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大阪LOVERS【2】

勇輝からの指示通り、メッセージを受け取ってから30分後、俺はこっそりと立ち上がった。 『なぜ30分後なんだ?』と思わなくはなかったが、なるほど、テンションMAXのこの30分で、かなりの人数がグデグデのベロベロになっている。 体のデカイ俺がこっそりと立ち上がったところで気づかれないほどに。 気づいたのは、この酔っ払い集団の中にあっても自分の飲むペースを崩す事なく、ひたすら腿の上にある頭を撫で慈しんでいる奴のみ。 それもコイツは、俺達と胸を張って飲み比べできるレベルの酒豪でもある。 立ち上がる俺とパチッと目が合ったが、航生は特に何も言わなかった。 勇輝が先に店を出ている事で、俺が出て行く理由に気づいているのかもしれない。 少し目を細め、『お疲れさまです』とだけ唇を動かす。 主役4人のうち2人も先に抜けたとなれば、残っている航生には多少面倒を押し付ける事になるのかもしれない。 おそらくそれをわかっているはずの航生は、それでも小さく顎を出口へとしゃくり、『早く行け』と促してくれる。 俺は頭を下げ一度時計を確認すると、急いで...けれど静かにそっと襖を開けた。 店の人に料理と酒がとても旨かった事と感謝を、そして先に帰る旨を伝え、そのまま店を出る。 高速の高架下とか言われても、そんなんわかるかよ...なんて思ったが、店を出て左を見ればまさしくそこが指定のその場所だったらしい。 こんな場所で待ち合わせするくらいならさっさとホテルまで帰った方が早いのに。 いきなりフラフラ出てきたスタッフに見つかったりしませんように...と心の中で祈りながら、店の方に背中を向けて無駄な努力とはわかっていながらもそれを小さく丸めてみた。 手の中のスマホを確認する。 あれから勇輝からの連絡は無い。 30分後をちゃんと守ったのに、当然そこに勇輝の姿も無い。 別にムッとするなんて事は無いけれど、さすがに少し寂しくなってくる。 「勇輝も酒が弱かったら、慎吾くんみたいに甘えてゴロニャンとかしてくれんのかな......」 さっきの慎吾くんの甘えっぷりがあまりに微笑ましくて可愛くて、なんだかちょっと拗ねたい気分になってきた。 とりあえず店に背中は向けたままでしゃがんでみる。 「アイツのは、甘えるっつうよりおねだりだからな...いや、おねだりだって十分可愛いしエロいからいいんだけどさ、あんだけ酔っぱらって無条件にニャンニャンて来られたら、そりゃあ航生だってデロデロ鼻の下も伸ばすって。だって可愛いいもん」 「可愛くなくて悪かったな」 突然背後から聞こえたのは、待ち焦がれたセクシーボイス。 エロ神様の降臨だ!と喜び勇んで立ち上がり振り返る。 ......おや? 目の前にいるのは、エロ神様じゃなくて...エロ女神様!? とりあえず、とんでもない美人だ...ちょっとマッチョだけど。 「勇輝だよ...な?」 「俺以外の誰だって言うんだよ」 ちょっとばかり不機嫌そうに鼻息も荒くふんぞり返っている女神様。 いやいや、声と体型は間違いなく勇輝だけども、その全体は普段の勇輝とはまったく違うわけで。 栗毛色のフワフワパーマのロングヘアーに、黒いワンピース。 ああ、これはイベントの時にメイドのコスプレで使った服とウィッグ...か? たっぷりのボリュームでスカート部分を膨らませていたレースのペチコートと、背中側に着けていた大きな飾りリボンを外しただけらしいが、それだけでシルエットはずいぶんと違って見える。 特徴的な袖の形を隠す為か、その上にはレースのとってもガーリーなパーカーを羽織っていた。 「あの...勇輝さん、これは何事かな?」 「何が?」 「いやいや、何がって...その出で立ちですよ」 「似合わない?」 「いや、すっごい似合ってる...って、そうじゃないだろ! まさかお前、わざわざその格好する為に先に出たの?」 思わず声が大きくなってしまった俺の唇にそっと人差し指を乗せ、勇輝は艶然と微笑む。 いや、ヤバい。 ほんと、マジで美人なんですけど...かなりマッチョなだけで。 「だってさ、男二人だと入れないかもしんないだろ?」 「......はい?」 「忘れたのかよぉ...俺、せっかく急いで本気のコスプレしてきたのに」 「いやだから......はい?」 「ラ・ブ・ホ。行こうって話したじゃん、昨日」 ああ、そう言えばそんな話したな。 おまけに、何やら妙案があるみたいな事を言ってたような気がする。 あんまりバタバタしすぎてすっかり忘れてたけど。 「んで...それ?」 「そう。ついでにさ...ほら、今日の質問コーナーであったじゃん、『やってみたいコスプレは?』って」 「あーっ! そっちは覚えてるぞ。『近々するから、今は内緒』とかなんとか...それか!?」 「そう。一回さ、『男の娘』でエッチしてみたかったんだよね...俺でも充彦でも、何か気持ちに違いって出るのか。だから今のこれは、俺にとって一石二鳥的?」 ニコリと笑いながら、小首を傾げる勇輝。 いや、本当に半端じゃなく綺麗だよ美人だよ...マッチョな上にデカイけど。 ワンピースのイメージに合わせる為か、ちょっと厚底になってるブーティなんて履いてるから、目線がいつもよりずいぶんと近い。 上から下までまじまじと見つめたままで何も言わない俺に少し不安になったのだろうか。 勇輝がそっと目を伏せる。 「ごめん......」 「ん?」 「俺、これくらいまでやったら上手く誤魔化せるかなぁなんて思っちゃって...なんか一人でテンション上がっちゃって...ごめん。やっぱ変だもんな、デカイし。ほんとごめん...充彦に恥かかせるとこだったわ。あ、一緒に歩いてたら変な目で見られるかもしんないし、なんなら先に帰ってて。俺、後から帰るから......」 「アホか。勘違いすんな」 落ち込んで俯いている勇輝の手を取り、それにしっかりと指を絡めた。 そっと体を抱き寄せて、ウィッグの隙間から額に唇を押し当てる。 「上手い事化けるもんだなぁって、じっくり観察してただけだよ。確かに、すんげえ美人だけどちょっとデカイとは思ったけどな...でも隣いるのは俺だし、そんなに違和感は無いんじゃない?」 「呆れてんじゃないの?」 「呆れてはないけど、そんなに女装エッチしてみたかったんなら、もっと早くに言ってくれれば良かったのにとは思ってる。それと......」 繋いだ手に、ギューッと力を込める。 少し照れたような困った笑顔を見せながら、勇輝も俺の手を握り返してきた。 「先に帰れとか、寂しい事言うなよ。俺、一人になりたくないんですけど? さっきは置いてけぼりくらったし」 「......ごめん」 「さてと、んじゃ...こっから一番近いとこでいいよな?」 勇輝の返事も待たず、少し先に見える毒々しいネオンの建物へと歩き出す。 いつものようにドカドカと歩く事ができない俺達には、なんだかもどかしいくらいにネオンが遠く感じた。

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