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いくぜ! Cover Boys【8】

  なんだ、これ!? いきなり表示された何らかのサイトのトップページに暫し呆然とする。 「引いた?」 「......引くも何も...何ですか、これ?」 「そうだなぁ...まあ、わかりやすく言うなら、ユーキの私設ファンサイトってところかな」 「...はぁ!?」 勇輝にファンサイトが? いや、勇輝にそういうサイトがあるのは知ってるし、俺にだって存在してるらしい。 だから別にその事をおかしいとは思わない。 だけどこれは勇輝じゃない。 『ユーキ』の為のサイトだ。 「正直に言ったら、ちょっと気味が悪いですね。だって、たかが一人のボーイの為に...」 「うん、確かにそうだよね。これがただの『売り専ボーイ』で、それも現役じゃない子に対してだったら、ここまでの執着心は少しおかしいのかもしれない。というか、最初からここまでやる価値すら無いだろうね。でもね、これがユーキとなると話は別なんだ...店が無くなり、ユーキが行方をくらましてから、みんながこうして少しずつ自然と集まった。心からユーキを大切に思っていた人間が...とにかくユーキの無事を知りたくてね」 岸本さんは掲示板をクリックし、その先頭部分へとカーソルを合わせる。 「読んでごらん」 促され、仕方なくそのカーソルが示す書き込みに目を落とす。 「このサイトを立ち上げたのは、ある有名レストランのオーナーシェフなんだ。ユグドラシルのオーナーと親しかった事もあって、当時ユーキを一番可愛がっていたと言われてる人。彼はね、年齢的にも職業の面でも部屋が借りられなかったユーキのマンションの名義人でもあったんだよ。店の閉店が決まった日に、その月の家賃と『長らくお世話になりました』って内容の手紙を残して、ユーキは忽然と消えたらしい」 確かに掲示板の先頭には、そのオーナーの文章なのだろうか...切々と『無事ならいい』『迷惑なんて気にしなくていいから帰ってこい』などの言葉が綴られている。 そしてそこからは、次々と違うハンドルネームの人物達からのメッセージが続いていた。 誰も彼もみんなが勇輝の体や仕事、そして家の心配を綿々と書き連ねていて、なんだか読んでいるだけで胸が痛くなってくる。 「不思議でしょ? ここに書き込みしてる人ってさ、本気でユーキの事が好きな人ばっかり。いわば恋敵同士なんだよね。なのに全員がユーキはみんなの物で、そしてみんながユーキの事を好きだって事実が嬉しいって思ってるんだよ」 ゆっくりとスクロールしていくと、サイト開設から数ヵ月が経過した日付辺りでちょっと気になる書き込みを見つけた。 『ユーキ見つけた! 話もできました。思ってたよりもずっと元気です。自分がこれから何をしたら良いのかわからないとあまりにも寂しそうに笑ってたので、俺の仕事に誘いました。勝手な事をしてすいません。でも、きっとユーキには向いてると思います。またみんなから愛される、誰よりも綺麗なユーキを見られる事になるはずです。どうかもう少し待っててください』 「あの...これってもしかして...」 「ああ、それはAVデビューの直前だね」 「やっぱり。じゃあ阿部さんて...ユーキのただの客ってだけじゃなく、熱狂的なファンだったのか...」 監督が男優として直々に連れてきたって話は聞いてたし、勇輝からも『昔のお客さん』なんて教えてもらってはいたけれど...こうして書き込みを読むと、監督は監督なりに必死で勇輝の居場所を作ろうとしていたんだと感じる。 「でも、その『みんなが愛したユーキ』が、AVに出るとかって嫌じゃなかったんですか? だって皆さん、その...えっと...ゲイなわけですよね? 自分の好きな人が女と絡むのって許せるんですか?」 「うん、僕は別に平気だよ。みんなもそうだと思う。だってまたあのユーキの色々な表情が見られるんだし、何より元気で幸せそうなんだから。それが僕達の何よりの望みだったんだよ。ユーキにはみんなが幸せにしてもらったから、それ以上に幸せになってもらいたいって。それにね、ユーキの客は何も男だけじゃないんだ。実は女性も結構いてね。男女問わずみんながユーキに憧れ、その顔にも体にも心にも魅了されてた。だからね、今更女性と絡んでるからって何とも思わないかな。ド迫力で攻めるユーキも、怯えながら攻められるユーキも色々と見られるんだから、寧ろすごくワクワクしてる」 岸本さんがタバコを揉み消し、俺の顔を真っ直ぐに見てくる。 「じゃあさ、坂口くんは平気? 自分の恋人が、仕事で次から次に女を抱くこと」 「あ、俺は別に平気ですね。普段俺といる時とはまた違うイヤらしい勇輝を見られるし、現場では女優さんからもスタッフからもすごく大切にされてるし、何より仕事させてもらってる時の勇輝はキラキラして幸せそうだから...」 そこまで言ってみてふと気づく。 俺が今話してる事は...岸本さん達が思ってる事と同じだ。 「ほらね...坂口くんもそうだ。ユーキがみんなから愛されてる姿を見ていたい、幸せそうな顔を見ていたいって思うんでしょ?」 「いや、それはそうなんですけど...でも! でも...同じではないです、たぶん。俺にはやっぱり、最後には必ず自分の所に帰ってくるって自信があるから平気なわけだし、何より...俺だけに見せてくれる顔は誰にも見せたくないって思うし」 「......それだよ、僕達では恋人になれなかったし、なりたいとも思わなかった理由。僕達はね、所詮は大切な『客』でしかないの。ユーキは客に平等に同じ物を与える...優しい表情を、甘い言葉を、そして最上級の快感をね。でも、相手から同じ物を与えられる事は望まない。坂口くんには自分から色々な物を求めるでしょ? きっとわがままも言うでしょ? 僕達には絶対に見せない顔を見せるでしょ? 僕達はね、決して客以上でも客以下でもない...好きにはなってくれるし大切に思ってもくれるけど、愛してはくれないし、絶対に愛して欲しいとも言わないんだよ」 勇輝が愛してるのも、何より愛されたいと思うのも...俺だけ。 だからこそ自分から俺を求めるし、時にはわがままらしき事も言ってくれる? 「雑誌でね、ユーキが二人の事を堂々とノロケてるの読んだ時とか、ここの掲示板すごかったんだよ~。『こんなにユーキって甘えん坊だったのか!?』『ユーキのこんな幸せそうな笑顔を見られる時が来るなんて』『みっちゃん、よくやった!』なんてね。なんなら読んでみる?」 「け、結構です!」 なんか...ほんと変な人達。 自分の想い人に恋人ができたって喜ぶとか...意味わかんねぇし。 だけど、それだけ本気で勇輝の幸せを望んでくれていたのだ。 そう思えば自然と背筋が伸び、感謝の気持ちが湧いてくる。 ......まあ、やっぱり俺には理解はしきれないけど。 「僕が二人のファンで、悪意も他意も何もないって事はわかってもらえた?」 「まあ...少なくとも勇輝のファンだってのはよくわかりました」 「坂口くんの事も本当にファンなんだよ。だって、ユーキをいつも幸せそうに笑わせてくれるし、あんなにイヤらしくしてくれたんだから」 ......な~んか、信用できないなぁ...つか、イヤらしくしてくれたってなんだよ。 素直に『ありがとうございます』なんて言うことができないまま、飲み干したコーヒーを淹れ直すべく立ち上がると、まるで計ったかのようにスタジオのドアが開き、頭からタオルを被った勇輝が走り込んできた。
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