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第11話

 いよいよ目的地へ到着、バスを降りれば乗り場よりもさらにひやりとした空気。寝ぼけ眼が嫌でもぱっちり開く。そして眼前に広がる山と池に囲まれたその場所は、まるでCGで作られた映画のセットに放り込まれたような錯覚すら覚える。何度来ても絶景だ、リョウはまた感動で鳥肌を立てた。の隣には、仏頂面のアヤ。 「もしかして、これ」 「うん、歩くよ」 「バスで待っ」 「早よ行こ!」  踵を返そうとしたアヤがリョウに無理矢理腕を引っ張られる形で、大正池よりハイキングスタート。  ひたすら山道を歩く。もちろん普段歩いているような舗装された道ではないので、ぬかるみがあり、でこぼこがあり、木の根につまずきそうにもなる。そのうち息が上がってくる。何が楽しいんだ、とアヤは石ころや雑草を睨み付けながらふうふうと息を切らし歩いている。リョウはおもちゃ売り場に連れてこられた小さな子どものように、どこから見たらいいやらとばかりに目を輝かせながら前後左右キョロキョロと眺めながら、それでもアヤより先を歩いていく。  新緑眩しく、抜けるような青空。といっても、木の緑と空の青と雲の白、と単純な色彩ではなく、何色と呼んでいいのかわからない淡くてぼんやりした色合いが重なり合っているのは日本ならでは、ひいてはこの地独特の美しさなのだな、とリョウは思った。今日履いてきたお気に入りのスニーカーは、山を歩くには少しソールが薄かったようで、少し足の裏が痛むけれど、そんなこと気にならなくなるぐらいの、絶景。  しばらく進むと水の色が黄金色、まるで砂金が敷き詰められたような水の色をした池に到着した。ただ静かに澄んだ水が流れているだけ、それだけなのに、言葉も忘れて立ち尽くすふたり。 「きれいやろ」 「うん」 「煙草、やめた方がいいかな」  唐突にアヤがそんなことを言い出すので、リョウはなぜかと問いただそうと思ったが、肩で息を切らすアヤを見て察しがついた。八歳の年の差が関係しているのかわからないが、煙草云々に関係なく、アヤはリョウよりも体力がない。 「それより運動した方がええかもな、夜の運動だけやなくて」  そういう自分はどうなんだ、普段大した運動もしていないのにどうしてそんなにタフなんだ、ニコニコ余裕で言うリョウにアヤは内心毒づいた。  けれどもこの日まだアヤは一本も吸っておらず、吸いたくてたまらない、という感じでもない。手持ち無沙汰な時になんとなく口にするのがアヤの煙草の吸い方であるが、リョウといれば手持ち無沙汰なんて状況に陥ることは有り得なく、またこの空気のおいしさに水を差すような気がした。

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