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「アヤと一緒にキモチイイ事しよ?」*
「ちいちゃんちいちゃん起きてっ! 開けてっ!」
「……ん……アヤ……?」
「大変なの! 助けて助けてっ!」
枕元に置いた携帯を寝ぼけ眼で確認すれば時刻は午前二時。まだ半分夢の中にいる俺を叩き起こすように、部屋の外から聞こえるアヤの必死な呼びかけ。
慌ててベッドから飛び起きてドアを開ければ、ほろ酔いのアヤがにこにこ笑っていた。そしてその隣にはアヤと甘く腕を絡める知らない男。
「このお兄さんとえっちしたいからお風呂貸してっ」
「うおう……」
「やあん、お兄さんどこ触ってんのーっ」
「ホラ、もっとよく見せて」
「恥ずかしいよお……あっ、んんっ」
俺なんでこいつら部屋に入れちゃったんだ……。
シャワーの音に紛れて聞こえてくる甘ったるい声に、頭からクッションに突っ込む。
こんな時間に友人からのヘルプなんて余程の緊急事態としか思えなかった。眠気も微塵も残らず吹き飛んだ。
「んあっ、やあん」
「可愛いよ、アヤちゃん……」
「はあっ、もっと触ってぇっ……」
お楽しみ真っ最中なこの二人は、どうやら先ほど発展場で知り合ったばかりの関係らしい。お持ち帰りは成功したが、自室のシャワーが壊れていた。どうしてもシャワーを浴びてからヤりたいから俺の部屋の風呂場を貸せと。ラブホに行けよ。
なんとも不躾な訪問だが、まあアヤだから仕方ない。二人とも酔っていたし、何より事情が飲み込めない内にズカズカと上がり込んできたし。
「どうしよう……」
事が終わるまで避難しようにも、こんな時間じゃどこにも行けない。というより、完全消灯された真っ暗な廊下を歩きたくない。部屋から出たくない。怖がりって不便。
だからといって完全に過ぎ去っていった眠気が戻ってきてくれる事も無く。乾いた喉を潤そうとキッチンに立ったところで聞こえてきた嬌声に手を止める。
「あぁあんっ、ッ、んあっ……きもちっ、い……!」
うわ、アヤの声エロいな。なんかこう腰にクるというか、余裕で勃つというか。多分あれだ。実際に誰かの性行為を生で聞くのなんて初めてだから興味があるだけ。オープンなアヤだから気まずさも一切感じない。
女の子になりたい。いつもそう話すアヤは、実はRの売り上げNo.1男優だったりするそうで。社長や佐伯さんともかなり昔から知り合いらしく、Rの創立当初から残るただ一人の初期メンバー。
女よりも女の子らしく。その信念というか生き様は尊敬するほどで。あと徹底してイケメンにしか媚びないその生き様も凄く尊敬する。
「アあんっ、おにいさっ、ひぁあっ! しゅ、ごいぃっ……! ああっ、あンっ……! おっきいぃっ! やああっ!」
「……ッ、」
解った。これだ。ただの興味なんかじゃない。アヤの声と言葉。これに俺の雄が刺激されている。
「お兄、さあんっ……! あぁあっ、もっと、あああんっ! もっとおぉっ!」
何だろう、この声。エロい。エロい。もっとよく聞け。探さないと。何が違うんだ。No.1の声。
俺と、何が違うんだ。
――――――
「はあっスッキリしたあ。ちいちゃんありがとねーっ」
「う、ん、お疲れ様」
「あっ、お兄さんまたねーっ!」
酔いが冷めたのか、気まずそうにそそくさと部屋を出て行く男にぶんぶんと手を振るアヤ。結局最後まで聞き耳を立ててしまった。ため息をつきながらベッドから立ち上がる。
でもアヤの声を聞いて、かなり勉強になった。エロく可愛く、聞いてるこっちまで興奮するような喘ぎ方。まあそれが解った所で実践出来るかが問題なんだけど。ヤってる最中に喘ぎ声を気にする余裕なんて俺には無い。
「アヤなんか飲む? 麦茶しか無いけど……う、わっ!?」
「あのね、さっきのお兄さん二回戦出来なかったの。中途半端で気持ち悪いの」
ぐい、と腕を引っ張られ、ベッドに仰向けに押し倒される。混乱して動けない俺ににっこりと笑みを向け、羽織っているパーカーのポケットからピンクのボトルを取り出すアヤ。
パチン、とキャップの外れた音に目を向けると、高い地点からゆっくりと傾けられるボトル。
「……ローション?」
「せいかーいっ」
寝巻きにしているTシャツの上にトロリと垂らされたそれにビクリと肩を揺らす。
「ちいちゃん、」
「っ、は、はい!?」
「アヤと一緒に、キモチイイ事しよ……?」
――――――
「んあっ、は、んんうっ……」
「んんっあぁん、きもち、んっ」
こすり合わせているそこは、ローションとお互いの先走りでもうぐちゃぐちゃ。俺はさっきから射精の波を何度も我慢してるのに、アヤはまだ全然そんな気配も無く快感を楽しんでいる。
「んんっ、ああっ……! んっ、やあぁっ……っ!」
「ああんっちいちゃっ……、きもちっ、イイよおっ、ンあぁっ!」
キモチイイ、なんて。何を。最初こそはお互いに扱き合ってたけど、俺にはもうそんな余裕無くて。それでも気持ち良いなんてさすが。No.1の演技。
そんな事をぼんやり考えていられたのもそこまでで。
「んっ……ちいちゃ、手、止まってるよ……?」
「アあぁあっ、んんっ! んっ、」
クスクス笑って、誘うみたいに下から覗き込まれる。何でそんな余裕なんだよ。俺なんて、もうこんなに……。
多分もうイキそうな顔してる。見られたくなくてアヤにギュッと抱きついて耐えていると急に手が速くなって、
「やあっ、アヤっ……! だめッ、いっ……! やああっ!」
「ああんっ、はあっ、ちいちゃんいいよっ、んあっ……出してえっ? ああっ、」
「だめ、だめっ、あああぁアッ……っ、は、あああんっ、やあ、はあっ、」
煌びやかなデザインのネイルが光る華奢な指先で先端をぐりぐりと刺激され、あっさり果てた俺にアヤはうっとりと目を細める。
「はあっ、ちいちゃん可愛い…みるく、いっぱあい……んっ、ちゅぱっ、んんっ」
「っ、や、アヤっ……んっ、」
何、アヤ、エロい、エロい、
こちらを上目遣いで見ながら指に付いた白濁を舐めとる赤い舌に、イったばかりのモノがまた反応するのが解った。
「んっ、ちいちゃん可愛いっ……んんっ、続きするよ?」
「あっ、んんっ……やああん、んっ、」
「アヤももうちょっとなの、ああんっ……やばぁい、きもちいっ」
もうちょっと。ぼーっと膜がかかった頭の中でかろうじて聞き取ったその言葉に、ただアヤの手に重ねられているだけだった右手にぐっと力を入れる。
「ひゃああっ! ちいちゃっ、あぁあんっ!」
「んっ……、あっ、ああんっ、ああっ!」
馬鹿みたいに力の抜けた手はだるくて重いけど、それでもなんとか上下に動かす。
いつもそう。俺ばっかり気持ち良くて、ただ喘いでるだけ。それだけで誉められて、ちやほやされて、調子に乗ってる。AV男優なんて楽勝だなって。ただ気持ち良くなってるだけで金が入るんだから。
でも違う。そんなんじゃ駄目。
画面越しの誰かに興奮して貰って初めて作品になるんだから。俺も何かを魅せなきゃいけないんだ。一ヶ月の研修ではちっとも気付かなかった事が、アヤのおかげでようやく解ってきた気がした。
「やああン、っ、ちいちゃ、きもちっ……あぁあっ、出ちゃう、イっちゃううぅ!」
「あ、ああっ、もっ、むり……っ、アヤっ、あああンっ……!」
「あんっ! イくうぅっ! あああんっ! 出っ、ああああぁんっ!」
ああ、良かった。アヤも気持ちよくなってくれたんだ。手のひらに混ざった精液を見て、なんだか無性に嬉しくなった。
――――――
「ちいちゃんなんか飲む~? 麦茶しか無いけどねっ」
「うるせぇばか俺の部屋だ」
冷蔵庫から勝手に麦茶を取り出して、こくこくと可愛く喉を鳴らすアヤ。ちくしょう、なんでそんなピンピンしてんだよ。俺なんかだるい身体で寝返りをうつのが精一杯なのに。
「あースッキリしたあっ。ちいちゃんの出てる作品見てからずっとヤりたかったんだあっ。お互いネコだからえっちは出来ないけど」
「俺も勉強になりました……」
「ちいちゃん疲れてるっ。弱っちいなあ~。アヤまだあと5回はイけるよーっ」
「うるせぇばか……いつか絶対売り上げ超えてNo.1から引きずり落としてやる……」
そう呟くと、アヤは少し目を丸くした後クスクスと笑った。
「うんっ。待ってるね!」
むかつく! そう言い返そうと顔を上げたら、目の前のアヤは本当に楽しそうにニコニコ笑っていたので、諦めてまたベッドに顔をうずめた。
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