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「じゃあ断ればいいじゃん」

「アヤ、俺彼女居るんすけど」 「ハイハイそーですね。竹内くんちょっとアヤのバッグ取ってー」 「返事適当すぎません?」  何度も何度も身体を重ねるたびに、何度も何度も同じ台詞を聞かされれば適当にだってなる。  だいたいそれはベッドに入る前に言う台詞だろ。この情事後の気だるい雰囲気の中で吐くなんて、そっちだって段々適当になってるじゃん。 「彼女にメール送っとこーっと」 「……」  それでも毎回飽きずにあからさまな態度で彼女の影をちらつかせてくる。普段は女の話なんてしないくせに。  まるで、“ある一線”を何度も何度も再確認させられているようで。 「……そんな警戒しなくたって、アヤはただエッチがしたいだけだから安心してよ」 「それも問題っすよね。俺セフレなんていらんし」 「じゃあ断ればいいじゃん」 「断ったって聞かないくせに」  確かにそうだけどさ。彼女が居る事知ってて手を出したのはアヤだし、最初は持ってた後悔や罪悪感を麻痺させちゃったのもアヤだし。この件はどうやってもアヤが悪者になっちゃう。  でもさ、 「もう終わりっすか?」  アヤから逃げ出そうとしない竹内くんだって、同罪だと思う。 「……」  手渡されたバッグから、ピンクのポーチを取り出す。中を開けば、いっぱいに詰め込まれた大量の錠剤。精神安定剤。  飲み慣れたそれはとっくに効果を無くして、ただの気休めにしかならないけど。  でも、アヤにはもうこの生き方しかないから。強くて可愛いいつものアヤ、を維持するためには、もうこの小さな錠剤に頼るしかないから。  適当に掴んだ7、8錠を口に放り込み、ベッドサイドに置かれた酒で無理やり流し込んで。 「誰に言ってんの?アヤの夜に、終わりなんてあるわけないじゃん」 「はは、そういう所好き……」  好き、  唇が重なる直前に囁かれた甘い声に、一瞬反応しそうになった自分を叱りながら、深く深く舌を絡める。  アヤにはそんな言葉、必要ない。  好きとか嫌いとか彼女とか彼氏とか。どうでもいいし、誰でもいい。  愛してくれなくても我慢するから。  だから、お願い。  誰でもいいから、アヤを抱きしめて。

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