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大阪LOVERS【9】
放出の余韻に一度体をブルッと震わせ、大きく息を吐きながら足元を見る。
「勇輝、これちゃんと綺麗にして?」
飛びきらなかった先端の滴を向けるが勇輝はそれに反応する事もなく、ただ俺に潤んだ視線を合わせたままだった。
いや、反応しないのではなく...できないのか?
この瞳の意味を知っている。
それは、俺とのセックスの直後に見せる物。
強いエクスタシーと倦怠感で放心状態になっている時の顔だ。
喉が渇くのか、それともまだ口の中に独特な味が残っているのか、喉仏がやたらと不規則に大きく動いている。
そっと傍らに膝をつき、ペタリと座り込んだ脚の間へと手を差し入れてみた。
指先にはいまだしっかりと張り詰めている熱が触れる。
顔に精液をかけられただけで射精してしまったというわけではないらしい。
体ではなく、気持ちがエクスタシーを迎えた...という事なのだろうか?
それほどの興奮を感じてくれているのなら勿論嬉しいが、生憎それは俺ではわからない。
ただ一つ間違いないのは、俺も勇輝も『体』はまだ満足できていないという事だった。
意識がどこに向いているのか定かでない今の状態の勇輝をこのままにしておくわけにもいかない。
熱も欲も収まりきらないペニスを一度下着の中に押し込み、白濁のたっぷりとこびりついた勇輝の顔を俺の着ていたローブで軽く拭ってやる。
ファンデーションは塗っていなかったのか、俺の出した物だけが白いバスローブを汚した。
瞼や唇まで同じ物で綺麗にするのは憚られ、急いでティッシュを数枚取ってきて手渡す。
汚された事を心から悦んでいるかのように勇輝は拭き取る事を小さく拒み、首を竦めた。
仕方なく少し腰を落として目線を合わせると、俺はその奥をしっかりと覗き込んだ。
「まだこれから楽しまなきゃいけないんだ。こんな事で俺の手を煩わせるな」
擬似エクスタシーとも言える状態にとっぷりと耽る幸せそうな勇輝には少し酷かとも思ったが、敢えて強く、冷たい口調で言い聞かせる。
まだ力は入りにくい様子ながらその声にいくらか意識がハッキリしてきたのか、勇輝は俺の手からティッシュを受け取り、粘度が落ちてトロリと滴り始めた精液をそっと拭った。
「水飲むか? 喉、気持ち悪いんだろ?」
「平気...だけど...口綺麗にしないと...キスして...もらえない......」
『でしょ?』と寂しげに小首を傾げる勇輝の姿に、また自分の中の熱が沸々と昂り始める。
勇輝の後頭部を手で押さえ、そのまま噛みつくように唇を合わせた。
確かに勇輝の唇には独特の味が残っている。
けれど、これは俺が出した物だ。
懸命に俺に従い奉仕する勇輝の姿に酷く興奮し、ドロドロに汚してしまいたくて俺が吐き出した物だ。
そしてそれをすべて気持ち良さそうに、幸せそうに甘受した物だ。
それをどうして嫌がる事ができるだろう。
俺こそ平気なのだと教え込むように、勇輝の口内を隈無く舌で舐め愛撫していく。
ペタンと床に着いてしまっている勇輝の腰がまた小さく揺れ始めたのを確認し、俺はようやくその唇を解放した。
勇輝の濡れたままの瞳は、じっと俺の唇を追う。
「水いらないなら、次に行こうか。今度は心じゃなくて...体を気持ちよくしてやる」
そう言うと勇輝の顔がパァッと明るくなり、ほんの少し頬に朱が走った。
......悪いな、勇輝。
まだお前の望む物はやらない。
もうしばらく、この状況を楽しませてもらうから。
「じゃあ、真っ直ぐ立って。着てる物はゆっくり全部脱ぐんだ」
コクリと頷くと、勇輝はノロノロと立ち上がりワンピースの背中のジッパーを下ろしていく。
いつものように綺麗な肩の筋肉が露になるが、それがいつもと違うのは...その胸はレースのブラジャーで隠されていた。
さらにワンピースを床に落としてしまえば、パンツ...と言っていいのか、下に穿いているのも同じ黒いレースの恐ろしく小さな物だ。
「それ、上下お揃いなの?」
「......そう...です。男性専用の...セットアップで......」
なるほど、ブラジャーの方にはシリコンのパットでも入っているのか、僅かに丸みがあるようにも見える。
パンティーも男性の為に細かい所まで計算されているらしく、覆う面積は恐ろしく小さいのにペニスやタマがそこから溢れるなんてことにはなっていない。
なかなかよくできた物だ。
しかしそこがしっかりと勃起しているのは明らかで、きちんと包まれているからこそ少し窮屈そうに見えた。
「じゃあブラジャーとパンティーも取ったら、あそこのソファに座って」
勃起した状態で裸になるという事に全く抵抗がないからか、勇輝はあっさりそれに頷くとブラジャーのホックを外そうと俺に背を向ける。
俺はその隙にカバンの中からさっき買った物を取り出すと、何も無いふりで羽織り直したバスローブのポケットにそれらをそっと忍ばせた。
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