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大阪LOVERS【7】
風呂上がりに着る物をどうするか一瞬考えたが、さすがそれなりのホテルと変わらない料金を取るだけあるというところだろうか。
ラブホ特有のテロンとした安っぽいスモックではなく、かなり上等な白いバスローブが用意されていたから迷わずそれを羽織った。
まあ、ここから先は勇輝に任せればいい。
服を着て欲しいなら着るし、脱いだ方がいいのならすぐにでもローブなんて脱ぎ捨てよう。
ここで驚かせるのは本意ではないから、そっと静かにドアを開く。
とうに準備は終わっていたのか、少し落ち着かないような顔をして、勇輝は所在無さげにソファにチョンと小さく座っていた。
渡してやった水のボトルを指先で弄んでいる所で、入り口に立ったままだった俺に気づいたらしい。
慌てて立ち上がり、ウィッグに触れながら俺の方へと寄ってくる。
「んもう...風呂から出てるなら声かけろよ」
「悪い悪い。なんかお前がちょっとモジモジしてんの可愛かったんでしばらく見てた」
手を伸ばせば届く距離まで来た所で、その体をしっかりと抱き寄せた。
予想通り...いや、希望通りか...攻撃的なくらいに甘い香りが鼻腔を擽る。
「充彦、なんか...エロい」
「何が?」
「いや、あの...胸元が大きく開いたバスローブ姿とか......」
「欲情する?」
「それは...そりゃするだろ、だって充彦なんだし。そう言う充彦はどうなんだよ? ほら、俺...あの...こんな格好してんじゃん? ちょっと気分萎えたりとか、やっぱ無理とか...」
「またそんな事言ってんの? 萎えてるかどうか、自分で確認してみ? 俺からしたら、こんなに美人に化けてくれた恋人を今からどんな風に可愛がってやるのが一番悦んでくれるのかを考えるので必死なんだけど」
俺の言葉が嘘だと思ってるわけではないだろうが、それでも確かめずにはいられないらしい。
勇輝の手がバスローブの裾を割って中へと潜り込んできた。
中心に触れ、おずおずとそこを擦りながら、はぁと安堵したように息を吐く。
「納得できた? 可愛い可愛いこの姿と、すっごいエロっちい甘い香りで、もう相当ムラムラしてんだよ?」
「うん...ごめん。なんか結局俺ばっかりこんな事したがって、ほんとは充彦嫌なんじゃないか不安になっちゃって」
バスローブの中から出て行こうとする手を掴み、手のひらをさらに強く俺のモノに押し付ける。
その手のひらの中で、俺はゆるゆるとペニスを揺らした。
「さあ、勇輝はこれからどうして欲しい?」
「どう...って?」
「勇輝をお姫様にして、俺が執事として一生懸命ご奉仕しようか? それとも俺はご主人様で、勇輝がメイドとして一生懸命ご奉仕する? せっかくこれだけ衣装に拘ってるんだもん、少しは設定でも遊ばなきゃ勿体ないだろ?」
おおよそ勇輝の返事はわかっている。
いや寧ろ、俺の想像した通りの答えでなくては、さっきコッソリ買った物が使えなくなってしまう。
とどめとばかりに優しく髪を梳き、眦にそっと唇を落とした。
「充彦は...どっちがいい?」
「勇輝がしたい方でいいよ」
他意の無いふりをしてニコリと笑い、俺のペニスに宛がわれた勇輝の手の上に俺の手を重ねる。
ゆるくじゃれるように動かしていた腰を、明確な快感を引き出そうとする大きな動きに変えた。
ゴリゴリと先端を手のひらに押しあてれば、それはもう癖になっているのか、その動きに合わせて勇輝は下着の上からペニスを柔く握ってくる。
そのまま大きくゆっくりと手を動かし、少しでも俺の欲を引き出そうとしてるらしい。
「ほら、勇輝はどうしたい?」
「ご奉仕のが...いい......」
「ふ~ん...それがご主人様に対しての言葉かな?」
「あ、ごめ...ん。ご奉仕...したい...です。させてください......」
「じゃあ、ご主人様の命令は?」
「はい、命令は絶対...です」
ほんの少し言葉を交わしただけで、すぐに勇輝の声は震え始めた。
屈辱にうち震えている...なんてわけじゃない。
興奮で気持ちが昂りすぎてるだけだ。
俺が尽くして尽くして甘やかすばかりのセックスなんて、普段から飽きるほどしている。
いやまあ、俺はちっとも飽きてはないけれど。
だから最初から、お姫様のように扱われる事は望まないだろうと思っていた。
それはいつもの事で、俺達にとっては日常だから。
一方、勇輝が俺にひたすら尽くすばかりのセックスは記憶に無い。
勿論、ビデオの設定の為に勇輝がメイド役で俺に尽くすってセックスは経験済みだ。
しかし役に入るわけではなく、素のままの『勇輝』に一方的な奉仕をさせた事は無い。
俺がそれを好まないから。
今でも時折卑屈な面を見せる事のある勇輝にそれをさせるのは、なんだか主従の関係になるように思えたのだ。
けどこうして普段と違う場所で違う姿になっている今、勇輝が主従関係の『従』を選ぶのはわかっていた...想定していた通りに。
その立場のセックスこそ、今の勇輝が一番喜ぶ物のはずだ。
肉体的な快感だけでなく、おそらく精神的な充足感が違うだろう。
非日常...非現実...この場所で、この姿だからこそ味わえる興奮。
日常では決して俺が求めない行為を求める事の快感。
勇輝はどれほど乱れてくれるだろうか...それを思えば、自然と唇の端がつり上がってくる。
二人の新しい快感の為......
だからこそ、今は冷たくて優しい『主』として、精一杯俺を感じさせてやろう。
「そう、俺の命令は絶対ね? よく言えました。じゃあ...まずはご褒美をあげようか。そこに跪いて...ほら、しゃぶっていいよ」
「はい、ありがとうございます...ご主人様」
欲と色気を抑える事もせずニコリと蕩けそうな顔で微笑むと、勇輝は足許に膝をつき、恭しく俺の下着を下ろしていった。
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