252 / 420

大阪LOVERS【4】

重い扉を開き勇輝を招き入れると、そのまま後ろからそっと抱き締める。 ガチャンとやたらと大きく響く鍵の音。 これでもう、こちらがチェックアウトの連絡を入れるまで扉が開く事はない。 完全に閉鎖された、俺達二人だけの世界。 日常とは違う切り離された空間にいるという事に、堪らなく気持ちが昂った。 首筋に顔を埋め、ゆっくりと息を吸う。 いつも勇輝が付けている清廉なフレグランスに混じって、微かに漂う化粧品と汗の匂い。 普段この香りがする時は...本当は少しだけ胸の奥がざわざわする。 仕事だと割り切っている。 そこに感情は無いという事もよくわかっている。 なんの事はない。 それは俺の独占欲。 勇輝に、俺以外の人間の移り香が残っている事が嫌だという、ごく単純な独占欲。 勇輝が纏うのは俺の匂いだけでいい。 改めて強く鼻先をうなじに擦り付ける。 ああ、そうだ...今日は違う。 これは俺の為に...俺と二人の特別な時間を過ごす為に、自ら付けた香りなのだ。 興奮しないわけがない。 決して喜ばないとわかっていながら、そのままうなじから耳の裏側へと舌を這わせる。 案の定勇輝は、それだけでも感じて肌を粟立たせながら、体を捩って不満げな顔を向けてきた。 「ふふっ、しょっぱい...」 「あ、当たり前だろうが! 汗かいてんのに...」 先にこっそり店を出て急いでホテルへと戻り、この姿に変身して元の場所まで戻ってくる...いくら薄化粧でメイクにそれほど時間はかからないとはいえ、さすがに風呂に入ってくるほどの余裕は無かっただろう。 「あら、残念。中も外も全部準備オッケーなら、ここで立ったままいきなり襲っちゃおうかと思ったのに~」 「お前ねぇ...いつから航生並みに余裕無い人間になったんだよ」 「俺は昔から余裕なんて無いよ...勇輝に関しては」 その場にしゃがみ、勇輝の厚底の靴を片方ずつ脱がしてやる。 跪く俺の肩に手を乗せ、勇輝は大人しくされるがままになっていた。 実際問題この靴は、履くのは勿論だが脱ぐのもなかなか大変そうだ。 靴を脱がせると、そのままストッキングの上から脛の辺りに唇を押し付け、そっと手をストッキングの上の方へと伸ばしていく。 腿の付近には履き口があり、その先まで指を伸ばせば素肌が触れた。 「おっと...まさかのガーターベルト?」 「ま、まあな...せっかくここまでやってんのに、スカート捲ったらパンストとか...なんかちょっと残念だろうよ......」 俺からしたら『ホテルに入るまでの変装』の感覚だったけど、それはどうやら間違っていたらしい。 イベントでの勇輝の発言をふと思い出す。 ......これの事だったんだな... 勇輝にしてみたらこれは、以前から機会があれば試してみたかった楽しみなプレイだったのだ。 どうせすぐに風呂に入って脱ぐだろうなんて気持ちでは勇輝を喜ばせてやれないらしい。 「勇輝、そこがバスルームらしいから、先に風呂入って来いよ。その間に部屋の方準備してくるから」 「あ、あの...うん......」 さっさと化粧を落とせと言われたように感じたのか、勇輝はちょっと傷ついたような顔で頷く。 そんな勇輝の頭をフワフワと撫でながら、改めて正面からじっと顔を見つめた。 明るい室内灯の下であっても、勇輝はやっぱり美しい。 化粧なんてすれば老けて見えそうなものなのに、目元が普段よりも丸く見えるせいなのかあどけなさすら感じる。 洋服のデザインと相俟って、美女というよりは美少女といった雰囲気だ。 「メイク道具、持ってきた?」 「ああ、まあ、一応...アイシャドーと口紅だけだけど」 「じゃあさ、とりあえず先に風呂入って綺麗に汗と疲れ洗い流して、中もキレイキレイにしてきて。んで、俺が風呂行ってる間に、服も髪もメイクも...きっちり今の通りにしとくこと」 この幼く美しい顔の下には、女の物よりもはるかにきめ細かく滑らかな肌と、しなやかで均整の取れた筋肉があり、さらにその下には赤黒く逞しいぺニスがそそり立つ...... ちぐはぐで、ありえなくて...ひどく倒錯した艶かしいその姿。 チラリとそんな事が頭を過っただけで、ズクズクとデニムの中が血の流れが変わっていくのを感じる。 「男の娘になっても勇輝は勇輝だってわかってんだけどねぇ...でも、この姿の勇輝が俺を誘ってくれてるって思ったら、やっぱりすげえ興奮してるわ」 勇輝の手を取り、俺の股間へとその手を宛がう。 手の中で間違いなく大きく脈を打つ熱を感じたのか、そこをやわやわと動かしながら勇輝は蕩けたような目を向けてきた。 その目に俺は、かろうじて笑顔を返す。 「こら、今ここで楽しむな。でないと、マジで部屋に入る前に襲うぞ? ほら、目一杯可愛くてエッチな勇輝を堪能したくて我慢してんだから、早く体綺麗にしといで」 決して俺がメイクや女装を嫌がってるわけではないとようやく理解したのか、勇輝は一度恥ずかしそうに首を赤くしながらチュッとキスをして、逃げるようにバスルームへと駆け込んでいく。 勇輝に触れられた事でさらに重さと容量を増し、すっかり窮屈になってしまったバカ息子の位置をなんとか少しだけ整えると、俺はメインルームへと続く白いドアを開いた。

ともだちにシェアしよう!