながら蔑んだような、けれど欲を隠さず獲物を求めるような飢えた瞳をベッドに向ける。 「オッケー、もう一回。今度は正面から撮るから、同じ顔でレンズ見て」 「はい、次は煽りで撮ります」 そんなやりとりを何度も繰り返す。 勇輝の顔を見ている俺は勿論、周りの雑誌関係者の女性陣も、いつの間にか吐く息には熱が混じった。 ベッドの上の彼女も、そして...中村さんも。 室内は下がる気配の無い熱気に包まれていく。 しかしその熱源である勇輝は対照的に、氷のように冷たい、どこか残酷な表情をまったく崩さない。 「いいよ、このまま続けよう。勇輝くん、ジャケット脱いでシャツのボタンだけ開けて」 言われた通り脱いだジャケットを雑に後ろに放り投げると、ボタンを外しながらゆっくりとベッドへ近づいていく。 もうそこからは、中村さんの指示の声が続く事はなかった。 すべての動きを勇輝に任せる、自分はその勇輝の動き全てを一瞬たりとも見逃さないという気持ちの表れなのかもしれない。 勇輝の片足がベッドに乗り上げる。 その空気に飲まれてしまっている彼女は、横たわったままただうっとりと勇輝の顔を見つめていた。 彼女に覆い被さりながら、勇輝はズボンのベルトを外し前だけを寛げる。 ニッといやらしい笑みを浮かべ彼女の手を取ると、自分の股間へと押し付けた。 戸惑う彼女をものともせず、そして氷の笑みを崩す事もなく、彼女のキャミソールの紐を咥えそのままずり下ろしていく。 顕になったのは、昼間俺が触れていた瑞々しく張りのある物とは違う、熟れ過ぎて僅かに重力に逆らえなくなっている大きな乳房。 それを力任せに掴み、指の間からだらしなく肉の溢れる様を強調する。 彼女の手が勇輝のシャツを剥がしにかかった。 しかし勇輝はすぐにその手を掴み、ベッドの上に縫い止めてしまう。 「このままヤられる方が、犯されてるみたいで興奮するんじゃないの? 欲求不満で淫乱なオ・ク・サ・マ」 耳許でそう囁くとわざらしいほどに舌を長く伸ばし、耳殻をなぞり耳朶を強く噛んだ。 「あっ...あぁん......」 それだけで彼女は甘い声を抑えられなくなり、太股を擦り合わせる。 あ~あ、あれはマジで感じてるわ...彼女かわいそうに。 ビデオでの絡みならこの続きもあるけれど、どれだけ煽られても感じさせられても、あのベッドの上ではこれ以上の事なんて無いというのだ。 でも直接触れられてはいないというだけで、今ここにいる女性全員が頭の中で勇輝に犯される妄想に耽ってると思う。 なんて考える俺だって、勇輝があんな顔であんな風に迫ってきたらと思えば、それだけでギンギンになる自信はある。 「はい...オッケーです。うん、オッケー。一応これで...いいです、はい...ほんとに...良かったです」 中村さんの声が響いた途端、彼女の胸を強く揉みしだいていた手を慌ててどけ、勇輝が飛び起きた。 「あ、なんか乱暴にしちゃって、本当にすいませんでした。胸痛くないですか?」 はだけた下着をそっと整えながら、勇輝は彼女の傍らにチョコンと正座をした。 「......え?」 「なんか失礼な事も言っちゃって...あの、怒ってないですか?」 終了の合図と共に、冷酷な野獣のようだったエリートサラリーマンは、ただただ綺麗な顔をした穏やかな気遣いの男へと戻る。 そのあまりの変容に、どこからともなくクスクスと笑いが起きた。 「全然怒るとか無いですから、そんな謝らないで」 「いや、でも...」 「ううん、こっちこそこんなおばさんが相手役でごめんなさいね。でも、あの有名な勇輝くんとこうしてキスだけでも絡めて、本当に光栄でした」 「おばさんなんて、そんなことないですよ。すごく色っぽくてイイ匂いがして、俺も本当にイヤらしい気分になれました」 「私なんてもっと続きしたかったもの。トップ男優さんからしたら、こんなこと思われるのは迷惑だろうけど」 「だったら、いつか俺をビデオの相手役に指名してください。その時はもっとイヤらしく、もっと気持ちよくしますから。俺ね、結構イイ仕事するんですよ?」 クイクイと卑猥に指を動かしながらニコッと笑う勇輝に、彼女は少女のように頬を赤く染めて俯いた。 「今日はおつかれさまでした。本当にありがとうございました」 一度彼女の体をキュッと抱き締めて、勇輝は静かにベッドを下りる。 とりあえずベルトとチャックだけを直し、俺の方に歩いてきた。 「どうだった?」 「うん、すっげえエロかったよ」 「ほんとに?」 勇輝の手が、いきなり俺のジュニアをムズと掴んでくる。 「ちょっ、お前何を...」 「ふふん、良かった。エロかったってほんとだったね。お世辞じゃなかった~」 手の中にしっかりした芯を感じた事に満足したのか、ニコニコと無邪気な笑顔を浮かべる勇輝。 こんな可愛い男が、ついさっきまであんな顔で女に迫ってたとか...普通は信じないよなぁ。 それも、家に帰れば俺だけの可愛い子猫ちゃんとか、いまだに自分でも信じられない時あるもん。 「今日はもうこれで撮影終わりだって。だから、早くみんなに挨拶して着替えておいで。今日は社長の奢りで飯食って帰ろうぜ。なんかね、俺のいない所で勝手に話進めてくれてたおかげで、新しい仕事がもらえるらしいから、前祝いと行こう」 「マジで!? オッケーオッケー。ダッシュで着替えてくるわ」 「こら、充彦。誰の奢りだって...」 社長のグダグダな文句を聞くこともなく、勇輝はスタッフに挨拶をしながら駆け出していく。 入れ替わるように、俺の前にはまだ少し頬を紅潮させた中村さんがゆっくりと歩いてきた。
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