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「感想は?」

「あッ、んっ、や……っ、あぁあっ!」 「はあっ、はっ、出すよっ」 「んぁああっ、んっ! あぁアっ…!」 「っ……! う、」  顔射……? 「ん、ぁあっ、はあっ、ン……」 「はあっ、はあっ……」  頬に感じる熱に瞼を上げ、潤んだ視界のまま息を整えていると、スタッフの竹内さんから声が掛かる。 「はーいお疲れーす」 「ん……はあっ、お疲れ様、です」 「千尋君だっけ? 良かったよマジで」 「えっ、ちょ、」 「はーい隣の部屋開けてるんでシャワーどうぞっすー」  余韻に浸っているのか、まだうっとりと吐息を振り撒く男優の手を取り、ぐいぐいと部屋の外へ引っ張り出す竹内さん。助かった……。  だるい身体のままぼんやり見送っていると、少し離れた場所に座っていた佐伯さんが椅子から立ち上がった。 「千尋お疲れ様。感想は?」  一ヶ月前から始まった“研修”。  ゲイビどころか男同士の性行為に関して全く知識のない俺のために佐伯さんが組み込んでくれたスケジュール。毎回違う男優と撮って、相手とシチュエーションに合わせた演技を身に付ける為の期間。  もちろん俺は研修一ヶ月目の今日も最初から最後までただ気持ちよくなってるだけ。演技なんかまるで出来なくて、でも佐伯さんは千尋はそれでいいって。だからそれを補うために、出来るだけ客観視した感想を並べていく。 「最初の方、声抑えちゃったし動きも固かった」 「うん。でもその後はちゃんと出来てたね。他には?」 「えっと、そこの定点カメラ。男優さんの背中でずっと隠れてた」 「そうだね。良い位置にあるのに無駄にしちゃったね」  ベッドサイドに置かれたカメラに手を伸ばし、するりと撫でる佐伯さん。ごめんなさい、と小さく謝ると、その手が今度は俺の髪を撫でて、優しく微笑む。 「ふふ、千尋のせいじゃないよ。他に気付いた事ある?」 「えっと……ラスト。俺の射精アップ撮ってる真っ最中にいきなり顔射してきて……カメラが……」 「あははっ、そうだね。見せ場潰されて竹くん若干キレてたね」  楽しそうに笑う佐伯さんの後ろでドアが開き、入ってきたのは竹内さんとカズ。 「佐伯さん笑いごとじゃないっす。ボロボロっすよ今日」 「ふふ、ごめんごめん」 「でも千尋くんそこまで気付くようになったとか、だいぶ馴れてきたっすね」  研修のおかげで男とヤるのは馴れた。カメラも馴れた。 「オイ、立てるか? シャワー空いたから行くぞ」 「ん、カズ、ごめん、まだ無理……」 「あぁ?へばってんじゃねぇよ。さっさと立て」 「うるせぇっ……」  雑用係であるカズに、撮影後の介抱をしてもらうのも馴れた。最初は恥ずかしくて抵抗しまくってたけど。 「じゃあこれで研修期間終了ーっすか?」 「うん、そうだね。千尋お疲れ。これからがっつり売り込んでくね」 「あ……」  色んな事に馴れて、AV撮影が当たり前の日常になった。それでも、それなのに、まだ自信が無い。この先ちゃんとやっていけるのかなって。俺でいいのかなって。 「はい、これが千尋の出てるDVDとファンレター」 「あ、……え、?」  佐伯さんに手渡された紙袋。中にはDVDと一枚の封筒。 「素人モノのオムニバスなんだけど、それ見て千尋を気に入ってくれた人が居るみたい」 「……っ、」 「ふふ、良かったね」 「……うれ、しい……」  見てくれた人がいる。俺を、俺なんかを、  良かったよ、上からの評判も良いよ、そんな事言われたって何も感じなかったのに。顔も知らない人からのたった一通の手紙だけで、うじうじ悩んでた事なんか吹き飛んで、一気に軽くなった。 「研修終わったけどどう? これからも続けられそう?」 「ん、出来る……やる、やりたいです……!」 「そっか、良かった」  佐伯さんにポンポン、と頭を撫でられ目頭が熱くなった。ゲイビ男優、頑張ります。

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